【MLB】サイ・ヤング賞まっしぐらの山本由伸と違和感を言い出せなかった佐々木朗希――明暗分かれた日本人先発投手

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2025年05月21日 07:20  webスポルティーバ

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前編:ドジャース日本人3投手の現在地

ロサンゼルス・ドジャースに所属する3人の日本人投手――山本由伸、佐々木朗希、大谷翔平は、今季、同じユニフォームに袖を通し、世界一を目指している。しかし、それぞれの立場と置かれた状況は大きく異なる。

山本はすでにエースとしての地位を築きつつあり、安定した投球でローテーションの柱となっている。佐々木は肩の不調により、長期離脱の可能性すらある不透明な状況だ。

【山本をメジャー最高級の投手たらしめる脅威のスプリッター】

 山本はエースとしての存在感を高めている。今季はチーム最多の9試合に先発し、51イニングを投げて5勝3敗、防御率2.12という安定した成績。フィラデルフィア・フィリーズのザック・ウィーラーやサンフランシスコ・ジャイアンツのローガン・ウェブらとともに、ナ・リーグのサイ・ヤング賞争いのトップグループに名を連ねている。

 これまでのベストゲームは、4月18日(日本時間19日)のテキサス・レンジャーズ戦だ。7回を投げて5安打10奪三振、サイ・ヤング賞を2度受賞しているジェイコブ・デグロムとの投げ合いを制した。

「すばらしい投手と投げ合えるのは自分自身うれしく思いますし、より気を引き締めて、ひとつのミスもしないように心掛けて投げました」と、山本は試合後に語った。また、デーブ・ロバーツ監督が山本を「現時点でナ・リーグ最高の投手」と称賛したことについては、「評価していただけるのはすごくうれしいですし、監督やコーチにもたくさん褒めていただいているので、やりがいを感じます。もっともっと良いピッチングを目指して頑張っていきたいです」と意欲を語っていた。

【カーショーが絶賛する山本のピッチング技術】

 MLB公式サイトのデータ分析サイト「MLB Savant」を元にすると、山本の投球でまず特筆すべきは、空振り率45.3%を誇るスプリッターだ。打者がこの球を捉えた際の平均打球角度はマイナス14度。つまり、たとえバットに当たっても、打球は地面に叩きつけられ、ゴロになるケースがほとんど。被打率はわずか.090。この有効な決め球の存在によって、山本はスプリッターの使用率を2024年の約24%から、今季は約29%にまで引き上げている。

 加えて、ほかの3つの主要球種もレベルアップしている。フォーシームは「ライド(浮き上がるような軌道)」が増し、打者の手元で伸びるような印象を与える。カーブは昨年よりも縦の変化が大きくなり、リリースポイントから打者に届くまでに約162センチも落下する。カッターは91マイル(145.6キロ)の球速で、96マイル(153.6キロ)のフォーシームと86マイル(137.6キロ)のスライダーの中間に位置する。今季はこのカッターの横変化もさらに7.6センチ広がり、より打者を幻惑する球となっている。

 そして山本の最大の強みは、これらの球種を明確な意図を持って、狙ったコースに正確に投げ分けられる点にある。たとえばフォーシームは、ストライクゾーンの端ギリギリに投げ込むことができる。打者がスプリッターを警戒している状況では、フォーシームで見逃し三振を奪うこともできる。また、スプリッターもゾーン内に制球して見逃しを誘うことも、ゾーン外に落として空振りを取ることも可能で、打者は速球との見極めが非常に難しい。

 メジャー2年目にして、山本はすでに世界最高クラスの投手へと成長を遂げた。日本で沢村賞を3度受賞した右腕が、今度はメジャーでサイ・ヤング賞を手にする可能性が日に日に高まっている。

 過去3回サイ・ヤング賞を獲得しているチームメートのクレイトン・カーショーは、テキサス・レンジャーズ戦での山本とジェイコブ・デグロムの投げ合いを見て、こう称賛した。

「あれがピッチングというものだよ。滑らかで、無理のない動き。そして腕からボールが離れるときの感覚。投げるという行為は本来、ああでなければいけない。デグロムとヤマ(山本)は、それをいとも簡単にやってのける。だからこそ、彼らは最高の投手なんだ」

 山本は4月、サイ・ヤング賞を意識しているかと問われ、「これまで日本人選手が受賞したことがないと聞いているので、とても興味があります」と語ったうえで、「とにかく1試合1試合に集中して、ベストのパフォーマンスを出すことが、そういったすばらしい賞につながると思うので、毎日を大事に頑張ります」と、目標の一つであることを認めた。

【監督が分析する違和感を言い出せなかった佐々木の真意】

 対照的に、佐々木朗希は5月13日、右肩のインピンジメント症候群(関節、腱、筋肉などの組織が骨と衝突したり、狭い空間で擦れたりすることで痛みや機能障害が生じる症状)により負傷者リスト(IL)入りし、現時点では復帰の目処が立っていない。ドジャースと契約する前、佐々木は「100マイル(160キロ)超の速球を取り戻すための課題(宿題)」を各球団に提示したことで知られており、それもあって今季は彼のストレートに注目が集まっていた。春季キャンプでは、ドジャースのコーチ陣とともにフォームの修正に取り組み、東京ドームでのメジャーデビュー戦では101マイル(約162.5キロ)を記録した。

 しかし、その後は100マイルを超える球速が見られず、第4戦となったシカゴ・カブス戦の登板以降は98マイル(156.8キロ)すら計測されなかった。5月9日のアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦では、最速97.5マイル(156キロ)にとどまり、ストレートで空振りを奪うこともできなかった。この試合では4回5失点と、苦しい内容に終わった。

 そして13日の夜、ロバーツ監督は「朗希はここ数週間、肩に違和感を抱えながら投げていたが、直近の登板を終えるまで球団には報告していなかった」と明かした。12日に受けたMRI検査で右肩のインピンジメント症候群が判明し、正式に負傷者リスト(IL)入りが決まった。

 問題は、チームと佐々木の間で十分なコミュニケーションが取れていなかったこと。球団は佐々木が肩に違和感を抱えていたことを知らなかったため、5月9日のダイヤモンドバックス戦では、これまでの中6日ではなく、中5日での登板を初めて課すことになった。

 ロバーツ監督は、佐々木が違和感を申告しなかった理由についてこう推測する。

「朗希は非常に競争心が強く、チームの力になりたいという思いも強い。投手陣が疲弊していることも理解していて、自分のコンディションは自分でコントロールできると思っていたのだろう」

 しかし結果は、登板内容は安定性を欠き、球速も落ちていた。

「こうしたケースは朗希に限ったことではなく、多くの選手が自身の体調や症状について正直に伝えないことがある。だが、コミュニケーションは双方向であるべきだ。選手が何も言わなければ、我々には状況を把握する術がない。今回の件を通じて、朗希には率直に伝える大切さを学んでほしい。もし彼があの段階でオープンに伝えてくれていれば、我々には(登板回避など)さまざまな選択肢があった。これは彼にとって大きな学びになったはず」と、ロバーツ監督は苦言を呈した。

 佐々木はここまで8試合に先発し、1勝1敗、防御率4.72。34回1/3を投げ、奪三振24、与四球22という成績だった。

 佐々木の獲得を主導したアンドリュー・フリードマン編成本部長は、「我々は彼が世界最高の投手のひとりになると強く信じている。今は何よりも健康と強靭さを取り戻すことが大切。復帰に向けて一緒に取り組んでいこうと、励ましの言葉をかけた」と明かしている。

 ただし、今季中にチームの優勝に貢献するのは、現実的に難しいかもしれない。佐々木は今後、肩の炎症が完全に引くまでボールを握ることはなく、リハビリに専念する方針だ。5月17日には、外野でコンディショニングコーチとともに下半身のトレーニングに励む姿が見られた。クラブハウスで見かける彼の体つきは、ほかのメジャーリーガーと比べて明らかに線が細く感じられる。今後は身体づくりから見直していく必要があるのかもしれない。

つづく

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