性加害疑惑の園子温を“支持する監督ら”が制作した映画に衝撃…「二次加害」「不誠実」と言えるワケ

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2025年06月03日 09:20  女子SPA!

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会見後、開設したYouTubeチャンネルにて改めて「主文以外は法的な拘束力ない」と主張した園子温氏
 映画監督の園子温氏による記者会見が2025年5月27日、日本外国特派員協会で行われたが、その内容を見聞きした人からはネット上を中心に「言い訳がひどすぎる」「まったく反省していない」などと非難轟々の声が上がった。

◆「映画監督への復帰の意志の表明」の印象

 園子温氏は、2022年4月に『週刊女性』にて性加害疑惑を報じられ、発行元である「主婦と生活社」に対し名誉棄損の損害賠償を求める訴訟を起こし、2023年12月にWEBサイト「週刊女性PRIME」掲載の記事の削除を条件に和解した。

 筆者個人としては、5月27日の会見における園子温氏には「何かと理由をつけて映画監督への復帰を表明している」印象をもった。「基本的には仕事がぜんぜんできていない」「もう一度映画を撮れるようになりたいという一念でやっています」などの発言から、ストレートにその意志が表れているからだ。

 さらに、司法制度を侮辱するような「(主文以外は)あとがき感想文みたいなところ」という発言や、告発の数も背景も異なる「草津町での性加害告発が虚偽であるとされた件」を例にあげたことも、とても不適切なものだと思えた。

◆性加害は「裁判所が認定した事実」

 さらに、園子温氏は2022年3月に俳優の松崎悠希氏がTwitter(現X)でおこなった「ワークショップで知り合った女性に性的行為を要求し、それが『常套手段』であり「被害者は何十人もいる』」という旨の投稿が名誉棄損にあたるとして、こちらも損害賠償を求め提訴していた。

 2025年5月16日に結審したこの裁判では、松崎氏による部分的な名誉毀損が認められ、園子温氏側の要求額の約2%である22万円の支払いが命じられた。一方で裁判所は、

「飲み会を通して知り合った千葉(美裸さん)に対して性的に迫ったこと」
(※編集部注:千葉美裸さん…園子温氏の性加害を告発していた元女優。その後36歳で自死していたことが2023年に報じられた)

「映画監督と新人女優という立場が明らかになっている状態で、飲み会や共通の知人を通して知り合った複数人に対し、性的な行為を要求する文面のメッセージを送信したこと」

「自身と性行為をした相手を自身の手掛ける映画作品に出演させていたこと」(松崎氏が公開した判決文より引用)

 は真実であると認定している。6月2日の松崎氏のX投稿によると「園子温氏が正式に控訴状を提出した」とのことだが、ここまで「認められている」状況で、園子温氏がいくら潔白を主張しても、出資・配給する企業などいないだろう。

◆園子温の性加害疑惑を題材にした映画が制作されていた

 園子温氏自身が起こした裁判で、その性加害は認められたが、逮捕はされていない。だからこそ、映画業界および個々人が「園子温を映画業界に断じて戻したりはしない」と、断固として突きつけることが、重要ではないか。

 被害者への二次加害を防ぐためというのはもちろん、権力勾配を利用したハラスメントや性加害が世界的な問題となる今、「性加害を容認する」ことは、その業界のみならず日本社会全体の信用に関わることだからだ。
 
 その上で、園子温氏を支持していた映画制作チーム「TEAMカミナリ」(株式会社カミナリ)が、園子温氏の性加害疑惑を題材にしたモキュメンタリー(ドキュメンタリー風に演出されたフィクション作品)を制作していた問題についても記しておきたい。

 同チームは園子温氏の疑惑が報じられた後に公開した作品のエンドクレジットに「スペシャルサンクス」として「園子温」と記載しており、批判の声が上がっていた。

 モキュメンタリーのタイトルは『Already Over』(監督/増田有美)で、試写以外で上映された情報はないが、2023年6月20日に予告編がYouTubeで公開されている。

 同作は現時点で映画本編を見る手段が見つからず、その段階ですべてを判断するべきではないことは重々承知の上だが、それでも予告編の時点で大きな問題があると指摘せざるを得ない。

◆予告編の時点で感じる不誠実さ

『Already Over』の映倫の審査ページによると、あらすじは「〈映画監督、園子温が性加害の疑い〉というニュースがネットで拡散された。真相を追うドキュメンタリーを撮ろうと制作会社のディレクターとプロデューサーが関係者の取材を開始するが……。モキュメンタリー。」とある。

 その予告編では、2人の男性が歩きつつ園子温氏の性加害の疑惑について「園子温のニュース、見ました?」「ほらほら、これ、園子温、性加害者の疑い」「性加害者って、いわゆる性的な暴行とか被害とか、そういう系の話?」「たぶんそうだと思う。この記事によると、園監督が主演女優にすごい、手を出しているみたいなことが書いてある」などと話していて、その直後に「あれもダメこれもダメ、どれもデタラメ」という挿入歌が流れる。

 予告の終盤には園子温氏の妻であり女優の神楽坂恵氏が登場し、女性に対し「ワークショップでは園子温監督から誘われたりとかはなかったですか。あとはセクハラみたいなことがあったりとか」と問う場面があり、最後には「どこまでが本当?」というテロップが4回に分けて段階的に大きく表示される。

 これらの表現からは、園子温氏の性加害の疑惑を矮小化している、しかも現実の問題をモキュメンタリーという「フィクション」を用いて否定しているようなニュアンスをどうしても感じてしまう。しかも、タイトルは「Already over(もう終わった)」で、被害者が今も強く園子温氏への怒りを表明している最中で、問題を「過去もの」にするような不誠実さを覚えるのだ。

◆「スペシャルサンクス」に園子温の名前も

 それらはあくまで予告編の印象で、『Already over』の本編では園子温の性加害に真摯に向き合った内容という可能性もある。だが、園子温を支持する側から、解決していない時点でその問題を創作物で表現するということ自体、被害者への二次加害に当たるのではないか。

 事実、同映画の企画・制作会社「株式会社カミナリ」は短編ドラマ映画『コロナになりました。』の期間限定で一般公開を報じた2022年9月のプレスリリースにて、「スペシャルサンクス:くるみらサポーター/園子温」、「第1作『シェアハウス33クラブ』は、映画監督の園子温氏の協力のもと……」とも記している。

 さらに、2024年2月に公開された『Floating Holidays』でもスペシャルサンクスに「園子温」と記載。その制作に実写版『ゴールデンカムイ』のクレデウスが参加していることも、松崎悠希氏は指摘している。

 もちろん、これらは園子温からの意向が直接関わっているわけではなく、映像制作チーム「TEAMカミナリ」の自己判断ではあるのだろう。だが、園子温の性加害疑惑を題材にしたモキュメンタリーを制作すること、さらに変わらずスペシャルサンクスに園子温の名前を載せること自体、やはり非常に大きな問題であると指摘せざるを得ない。

◆園子温への「No」がやはり必要である

 なお、2022年12月公開の映画『もしかして、ヒューヒュー』は、園子温が別名義での脚本参加が「ステルス復帰」のように報道されバッシングを浴びたが、園子温自身から「今年の4月に週刊女性の掲載がなされる以前の2021年12月に撮影されている」「ペンネームは脚本が単独で作成したものではないことと、他の園作品と同様の色がつくことを避けたいから」との反論があった。この言葉を鵜呑みにすれば、確かにステルス復帰は誤った表現であるし、その趣旨での批判は正しくない。

 ただし、「性加害の疑いがある人物が関わった映画を、断りなく公開しようとしたこと」は事実。たとえば、2024年2月に準強制性交容疑で逮捕された榊英雄監督による『蜜月』『ハザードランプ』は公開中止の措置が取られており、それほどまでに「性加害者が関わった(疑いのある)作品が上映されること」は大きな問題として議論されなければならないはずだ。

 また、不祥事による降板や自粛が「キャンセルカルチャー」として問題となる事例もあるが、こと園子温の性加害疑惑については、それは決して過剰な反応ではない。

 被害を訴えた人物は複数おり、その1人の千葉美裸さんは2022年12月に自死している。1人の人間が自ら命を絶った事実はとても重い。その加害者とされる人物が手がけた作品の制作・公開は二次加害の可能性が必ずある。そのことを、関係者は自覚しなければならない。

 そのためには、いかに園子温が監督に復帰しようと考えても、やはり「No」を突きつけるしかない。その復帰に関わる人がいてはならないし、関わるべきではない。今回の園子温の会見や、モキュメンタリー『Already Over』の予告編を見て、そう強く思ったのだ。今一度、考えてみてほしい。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF

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  • 男性は性欲の権化である、という科学的事実を認めないから、こうなる…。女性に忌避的に月経があるように、男性には忌避的に性欲がある事を認めないと!
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