『エンタの神様』『爆笑レッドカーペット』で活躍した44歳女性芸人の現在。ブレイク時は寝る間もなく「局の廊下で仮眠をとってました」

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2025年05月25日 09:21  日刊SPA!

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池辺愛さん
「ヌーブラヤッホー!」と叫ぶ、全身タイツに身を包んだ女性コンビは? そう問われたら、答えは一択しかない。「モエヤン」だ。一目見て忘れない個性の強さは、間違いなく大きな武器であり、“ショートネタブーム”の申し子といえる存在。
さて、あれから十数年のときを経た今、赤タイツ担当・池辺愛さん(44歳)の現状が話題になっている。4月に自身のInstagramで、国家資格であるキャリアコンサルタントの試験に合格したと投稿。当時の活躍を懐かしむ声が相次いだ。

実は、池辺さんは慶應大学を卒業した才女。モエヤンを一時解散した後は、ラジオの帯番組で落ち着いた喋りを披露し、さらに都議選への出馬経験も持つ。

なかなか紆余曲折な人生を送っているわけだが、背景にはどんな思いがあったのかーー本人を直撃した。

◆もともとは舞台俳優を目指していた

ーー芸人を志したのはいつですか?

池辺愛:「お笑い芸人になりたい願望」よりも、「舞台に出たい」という気持ちが先で。中学生のとき、地元大阪の自治体とプロの劇団でミュージカルをつくる企画がありまして。オーディションに応募して、舞台に立たせてもらう機会に恵まれたんですけど、「舞台って楽しい」と強烈に感じた体験でしたね。

ーーとなると、お笑いの世界への入り口はどこになるんですか?

池辺愛:大学生のときに、三宅裕司さんが率いる「劇団スーパー・エキセントリック・シアター」に研究員を経て入団しました。でも、芸人というよりは舞台俳優を目指していました。

ーー全身タイツ姿にはまだ遠いですね(笑)。

池辺愛:そうですね(笑)。伊東四朗さんと三宅裕司さんを中心に結成された「伊東四朗一座」の公演に出演させていただいた際、お客さんが笑顔になってくださるのが本当に嬉しくて。そこから、気がついたら全身タイツになっていたんです。

ーーその「気がついたら」を詳しく教えてください(笑)。

池辺愛:私と相方は舞台や芝居の世界にいたので、15〜20分くらいのコントをたくさん作っていました。でも、先輩や劇団の社長に見てもらうと「まったく面白くないよ」と言われて(笑)。

ーーあのころはショートネタブームの時代でもありましたしね。

池辺愛:「短いネタにもチャレンジしてみたら?」とアドバイスをいただいて。そうしたネタをやっている芸人さんのDVDをレンタルビデオ店でたくさん借りてきて。ショートネタを作る参考にしましたね。

◆「わけのわからないテンションで作ったネタ」が…

ーー「ヌーブラヤッホー!」が世に出たきっかけは、『爆笑!レッドカーペット』(フジテレビ系列)ですか?

池辺愛:『レッドカーペット』の前身番組のネタ見せに、ありったけのネタを持って行ったんですが、誰にも全く響かなくて……。

ーーそのなかに「ヌーブラヤッホー!」は含まれていなかったんですか?

池辺愛:はい。終わり間際に、「あと1本だけ見てください!」とすがるように見てもらったのが「ヌーブラヤッホー」だったんです。前日の深夜に、わけのわからないテンションで作ったネタだったので、衣装もなくて簡単な絵コンテを見せたんですが、「これなら、出演してもらいたい!」と。

ーーそのタイミングで出したということは、お二人の間ではボツに近かったんですよね。

池辺愛:だから「これ!?」ってなりました(笑)。番組スタッフさんたちも「ヌーブラを目立たせるための全身タイツもいいね!」と盛り上がってくださり誕生したんです。

◆ブレイク時の過酷なスケジュール

ーー「ヌーブラヤッホー」を引っ提げ、大活躍。寝るヒマもなかったのでは?

池辺愛:朝、テレビ局に入って夜まで収録をして、その足でラジオ局(FM NACK5)に向かい、深夜1時から6時までの5時間の生放送をして、そのままテレビ局に行って、また1日収録といったスケジュールもありましたね。

ーー睡眠時間、少ないどころかないですね(笑)。

池辺愛:局の廊下で転がって仮眠をとってました(笑)。

ーー過酷ですね! これに、営業や地方仕事も入るとさらに大変そうです。

池辺愛:深夜1時から6時までの5時間のラジオの生放送のあと、そのまま新幹線に乗って下関まで行って、そこから関釜連絡船で夜中のうちに釜山に渡り、さらに列車でソウルに向かうというロケもありましたね。途中途中でタイツ姿に変身しながら(笑)。

ーーモエヤンさんを、時代が求めていたんですね。そんな中、なぜ解散に至ったんでしょうか?

池辺愛:相方が「結婚するから全身タイツは脱ぎます」と(笑)。

◆長年続けたラジオ番組、いまだにリスナーとの交流が

ーー2013年に一時解散していますが、流行語大賞とまではいかないものの、お茶の間に大きなインパクトを残したのは間違いありません。2012年から2020年まで、FM NACK5でパーソナリティを勤めていらっしゃいますね。

池辺愛:コンビでラジオをやっていたこともありましたが、その番組はピンで担当させてもらいました。

ーーしかも、月〜木曜の朝に4時間近い生放送。ほとんどライフワークですね。ラジオはもともと好きだったんですか?

池辺愛:中学3年のとき、体を壊して入退院を繰り返した時期があったんです。舞台に出たり見たりしたいと思っても、それが叶わずに悔しい思いをしていて。そんなときに、病室で聞いていたラジオに救われたんです。

当時、心身ともに辛かったんですが、ウルフルズの『ガッツだぜ!』がラジオでよく流れていて、とても力をもらいましたね。4人部屋の病室で、皆さんご病気でご高齢でもあったので仕方ないんですが、部屋の雰囲気がとても暗かったんです。

「みんなでラジオを聞いたら楽しいかも!」と、いざ聞いてみたら会話が生まれて、部屋が明るくなったんですよ。それで「ラジオは、心をこんなに明るくしてくれるんだ」と。

ーーラジオは発信側と受け手の距離感も近いですしね。

池辺愛:そうですね。だから、私がやらせてもらっていた番組も、放送を重ねるごとにリスナーさんと信頼関係を作っていった感覚がありました。番組終了から数年経ちますが、今でもリスナーさんたちからSNSを通じて応援の言葉をいただけます。2021年東京都議会議員選に出馬したときにも、リスナーさんが仕事を休んで手伝いに来てくれたりして、本当に支えられていますね。

◆出産を経て、都議選への出馬を決意

ーー2021年の都議選に出られた経緯は?

池辺愛:2017年と2020年に出産してたんですが、いずれも「ラジオを続けられるのかな?」と悩みました。私のようにフリーランスで活動をしていると、産休や育休の給与保証はないので、休む間はもちろん無給です。結果的には、第2子出産のタイミングで大好きなラジオが終了することになったんです。

ーーどちらも大事なことなのに、取捨選択を迫られる状況ですね。

池辺愛:第1子出産の時、出産から2ヶ月で番組に戻していただいていて、局のみなさんにはとても感謝しています。ただ、理解が深まっているとはいえ、女性が出産や育児と並行してキャリアを積み上げられたり、本当に安心できる補償が得られたりできる社会には、まだまだ遠いんだなと、身をもって経験しました。

周囲の女性に聞いても、似たような状況に直面していて。安心して結婚や出産に臨みつつ、キャリアを継続させられる社会になればいいなと思って出馬したんです。

◆資格を取ったのは、「教育」のためでもある

ーー残念ながら都議選には落選してしまいましたが、キャリアコンサルタントにチャレンジしようと思ったのも同様の理由ですか?

池辺愛:それも理由の一つですね。終身雇用が崩れている今の時代。将来、年金がきちんと支給されるかも不安ですよね。ゆえに、ひとつのことを突き詰められる人は限られてくると思います。色々なことを経験したうえで得た知見を活かし、キャリアに悩む方の力になれたらいいなと。

ーー他にも理由があるんですか?

池辺愛:「どういうキャリアなの?」と思われそうな私の人生(笑)。そのおかげで、中学校や高校の「キャリア教育」の授業に呼んでいただくことがあって。これまでは、自身の経験について話してきましたが、あくまで一例にすぎません。「教育」として、何を伝えるのがふさわしいか考えるようになった結果、もっとキャリアについて勉強をして、伝えられることの幅を広げたいという気持ちが芽生えて。今回、資格を取ったのはこうした理由がありました。

ーー子育てと仕事をしながらの勉強は、大変ですよね。

池辺愛:はい、とても(笑)。家族の協力が追い風になったのは間違いありません。合格したときは、夫が冗談めかして「俺のおかげやな」と言っていましたが、実際その通りだと思います。

◆60歳になったら、相方と全身タイツで…

ーー通底するのが、芸人さんらしい「目立ちたい」マインドより、あくまで「人のため」を優先していると感じます。

池辺愛:テレビに多く出ていたころ、誰かを笑わせることに喜びを感じていました。印象深いのは、ブログにいただいたコメント。「娘が自閉症で、普段は笑わないし言葉もほとんど発しません。そんな娘が、モエヤンさんのネタを見ているときに口が動いていたのでよく聞くと、『ヤッホ』って言っていました。ものすごく感謝しています」と……本当に嬉しい一言でした。少しでも笑って幸せになってくださる方がいれば、なによりです。

ーー最後に今後の目標を教えてください。

池辺愛:60歳になったら、相方と全身タイツで「還暦ヤッホー」のネタをやりたいです! 昔は私が赤で相方が青の全身タイツでしたが、還暦では二人とも赤になるかもしれません(笑)。そのためにも、コンビでの活動も続けていかないといけないなと思っています。

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キャラの濃いお笑い芸人が“2発目”を当てるのは難しい。ただ、「還暦のモエヤンならあるいは……」と思ってしまったのは筆者だけだろうか。いずれ、この記事が“予言書”になることを期待したい。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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