
ゴールデングランプリ(以下GGP)はワールドアスレティックスコンチネンタルツアーの中でも、今季は12大会のみに与えられた「ゴールド」ランクの競技会。東京五輪会場だった国立競技場で5月18日に開催され、男子110mハードルは村竹ラシッド(23、JAL)が13秒16(向かい風1.1m)で、3000m障害は三浦龍司(23、SUBARU)が8分18秒96で優勝。4月に東京2025世界陸上代表内定を決めた2選手が強さを見せた。順大の同級生でもある2人の特徴がGGPのどんなところに現れ、今後の課題としては何が明らかになったのだろうか。
【一覧】9月13日開幕『東京2025世界陸上』日程&出場選手
障害技術の上手さとラストの強さを見せた三浦龍司記録的には良くなかったが、三浦が期待通りの勝ち方を見せた。
ミルケサ・フィカドゥ(20、エチオピア)は自己記録こそ8分21秒25だが、昨年のエチオピア選手権優勝時に8分ヒト桁台の記録を持つ2選手に勝っている。そのうちの1人は、4月26日のダイヤモンドリーグ厦門大会で三浦に勝った選手だ。長身を生かした走りで、障害の前でもスムーズなストライドで走る。残り1周半で前に出られたときは、嫌な予感もよぎった。
だが、それは稀有に終わった。
最後の1周のバックストレートで三浦が強烈にスパート。走りの部分で2〜3mリードを奪った。バックストレートではフィカドゥも良いハードリングを見せ、一時は三浦との差を詰めたようにも見えた。だが水濠の着地でバランスを崩し、三浦がリードを4〜5mへと広げた。そしてホームストレートの最後の障害では、フィカドゥは足が合わずに障害の手前で小刻みに走るハードリングで減速。三浦が1秒14差(約10m差)で快勝した。
三浦は昨年のパリ五輪8位と、7位だった東京五輪に続いて入賞した。パリ五輪入賞者は今年に入ってからの世界陸上参加標準記録突破で代表に内定する。三浦は4月のダイヤモンドリーグ厦門大会で8分10秒11(6位)をマーク。8分15秒00の標準記録を突破し代表に内定したが、予定していたダイヤモンドリーグ上海紹興大会は、右脚に軽い痛みが出て欠場していた。
「コンディション不良で練習が思うようにできていなかったので、状態を確認することも目的でした。前半はペースメーカーが引っ張ってくれたので、障害との距離感や、レース勘などを取り戻すことを意識しました。最後はラストスパートだったり、動きのキレを確かめました。ラストはもう少し切り換えたかったのですが、それはこれからの練習次第で戻ってくると思っています」。
故障明けということでタイムまでは望めなかったが、「大まかにはOK」だと確認できた。
スタートを得意とする野本周成(29、愛媛競技力本部)が1〜3台目は村竹と並んでいたが、4台目からは村竹が抜け出した。右隣のディラン・ビアード(26、米国)が中盤で、村竹の順大の後輩である阿部竜希(21、順大)が終盤で2位に上がったが、村竹に肉薄するまでには至らなかった。
村竹もパリ五輪5位入賞者。三浦と同様にダイヤモンドリーグ厦門大会で13秒14(2位/追い風0.3m)と標準記録(13秒27)を突破し、世界陸上代表に内定した。上海紹興大会も13秒10(追い風0.6m)の2位と、海外自己新を連発した。GGPでは「(日本人初の)12秒台」を目標とし、「最低でも13秒0台」を自身に課していた。
だが記録は13秒16。自己6番目で五輪&世界陸上でも十分入賞できるレベルだが、レース後の村竹は「遅かったです。不本意です」と落胆していた。記録を出せなかった要因としては、「攻めすぎた」ことを挙げた。
「思った以上にスタートから1、2歩目が踏めて、練習の時より1台目までの重心が低くなってしまいました。そこから一気に重心を引き上げましたが間に合わなかった感じだと思います。前半は立て直せませんでした。後半は上海紹興大会より刻めたかなと思うのですが、10台目の踏み切りが遠くなって、ハードルに当ててしまいました。もったいなかったです」。
|
|
そもそも重心の低さは、ハードリングにおける村竹の特徴である。ハードルを低い重心で越えて行くことで、上下動が少なくロスのない動きになる。他の選手との差を生んでいく部分である。
目標が高かった分、GGPでの課題への達成度は三浦よりも低くなった。だが失敗しても13秒16を出したことは、世界から見た村竹の評価を間違いなく上昇させた。
三浦、村竹とも4月に出した記録は過去最高だった。
三浦の24年の月別最高記録は以下のように推移した。
4月:8分22秒07<25年:8分10秒11>
5月:8分13秒96<25年:8分18秒96>
6月:8分10秒52
7月:8分11秒72
村竹の24年の月別最高記録は以下の通りだ。
4月:13秒29(-0.6m)<25年:13秒14(+0.3m)>
5月:13秒22(-0.6m)<25年:13秒10(+0.6m)>
6月:13秒07(+0.2m)
7月:13秒15(+0.1m)
8月:13秒21(-0.1m)
9月:13秒14(-0.5m)
注意しないといけないのは試合の出場パターンが、今年は違っていることだ。昨年の2人は4〜6月まで、学生時代の延長で国内レースに出場していた。それが今年は、初戦からいきなりダイヤモンドリーグになっている。小さな故障や体調不良の有無も、関わってくる。4月の記録が三浦であれば10秒以上良いからといって、シーズンベストも10秒良くなるわけではない。
それでも三浦自身は手応えを感じている。
「厦門大会で思っていた以上のタイムが出ましたし、前半の試合は動きにも少し余裕がありました。それが例年のようにシーズン後半につながって、障害との距離感が上手くできたり体のキレが上がったりしてくれば、しっかりと記録が出せるんじゃないかと思います」。
|
|
村竹も自身の気持ちを切り替えていた。
「GGPで12秒台を出すつもりでいたので、一度リセットして、ここまでのレースも分析し直します。(5月末の)アジア選手権は優勝は絶対の目標にして、技術的な部分もしっかり達成したいですね」。
9月の世界陸上での大きな目標として、三浦は「表彰台」、村竹は「メダル」を口にした。順大の同級生2人はともに、その種目における日本人初の快挙を見定めている。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)