〈坂道グループ写真集〉なぜベストセラー連発? 異例のヒットを支える「プロモーション戦略」を分析

0

2025年05月27日 13:00  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

坂道グループ写真集プロモーションの巧みさ

 出版不況が叫ばれるなか、乃木坂46、櫻坂46、日向坂46といった坂道グループの写真集が、オリコンランキングの上位を常に占めている。写真集市場において、もはや一つのジャンルを築いたと言っても過言ではない。


【画像】乃木坂46・筒井あやめ写真集、書店別特典ポスター&ポストカードを見る


 乃木坂46の5期生写真集『あの頃、乃木坂にいた』は2024年の上半期だけで11.6万部を売り上げ、写真集部門で1位に。山下美月の2nd写真集『ヒロイン』も11.3万部を記録し、女性ソロ写真集部門のトップに立った。過去には賀喜遥香の1st写真集が18.8万部の大ヒットを飛ばし、2022年の年間ランキングを席巻したこともある。


◾️SNS、リアル書店、ライブ会場…プロモーションの幅広さ


 こうした現象は偶発的なヒットではない。発売前から数ヶ月にわたるティザーキャンペーン、バリエーション豊富な店舗別特典、ライブ配信での特典付き販促、そして書店・ライブ会場を巻き込んだオフライン施策など、そのすべてが連動し、写真集をファンとの一体感を得るイベントに変えている。こうした多層的かつ連続的な仕掛けの積み重ねは、SNS時代のファンダムに最適化されたプロモーションの完成形とも言えるだろう。


 坂道写真集プロモーションの出発点となるのが、発売約2ヶ月前から始まるX(旧Twitter)での専用アカウント運用だ。たとえば、井上和の1st写真集『モノローグ』公式アカウントでは、発売前から日々「先行カット」「オフショット」そしてショート動画が投稿され、投稿のたびにファンの間で話題を呼んだ。筒井あやめの1st写真集『感情の隙間』アカウントも同様に、撮影地での動画や「#あやめさんぽ」と題したシリーズ投稿を展開。1日1カット、1分の動画すらが、ファンにとってはイベントとして共有されていく。


 この手法は、日々タイムラインを消費するSNS世代に合わせて設計されたものだ。単発の大きなニュースではなく、小さな断片を積み重ねて“関心の滞在時間”を引き延ばしていく。それは、ニュース記事のPVを伸ばす目的というよりも、写真集そのものがすでに始まっている感覚を与え、ファンを自然に“参加者”へと巻き込んでいく導線設計に他ならない。実際、井上和の1st写真集『モノローグ』は発売後もアカウントが継続され、未公開カットが随時アップされており、継続的な話題提供を行っているのだ。


 SNSだけでなく、SHOWROOMでのライブ配信も、現在の坂道写真集には欠かせないパーツだ。岩本蓮加、小林由依といったメンバーが、発売前後に配信を行い、撮影時のエピソードや写真への思い入れを語る。加えて、配信視聴者限定での特典が設けられていることも多い。櫻坂46・小林の2nd写真集では、配信中に話題となった「未掲載のスイカを食べるショット」がSHOWROOM限定ポスターとして封入された。


◾️ファンの「コレクション欲」を刺激


 坂道グループの写真集において、特典や仕様の多さはもはやスタンダードだ。通常版に加え、セブンネット、楽天、紀伊國屋などの限定カバー付きバージョンが揃い、店舗別に異なるポストカードやポスターが付属。筒井の『感情の隙間』では、ポストカードだけで17種以上が用意され、加えてB3ポスターやランダム封入のメッセージ入りカード(全6種)も展開された。


 こうした構成は、ファンに消費行動を“どれから買うか”という思考に切り替えさせる。つまり、選択の自由を与えながら、コレクターとしての本能を刺激する構造。さらに、封入特典がランダムであることによって、複数購入や交換行動も促進される。収集の過程そのものがコミュニティ内の会話を生み、SNS上でも“誰が何を引いたか”が一種のイベントになる。こうして、写真集は書籍でありながら、トレーディングカード的な感覚でも消費されていくのだ。このモデルは、極めて戦略的であり、写真集の中身以上に、特典の存在そのものが語られる現象を加速させている。


◾️全国の書店でパネル展開催・リアルな体験も


 SNSと連動したオフライン施策もまた、坂道写真集を特異な存在へと押し上げている要素のひとつだ。写真集の発売時期には、全国の書店でパネル展が開催されるのが通例となっている。筒井の場合は9書店での開催が予定され、店舗によって展示されるカットやテーマも異なる。櫻坂46・大園玲の『半分光、半分影』では、10枚の写真と2〜3点の未公開カットが展示され、サイン入りパネルが抽選でプレゼントされた。


 さらに近年では、衣装展示や大型ポスターの設置、書店限定特典の配布など、体験型の施策が充実。来店そのものがファンにとっての巡礼となり、SNSには現地の写真や感想が続々と投稿されていく。こ加えて、ライブ会場での限定販売も重要な戦術となっている。卒業を控えた乃木坂46・与田祐希の3rd写真集『ヨーダ』は、コンサート会場で「逃げ水」の衣装をまとったポスター付きで販売され、日向坂46・佐々木久美の『めくる日々』も、ステージ衣装を背景にした会場限定特典が話題を呼んだ。


 このように、リアルな体験を組み込むことで、写真集は“モノ消費”から“コト消費”へと拡張されていき、さらにはSNSでの拡散を誘発し、プロモーションの波を二次的にも三次的にも広げていくことになる。


◾️写真集はファンとのコミュニケーションプロダクト


 坂道グループの写真集は、ただのビジュアル集ではなく、SNS、ライブ配信、限定特典、書店イベント、そしてファンとの対話を含めたプロダクトである。その構造はすでに確立された成功モデルとして、他ジャンルにも影響を与えている。だが同時に、その完成度の高さゆえに、次なるアップデートの難しさも抱えている。市場が“坂道的であること”に慣れてしまった今、新たな驚きをどう作るか、写真集が作品であり続けるには何が必要か。その問いが、次のステージにおける最大の挑戦となるだろう。


 だが一つ確かなのは、坂道写真集は今日もなお、1枚の写真を通じて推しと向き合う時間を、ファンの心に確かに刻み続けているということだ。ページをめくる指先に、Xの投稿をリロードする親指に、そこには確かにアイドルを応援するという行為の、リアルが存在している。


(文=川崎龍也)



    ニュース設定