「高校野球は入口」 大阪桐蔭・西谷浩一監督目指す、選手たちの人生を見据えた育成とは

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2025年05月23日 18:20  webスポルティーバ

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大阪桐蔭のリアル(前編)

 大阪桐蔭出身者の活躍が目覚ましい。現在18人の選手と3人のコーチが籍を置くNPBでは、2000本安打到達を間近に控えた浅村栄斗(楽天)をはじめ、松尾汐恩(DeNA)、藤原恭大(ロッテ)、泉口友汰(巨人)といった若手選手も台頭し存在感を示している。

 また、東京六大学野球で1年生ながら境亮陽(法政大)が首位打者争いをし、5月5日の早稲田大対立教大戦では徳丸快晴(早稲田大)、村本勇海、丸山一喜(ともに立教大)が本塁打を放つなど、プロアマ問わずそれぞれのステージで力を発揮している。

 そして今年のチームも選抜大会こそ逃したものの、今春の大阪大会を制するなど逆襲の兆しを見せており、森陽樹と中野大虎の両右腕はドラフト候補に挙がり、侍ジャパンU−18代表候補にも選出された。

【部員は1学年20人まで】

 そんな平成と令和の高校野球を代表する強豪校は、いかにして選手たちを育成・強化しているのか。

「一生懸命やる子、上を目指してやっている子が多い。そういう環境に身を置いて、みんなそれぞれが野球だけでなく、社会に出て通用するような心の部分を育てる。そういう風土はあると思います」

 大阪桐蔭の魅力を言葉にすると何なのかを尋ねると、歴代トップとなる甲子園通算70勝の名将・西谷浩一監督はそう答えた。多くの指導者が口にする当たり前のことかもしれないが、それでもその言葉を体現している高校は、はたして全国でどれだけあるのだろうか。

 大阪桐蔭のグラウンドは活気に満ちていた。シートノックひとつとってみても、全国から集まった選手たちの高い精度が光るプレーだけでなく、絶え間なく飛び交う声や真剣な眼差しが、すべての部員に見られる。その熱は、走者役の選手も同様で、少しでも先の塁を狙おうとするその姿勢は果敢であり、時には獰猛とも言えるほどだ。

 この密度の濃さは、部員数にも要因があるだろう。大阪桐蔭では1学年20人までと上限を決めている。

「これ以上いても補欠が増えてしまうだけ。しっかり責任を持って預かり、みんなが練習、試合ができる人数にしています」

 西谷監督がそう話すように、全員がひたむきに取り組む環境とスタッフが揃う。

 取材当日も控え選手たち中心の「育成試合」と呼ばれる練習試合が別の場所で取り組まれており、日によっては場所をはしごして2試合行なうこともあるというほど、実戦の機会が与えられている。

【練習から試合と同じ緊張感】

 全員の熱量が高いからこそ、たとえ故障や不振に苦しんでいたとしても、士気が下がることはないと、選手たちは口を揃えて証言する。

 昨年6月、走者を務めていた際に左肩を脱臼した3年生左腕・佐井川湧牙は、「主将の中野(大虎)が引っ張ってくれているので、熱量の差はないと思います」と語る。その言葉どおり、仲間たちから刺激を受けながらリハビリと鍛錬を重ね、今春ついに初めてベンチ入りを果たした。大阪大会でも好投を見せ、強力な投手陣の一角を担う存在へと成長を遂げた。

 さらに教育実習中で母校に帰ってきていた関戸康介(日体大4年)にも話を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「常に厳しい声をかけ合える仲間がいて、練習から試合と同じ緊張感がありました。ケガも多かったですが、辞めたいと思ったことは一度もありません」

 また関戸は「西谷さんは本当に偉大です。これは今も当時も思っています。みんなをうまくさせたいという気持ちが伝わる監督です」と、指揮官への全幅の信頼も語った。

 有望な球児たちが、数多くの誘いのなかから大阪桐蔭を選ぶのは、このような環境や空気感が、彼らの向上心を強く刺激するからだ。井端弘和監督率いる侍ジャパンU−15代表の一員として、ワールドカップ初優勝を経験した今井幹太朗、中島齊志、川本晴大、岡田良太の4選手や、西武・中村剛也を父に持つ中村勇斗など、今年も全国各地から逸材が集結した。

【全員が同志であるという認識】

 それぞれが高い目標と意識を持って入学し、互いに切磋琢磨してきた選手たちの卒業後の活躍は、冒頭で述べたように、プロ野球の世界だけにとどまらない。

 これまで多くのOBを受け入れてきた日本体育大学の古城隆利監督も、「大阪桐蔭出身の選手は本当に真面目です。投手は朝早くから来てコンディショニングに取り組み、野手も遅くまで練習しています」と称賛を惜しまない。

 進路についても、西谷監督は選手たちの個性や性格だけでなく、各大学のレギュラー選手の学年構成を確認したり、OBに話を聞いたり、相手校の監督と情報交換をするなど、さまざまな視点から検討している。

「早くから試合に出られるかどうかというよりも、相手の補強ポイントに合致することが一番大事だと思います」と語るように、選手にとって最適な進路を提案している。

 西谷監督にとって子ども(選手)たちは、試合で活躍したかどうかに関わらず、全員が同志であるという認識だ。

「部員一人ひとりとは、一生付き合っていきたい仲間です。責任を持って次のステージへ送り出したいと考えています。高校野球はあくまで入口に過ぎません。ここでうまくいかなければ、その先につながりません。ただし、それは甲子園出場や優勝だけを指すのではなく、さまざまなことを学んでほしいという意味です。その責任を日々強く感じています」

 この日のグラウンドでは、選手たちの間から「やりきれ!」という声が何度も聞こえてきた。中学時代から逸材として注目されていた選手たちが、泥臭く妥協せず、飽くなき向上心を持って日々努力を積み重ねている。その姿勢と、それを支える指導者や環境こそが、継続的な強さと豊富な人材輩出の原動力となっている。

つづく>>

このニュースに関するつぶやき

  • 意外とプロでの活躍は少ない。ここを卒業したら、即プロではなく大学野球に行く方がいいかもしれない。根尾君もそうしてれば…(>_<)
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