中国は2023年に年間販売3000万台を超えた世界最大の自動車市場です。米国の年間販売約1600万台、日本の約480万台の数倍にもなる数字です。そんな大きな市場ですから、当然のように、日欧米のほとんどの自動車メーカーが中国に進出しました。ドイツ、フランス、米国、日本、さらに韓国ブランドが、ずらりと顔を揃えているのです。
さらに中国には、民族系と呼ばれる地元中国の自動車メーカーが、大きなものから小さなものまで、非常に数多く存在します。筆者が初めて中国のモーターショーへ取材に行った2010年は、数十を超えるブランド出展数の多さに驚きました。
ところが、参戦ブランドが多いほど、競争は激しくなるもの。そのため、どんどんと弱小ブランドが消えてゆきます。ほんの4〜5年で、2010年にあった弱小メーカーは、半分ほどに減ってしまいました。もちろん、外資ブランドでも甘くはありません。日系で言えばスズキと三菱自動車が中国市場をあきらめ、すでに撤退しています。
そんな中国市場は、やはり独特の個性があります。最初に取材に行った15年ほど前に聞いて驚いたのが「中国人はCMよりも口コミを重視するため、最新モデルよりもユーザーの多い旧型の方が数多く売れる」ということです。そのためにとある日系メーカーは新型車と旧型車を併売していたのです。
|
|
また、中国で数多くクルマが売れるようになったのは2000年代に入ってのこと。まだまだ、「生まれて初めてクルマを買う」という人ばかりです。しかも、クルマは高額ですから慎重になっていたのでしょう。「最初の1台」ということで、クルマの基本形であるセダンが一番の売れ筋でした。
他にも面白かったのが「後席に乗せる友人に“よいクルマだな”と言われたいため、後席は広い方がよい」ということです。そのためドイツ車などは、わざわざボディを伸ばした中国仕様を用意するほどでした。さらに、中国語で「250」はスラング的に「バカ」という意味になるため、クルマの名称にはなるべく使わないということも聞きました。
ただし、現在では新型車が売れるようになり併売もなくなっているようです。また、世界のトレンドと同じように、中国でもSUV人気が高まり、2020年頃からはSUVの販売がセダンを上回っています。最近は、トヨタが中国向けにミニバンを販売していますから、もしかすると今後は日本のようにミニバンの人気が高まるかもしれません。
そんな中国の市場で、いま、最も注目されているのが新エネルギー車(NEV)です。これは電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)、燃料電池車(FCEV)を指します。中国では、こうした新エネルギー車(NEV)の普及を、国を挙げて推し進めているのです。
その理由は、石油確保という安全保障対策、環境対策、自動車強国実現があります。中国は、日欧米など諸外国の自動車メーカーに負けない、強い自動車産業国を目指しているのです。そのためには、遅れをとっているエンジン(内燃機)ではなく、電気自動車(BEV)といった新しいジャンルで勝負しようと考えたのです。
|
|
中国は共産党の独裁政権ですから、目標が定まれば、国を挙げて、強力に計画を進めます。2010年頃から、新エネルギー車(NEV)普及のために、数多くの施策が導入されています。ひとつはエンジン車の抑制です。大都市での登録を難しくして、しかもナンバーの奇数偶数によって走れる日を決めました。ナンバーの登録は、廃車になった分だけしか新規発行しません。走行規制は、たとえれば月曜に街を走れるのは偶数ナンバーのクルマだけで、火曜は奇数だけといった具合です。
また、新エネルギー車(NEV)に対して優遇税制を用意しました。取得税や自動車税を減免します。補助金も2023年まで出しました。充電インフラの整備を、地方自治体に義務付けて、新築の住宅には必ず、一定数の充電器を用意させたのです。
そうした国を挙げての施策の結果、2023年は新車販売の約3割が新エネルギー車(NEV)となっています。優遇税制があり、充電インフラも整っています。さらに、民族系メーカーが、数多くの電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)を販売しています。しかも、価格は日本や欧米ブランドよりも民族系の方が安いのです。そのためユーザー目線でも、新エネルギー車(NEV)を選ぶメリットがあります。
そんなことで新エネルギー車(NEV)の販売は、2020年代に入ってから大きく伸びています。中国の新車販売における新エネルギー車(NEV)の割合は、2019年の時点で4.7%に過ぎませんでした。ところが2021年に13.4%、2022年に25.6%、2023年に31.6%と拡大しています。これは、熾(し)烈な競争を勝ち抜いてきた民族系メーカーの地力が高まったことも理由でしょう。
10年ほども前の中国車は、「日本のパクリ」と呼ばれていました。ところが、BYDなどの最新モデルに乗れば、そんな陰口は過去のものだと思わせる、高い完成度とオリジナリティを見てとることができます。
|
|
※この記事は『自動車ビジネス』(鈴木ケンイチ/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。
(鈴木ケンイチ、モータージャーナリスト)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。