
前編:駅伝シーズンにつながる中央大の総合力
5月24日、レモンガススタジアム平塚で行なわれる全日本大学駅伝の関東地区推薦校選考会。そのなかで突出した力を誇るのが中央大学だ。
主将の吉居駿恭、日本選手権10000mに学生として唯一出場した本間颯を筆頭に春先から存在感を発揮。近年、駅伝シーズンこそ波があり、今回は選考会に回ってきたが、トラック長距離をベースにチーム力を上げてきた実力に、さらに磨きがかかっている。
箱根駅伝総合優勝を大きな目標に掲げる中大が、まずは全日本選考会でどんな走りを見せるのか。
【圧倒的なトラックでの持ちタイム】
11月の全日本大学駅伝の切符をかけた関東地区推薦校選考会が、例年より約1カ月早く開催される。関東地区の選考会にはシード校を除く20校が参加できるが、エントリータイムで他を圧倒するのが中央大学だ。
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エントリーメンバー13人のうち10000m上位8人の合計タイムは3時間45分22秒02となっており、これは2番目の日本大学よりもなんと3分以上も速い。
そもそも中大は、この選考会に回ってくるようなチームではない。
昨年11月の全日本大学駅伝では、優勝候補の一角に名前が挙がっていたほどだった。その2週間前の箱根駅伝予選会を主力選手数名が回避しており、その期待感はいっそう高まっていた。しかし、本番では序盤から出遅れ、中盤に盛り返したものの、終盤に再び失速し12位に終わった。そこから巻き返し、今年1月の箱根駅伝ではスタート直後から5区途中まで先頭をひた走り、総合5位に入っている。今シーズンは、青山学院大、駒澤大、國學院大、早稲田大と共に、中大を"5強"に挙げる声は多い。
新シーズンを迎えると、主力選手たちが、学生の枠を越えて積極的に日本グランプリシリーズなどハイレベルなレースに出場。好記録が相次いだ。
4月12日の金栗記念選抜陸上中長距離大会では、アメリカ合宿から帰った溜池一太(4年)と岡田開成(2年)がグランプリ種目の5000mに出場。上位フィニッシュはならなかったものの、それぞれ13分35秒33、13分38秒37と好記録で走った。
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そして、併催された日本選手権10000mには、大学生でただひとり、本間颯(3年)が出場した。
「思ったとおりの練習が積めなかったので、後ろからスタートして何もせずに終わるより、しっかりチャレンジしてみようと思って、前のほうで走りました。それで(入賞まで)いければ、それはもうオッケーだし、いけなかったとしても、何か得られるものがあると思ったので」
2月にアキレス腱をケガし復帰の途上での出場となったが、こう振り返るように、積極的に前方でレースを進めた。28分15秒30で11着に終わったが、存在感は十分に示しただろう。
【エース、主将として責務を全うする吉居駿恭】
4月29日の織田幹雄記念国際陸上(広島)ではキャプテン・吉居駿恭(4年)が魅せた。
「自己ベストを狙いたかったのですが、ペースメーカーが(3000m通過が)8分5秒ということだったので、あえて後ろからいって、揉まれながら最後までいくプランでいこうと走りながら考えました。自分はレース展開がうまくないのが課題だったので」
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ペースが設定よりもさらに遅かったこともあり、自己ベスト(13分22秒01)を狙うのは難しいと判断し、勝負に徹した。4000mを過ぎて満を持して先頭に立った吉居は、麗澤大の2人の留学生や石井優樹(NTT西日本)や遠藤日向(住友電工)らとラストスパート合戦を繰り広げ、その勝負に競り勝ち、13分26秒31で連覇を果たした。記録以上にそのレース内容に収穫は大きかった。
「今年1年はチームとして、一つひとつのレースで勝ちきることを意識してやっているので、キャプテンとして、ここでトップでゴールできたことは、チームにプラスになったと思います。これからもチームのみんなに刺激を与えながら、箱根優勝を目指して頑張っていきたいと思っています」
主将の吉居自ら、チームに勢いをもたらす走りとなった。
この冬は溜池と岡田がアメリカ合宿を敢行した一方で、主将の吉居はチームに残った。
昨年2月にイランのテヘランで開催されたアジア室内選手権に出場した(*イラン渡航歴があるとアメリカのビザ免除プログラムを利用できず、特別なビザを取得する必要がある)という事情もあったが、「キャプテンということもあるし、日本での練習も自分に合っていると感じているので」と吉居は言う。
吉居は主将としての責務を全うしようという心構えだ。
「引っ張っていく立場として、甘い部分を自分のなかに出さないというところを意識していて、それは自分にとってもプラスになっていると感じます。でも、『箱根で勝つ』という目標に向けて、まだまだキャプテンとして力不足だなって感じるので、もっと良いキャプテンなるように頑張りたいなと思っています」
役職が人を育てるとはよく言われることだが、このように誓っている。
なお、織田記念には溜池も出場。納得のいく走りとはならなかったものの、この大会も13分37秒12で走り、ハイアベレージをキープしている。1年時から吉居とともに箱根路を経験しているだけに、今季にかける思いは強い。
つづく