足の踏み場のない部屋「実家に帰るたびに、ごみ屋敷に近づいている……」
親が高齢になると、頭を悩ますのが「実家の片付け」ではないだろうか。親が元気で健康なうちは、実家に置いている荷物もそのままにしておけるが、もしも病院や介護施設に入ったり、亡くなったりした場合には、自分たちで実家を片付けなければならない。
まさにその問題に直面したのが私(池守りぜね)だ。冒頭の言葉が、実家に帰るといつも頭に浮かんでいた。そもそも実家とは言いつつも、実際には父の独居であり家族が縁もゆかりもない土地だった。私の現在の住まいからは、電車やバスを乗り継いで1時間半かかる。なぜそのような場所に父が流れ着いたのかといえば、少々面倒な事情があった。
◆家族3人で住んでいた一軒家から2DKへ
今から約20年前に、父は家族3人で暮らしていた一軒家(45平米)から2DKの集合住宅に引っ越した。一軒家には、私が高校生の頃に家出した母の衣服や、就職して家を出た私の荷物がそのままになっていた。
父と母は平成最後の年に協議離婚するまでずっと戸籍上は夫婦のままだった。母は別の場所で新しいパートナーと暮らしながらも、父は「戻ってきた時のために」と荷物をそのままにしていた。
結局、私も母も家族で暮らした一軒家に戻ることはなかった。しかし、一時帰宅をしていた母が近隣トラブルを起こしたために、すぐに一軒家から引っ越すことになった。父は無理やり家族3人分の荷物とともに、2DKに引っ越した。
これまで父の仕事の都合で全国各地10回ほど引っ越しをしていたために、開けていない50個ほどの大量の段ボールも新居に持っていった。引っ越し業者が単身の引っ越しと勘違いしたため、家族3人分の荷物がトラックに乗り切らず、追加のトラックを出すはめになった。
何事にも大雑把な父は、とにかく荷物がすべて部屋に入ればいいとしたため、部屋中が段ボールで埋め尽くされ、Amazonの倉庫のようになった。段ボールのすき間を縫うように歩き、わずかなスペースに寝袋を敷いて父は寝ていた。
まさにごみ屋敷へのカウントダウンが始まっていた。
◆寂しさから、隙間を埋めるために“ごみ”を拾う父
そこに拍車をかけるように、父はごみを拾ってくる癖があった(*違法になる可能性があるので真似しないように注意してください)。
父のごみ拾いの片鱗は、私が中学生の頃からあった。その当時、父は単身赴任だったため、我々家族は東北地方と関東と離れて暮らしていた。ある時、父の家に行くと、壊れたギターのアンプや、本などで一部屋がごみで埋まっていた。
本来なら単身赴任ではなく家族で引っ越すはずだったのだが、母に恋人がいたために建前上は私が転校しないで済むようにという理由で母は父と別居していた。今にして思えば、母の異変に薄々気づいていたはずの父は、その寂しさから家族が住むはずだったスペースに拾ってきたごみを置いていたのだ。結局、その頃のごみの一部も、一軒家からの引っ越しで実家に運ばれた。
◆父の独居にはゴキブリが…
父が住む家には、年に数回ほど帰っていた。帰るたびに今度は古書が増えていた。嫌な予感がして聞いてみると、集合住宅のごみ捨て場に古書を捨てる住人がいたそうだ。
気になって拾おうとしたら、持ち主から声を掛けられたという。生前整理のために処分していた持ち主から、直接譲ってもらうことになった。その量もトータルで百冊くらいあり、家の中が古書で溢れていた。
掃除機をかけているのを見たことがなかった父の家に泊まると、深夜にカサカサという音が……。嫌な予感がして目を覚ますとゴキブリがうごめいていた。眠れず目を覚まし、台所のシンクに行くと今度は皿のあたりをゴキブリがこんにちはしていた……。床が見えないぐらいに汚部屋状態なうえに、ごみも拾ってきているのだから仕方ない。
そんな父の家も見てみぬふりをしていた。しかし、一昨年前に母が急逝し、続くように今度は父がすい臓がんと診断され、余命宣告を受けた。父は治療の成果があり一人暮らしを続けているが、医師からもしもの時のために、私の家の近所に引っ越すように言われた。そこで、「お片付けブラザーズ」という芸人さんがスタッフの生前整理サービスの業者に依頼し、実家の片づけを始めた。業者に依頼する場合は、費用がネックになると思うので複数の見積もりを取った方がよい。
◆ごみ屋敷も生前整理ですっきり
我が家の場合は、2DKの一部屋がほぼ段ボールで埋まっていたため、その部屋から片づけを始めた。すべての段ボールや、タンスの中身、棚の引き出しなどをすべて出して、「いるもの・いらないもの」を確認して選別する。この作業が一番大変で時間がかかった。
とはいえ、ほとんどが私の荷物だったので、兄弟や家族がいる人と比べると、物の「いる・いらない」の判断をするのが自分一人で済んだのは楽だったかもしれない。
ちなみに段ボールの中身を確認せずに一括で破棄する方法を選ぶと、費用も抑えられる。業者に頼むと、日数や作業員の人数で費用が決まるので、できる限り不用品が少ない方が安く済ませられる。
業者さんによると、そこが遺品整理との違いで、遺品だとほぼ一括で処分することを選ぶ家族が多いそうだ。我が家の場合は、タンスやテーブルなどの自分たちで処分するには大変な大型家具の処分も業者に依頼したので、粗大ごみの処分代などもかかった。車の運転や、家族で家具の搬出ができれば業者に頼まないで、ある程度は生前整理ができるだろう。ただ、短期間で一気に片づけるのなら業者に頼んだ方が効率的だと感じた。
生前整理は自分の過去のものや、家族のものを捨てなければならないので気持ちが落ち込むこともあった。だからこそ業者を利用するのなら、挨拶が明るく元気なスタッフが良いと思った。スタッフが芸人さんだったので、父が病気という中での片付けでも湿っぽくならずに済んだ。
◆5日間にわたる生前整理でわかったこと
生前整理を行って良かったと思ったのは、自分の子どもの頃の写真や図工の作品などが出てきて、それがきっかけで親と懐かしい時間も過ごせたことだ。また実家から出てきた70年代のジーンズや、私が集めていたテレフォンカードなど、意外なものがフリマサイトで売れたりもした。最近はレトロブームもあるので、懐かしいものがちょっとしたお小遣い稼ぎにもなるかもしれない。
「いつかやろう」と思い始めてから10年ほど放置していたが、実家の生前整理が終わって気持ちが楽になった。また大型家具もすべて処分したので、家具転倒の心配もなくなった。必要に迫られないとなかなか生前整理を始められないが、実家と距離がある場合は行き来するだけでも時間も体力も使う。また、実際の作業の過程で大量の「いる・いらない」という判断を行って気づいたのだが、非常に頭を使う。片付けが終わった後は頭痛がして体調に変化をきたした。
結局、我が家の場合は2DKの片づけで、ごみの搬出もあわせて5日間かかった。生前整理は肉体的にも精神的にも体力が必要だったので、親も自分も元気なうちにやった方がいいと、この経験から伝えたい。
<文/池守りぜね>
【池守りぜね】
出版社やWeb媒体の編集者を経て、フリーライターに。趣味はプロレス観戦。ライブハウスに通い続けて四半世紀以上。家族で音楽フェスに行くのが幸せ。X(旧Twitter):@rizeneration