【MLB】大谷翔平が目指す二刀流でのワールドシリーズ出場 ベーブ・ルースを超える可能性はあるか?

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2025年05月21日 07:31  webスポルティーバ

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後編:ドジャース日本人3投手の現在地

ロサンゼルス・ドジャースに所属する3人の日本人投手――山本由伸はメジャートップクラスの活躍を見せ、佐々木朗希が故障者リスト入りするなど苦労するなか、極めて興味深いポジションにいるのが大谷翔平だ。

現在は打者としてエンジンがかかり始めチームの主砲として打撃面で圧倒的な存在感を放ちながら、2023年8月以来となるメジャーのマウンド復帰を目指し、投手としての貢献も視野に入れて調整を進めている。

もし、大谷が今季、二刀流としてチームをワールドシリーズ制覇へ導くことができれば、それは1918年のベーブ・ルース(ボストン・レッドソックス時代)以来、MLBの長い歴史のなかでわずかふたり目の快挙となる。

【超一流の打撃成績を残しながら投手復帰へ着実な過程】

 大谷翔平はDHとして今季もMVPを狙える好成績を残しており、本塁打17本はメジャー全30球団で単独トップ。51得点もリーグ最多で、盗塁もチーム最多の10個を記録している。まさにドジャース打線の牽引役だ。

 通常、これだけの貢献をしている選手に対し、シーズン中に新たな挑戦をさせることはない。負傷のリスクや、疲労による打撃への悪影響を考えれば、チームにとって大きな損失となる恐れがあるからだ。

 しかし大谷は、MLB史上でも極めて稀な存在であり、二刀流で2度MVPを受賞した唯一無二の選手だ。そして本人が、投手としての復帰に向けて全力で取り組んでいる。現在は毎週水曜日と土曜日にブルペン入りし、徐々に投球強度を上げている。

 5月17日の試合前には、術後最多となる50球のブルペン投球を行なった。実戦を想定し、25球投げたあとにインターバルを挟み、再び25球。セットポジションやクイックモーションからの投球も取り入れていた。

 ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、大谷の調整について「投手コーチの話では、今回も非常によかったそうです。順調に前進できている」とコメント。一方で、打者を相手にした実戦形式の登板(ライブBP)の準備状況について問われると、「その段階にはまだ入っていません」と述べるにとどめた。現時点では、大谷の投手としての実戦復帰はオールスター後になると見られている。

 大谷は、投手としての調整について、4月の時点で次のように語っていた。「ブルペンは順調にきていると思います。ライブBPに入ったらペースが変わるので、そこは臨機応変に対応したいです」と話し、実戦形式の投球に向けた心構えを示していた。

 ライブBPを始める時期については、「投げる球種や球速にまだ制限がある段階なので、そこはドクターやチームのスタッフと相談して決めることになります。自分の感覚的にはすごくよい状態なので、そう遠くないうちに始めたいと個人的には思っています」と前向きな姿勢を見せていた。

 しかしながら、前述のとおりドジャース側は極めて慎重。ドジャースに制限をかけられているのかと問われた大谷は、「ドジャースの制限というよりは、ドジャースがチームドクターと話しながら決めていること。手術を担当してくれた医師の方が、2回目の手術ということもあり、慎重に進めたほうがいいという考えで、自分としてもそれに沿ってやっていきたいと思う」。

 ブルペンでの投球における「球種の制限」については、「今の段階で投げない方がいいとされている球種もあります。スイーパー系ですね。制限がかかって当然かと思います。今のところはファーストボール系の球種になりますが、その精度を高めていくことが、次の球種に移る際にスムーズな移行につながると思います」と説明した。

 直近の5月17日のブルペンでは、フォーシーム、ツーシーム、スプリット、カッターだけを投げている。

【慎重に慎重を期して復帰はシーズン後半】

 チームが慎重になるのは当然のことだ。トミー・ジョン手術からの復帰は決して容易ではなく、実際、大谷自身も2020年にカムバックを試みた際には苦い経験をした。大谷は2試合に先発登板したものの、合計わずか1回2/3しか投げられず、3安打、8四球、そして防御率は37.80という悲惨な結果に終わった。その投球不振は打撃にも悪影響を及ぼし、同年の打率は.190、OPS(出塁率+超打率)は.657と、メジャー8年間で最低の成績に沈んだ。

 とはいえ、大谷翔平はこれまで何度も不可能を可能にした特別な野球選手だ。型にはまらない創造者――それこそが最大の魅力である。

 私たちメディアも、そしてファンも、大谷がシーズン終盤の激しいペナントレースのなかで、二刀流として躍動する姿を見たいと願っている。そして何より、大谷本人がその実現に向けて着実に準備を進めている。

 参考までに、1918年のベーブ・ルースはどのようにプレーしていたのか――。ルースは当時、打者として主に4番を務め、11本塁打で本塁打王に輝き、OPS.966もリーグトップの数字だった。投手としても13勝7敗、防御率2.22という見事な成績を残している。当時のポストシーズンはワールドシリーズのみだったが、ルースはシリーズで2試合に先発登板し、計17イニングを投げてわずか2失点。防御率1.06、2勝を挙げている。登板した2試合の打順はそれぞれ9番と6番で、打撃成績は5打数1安打。その1本は三塁打で、2打点を記録している。

 なお、投げない試合ではスタメンを外れ、シリーズを決めた第6戦のみ途中出場して左翼の守備に就いた。これは当時のレッドソックスの監督との間で交わされた「ポストシーズンは投手専念」という約束によるものだった。

 果たして、ドジャースは連覇を達成するために、二刀流の大谷翔平をどのように起用していくのだろうか。投げる場合は先発としてか、それともWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のときのようなリリーフ起用か?

 現時点で明確なのは、大谷を優勝争いが本格化するシーズン終盤、そしてポストシーズンの投手の切り札として位置づけているということだ。ロバーツ監督は、「ゴールは、シーズン終盤から10月にかけて全開でいられること」と語っており、5月18日に会見したアンドリュー・フリードマン編成本部長も「10月の戦いを見据えている」と説明している。

【ドジャース投手陣の台所事情は復帰時期に影響?】

 もっとも、今のドジャースの投手事情を見れば、そう悠長なことを言っていられない可能性もある。山本由伸はすばらしい活躍を見せているが、ほかの先発陣は不安要素が多い。

 昨オフに大型契約で獲得したブレーク・スネルは、わずか2試合に登板しただけで肩を痛めて故障者リスト(IL)入り。タイラー・グラスノーも5試合登板後に離脱している。

 37歳のクレイトン・カーショーは、5月17日に復帰登板を果たしたが、4回5失点と結果は振るわなかった。ケガを抱えていない先発陣も安定感を欠いている。ダスティン・メイは今季8試合に先発し、1勝4敗、防御率4.43。トニー・ゴンソリンも4試合で防御率4.05と、やや精彩を欠く。その影響で、ドジャースの先発投手による総イニング数はわずか215回1/3にとどまり、メジャー30球団中最下位タイという状況に陥っている。先発の消耗を補う形でブルペンへの負担が増し、そのブルペンも次第に打ち込まれ始めている。チーム全体の防御率は4.18で、MLB全体の21位と低迷している。

 こうした状況に、編成本部長のアンドリュー・フリードマンも頭を抱えている。5月18日の会見では、苦しい胸の内を明かした。

「オフシーズンには先発投手陣を万全に整えるために補強を行ない、このシーズン中に復帰すると見込んでいた選手も複数いた。それなのに、次々と故障者が出てしまっている。夜も眠れないほど『何ができるのか』と考え込んでしまうし、本当に歯がゆい。次から次へと現れる問題を、もぐら叩きのようにどう潰していくか――頭の中はそのことでいっぱいです」

 だからこそ、大谷について「10月の戦いを見据えている」と説明していたが、それまでに起用せざるを得なくなる可能性もある。

 そもそもトミー・ジョン手術から復帰する投手には、実戦で登板を重ねながら徐々に状態を上げていくという過程がある。昨年、ワールドシリーズでヒーローとなったウォーカー・ビューラー(現ボストン・レッドソックス)も、レギュラーシーズンでは16試合に先発しながら、防御率は5.38と苦しんだ。今年のドジャースは、8月に地区のライバルであるサンディエゴ・パドレスやアリゾナ・ダイヤモンドバックスとの対戦が多く組まれており、9月には宿敵サンフランシスコ・ジャイアンツとの大一番も控えている。

 そうした重要な試合に登板しながら、本当にコンディションを上げていけるのか。そして、投手としての登板がDHとしての役割に支障をきたすことはないのか――懸念は尽きない。だが、それでもなお、大谷翔平ならば、そうした困難な状況の中で、新たな伝説を作ってくれるのではないか――そんな期待を抱かずにはいられない。

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