
6月8日から開幕する「先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜」で、芳根京子が6年ぶりに舞台に挑む。本作は、映画監督として知られる行定勲が、中井貴一とともに昭和の映画界を演劇で描く舞台作品。日本映画界を代表する監督の一人である小津安二郎をモデルに、苦悩する名匠の1日をユーモアと味わいたっぷりに描き出す。芳根は、中井が演じる日本映画界の名匠・小田昌二郎から娘のようにかわいがられる、食堂の看板娘・幸子を演じる。芳根に舞台出演への思いや意気込みなどを聞いた。
−6年ぶりの舞台出演になりますが、出演が決まったときの心境を教えてください。
6年前に出演させていただいた舞台はとても濃厚な作品でしたので、「やりきった」という気持ちが長く続いていたのですが、2年くらい前に、また舞台に挑戦したいという思いが芽生えてきました。いろいろなお仕事をさせていただくうちに、経験していないことにチャレンジすることで経験値が増えるという感覚がずっと心のどこかにあって、そうした中、今回のお話をいただいて、中井貴一さんが主演で、行定さんが演出、そして(キムラ)緑子さんもご出演されると聞いて出演させていただくことを決めました。6年前に舞台出演させていただいたときに、緑子さんがお母さん役を演じていらしたということもあり、安心して飛び込めるのではないかと思っています。
−実在の映画監督・小津安二郎さんのエピソードから着想を得たという本作ですが、幸子という役を演じるにあたって、今の段階(取材当時)どのような準備をしていますか。
幸子は、明るくハキハキした女の子なので、そういう意味では演じる上で不安はあまりないのかなと思っています。昭和という時代を目いっぱい楽しむ機会にしたいと考えています。
−芳根さんは、昭和の映画の魅力をどのように感じていますか。
この作品に出演させていただくにあたって、小津安二郎監督の作品も拝見しましたが、今とは撮り方も全く違い、新鮮で斬新で面白いなと思いました。昭和という時代ゆえの“作品の色”があることを知り、とても勉強になりました。
−本作の脚本を読まれた感想を教えてください。
中井さんと二人のシーンもたくさんあるので、とにかく楽しみだなという気持ちです。映像の作品では過ごせない時間をこれからたくさん過ごせると思うので、稽古期間を含めてすごくワクワクしています。それから、5人のさまざまなタイプの女性が出てくるので、どういうバランスになるのかも楽しみにしています。きっと文字で読むよりも広がっていく世界があるのだと思います。舞台に出演するのはまだ3度目なので、もちろん緊張もありますが、初心を忘れずに、最後までしっかり先輩たちの背中を追いかけたいです。今回は先輩方がたくさんいらっしゃるので、たくさん甘えさせていただきながら食らいついていこうと思います。
|
|
−幸子にとって小田先生はどのような存在だったと考えていますか。
人生の中で恩人と呼べる人は数多くないと思いますが、まさにその恩人のひとりだと思います。きっとそのときは、目の前で起きていることを当たり前に感じてしまって、大切な存在であることに気付かないのですが、時間が経って気付くものがある。小田先生はそんな存在で、まるでお父さんのような人だと思っていますが、これからお稽古を通して世界が広がっていくと思うので、初日に舞台に立っているときに(小田先生に対して)どんな思いを持っているのか、自分でも楽しみです。
−芳根さんにとっての小田先生のような方はいらっしゃいますか。
私にとっての恩人はデビューのときからついてくれていたマネジャーさんです。私が10代の頃には大げんかもしましたが、当時、マネジャーさんが本気で怒ってくれたことを今になってすごくありがたいことだったなと思います。私自身が大人になるにつれ、怒るというのはすごくエネルギーを使うことなんだと分かりました。あのとき、厳しく指導してくれたことで、自分の人としてのベースを作ってもらえたのだと思いますし、ちょっとやそっとじゃへこたれない気持ちを持てるようになったのだと思います。
−小田先生を演じる中井さんの印象や共演で楽しみにしていることは?
先日、中井さんがたまたま近くのスタジオでドラマの撮影をされていたので、ごあいさつさせていただきましたが、とても優しい方でした。「体調に気をつけてね。体が大切だからね」と気にかけてくださって。とても心強く感じましたし、お稽古でたくさんお話をさせていただけたらうれしいです。
−芳根さんと映画の出合いを教えてください。
デビューして半年くらいの16歳の頃、映画の主演を決めるオーディションを受け、選んでいただいた作品が最初です。『物置のピアノ』というピアノが題材の作品だったのですが、私が幼い頃からピアノを習っていたということで主役に選んでいただいたのだと思います。初めての映画が主演というのは、これほど幸運なことはないと思っています。例えば、細かい役の場合、演じるにあたって自分の想像力でその人の背景などいろいろなものを埋めていかなくてはいけませんが、主役では台本にヒントや答えがあることが多いので、そういう意味でも最初に経験させていただいたことはとてもラッキーでした。ヒントや答えがある状態で演じた経験は、別の作品に出演したときにも役に立ちます。主演をやらせていただいたことが今につながっているのかなと思います。ずっと忘れられない経験です。
|
|
−『物置のピアノ』の撮影時は楽しい気持ちが大きかったですか。それとも不安やプレッシャーが大きかったですか。
映画の撮影自体が初めてだった上に、1カ月間、地方での撮影だったので、すごくドキドキした記憶があります。実家から長期間離れるというのも初めてでしたし、しっかりしなくてはと思っていました。毎日、訪れる試練を乗り越えていくという、必死で過ごした1カ月間だったので、クランクアップしたときはホッとして、そのときの帰り道のことは今でも覚えています。
−では、舞台についてはどのようにお考えですか。
出演するのは久しぶりですが、その間もさまざまな作品を観劇させていただき、生の空気をすごく感じていたので、また舞台に出演したいと思うようになりました。まだポワポワした気持ちではありますが、その日に起きることをしっかりと受け止めて、刺激のある毎日を過ごしたいと思います。せっかく飛び込ませていただくので、勇気を出していろいろなことにトライしていきたいです。
−最後に作品を楽しみにされている皆さんにメッセージをお願いします。
(取材当時)稽古はこれからですが、絶対に楽しい作品になるという自信があります。中井さんが真ん中にいらっしゃって、たくさんの女性が出てきて、現実と想像の世界がリンクしていくというこの作品には、舞台ならではの面白さが詰まっていると思います。私個人としては、6年ぶりの舞台になります。私をずっと見てくださっている方は舞台をやらないと思っていた方もたくさんいると思いますが、ぜひ応援していただき、楽しみにしていただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/嶋田真己)
「先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜」は、6月8日〜29日に都内・PARCO劇場ほか、大阪、福岡、熊本、愛知で上演。
|
|
