画像:「kannahashimoto.mg」Instagramよりどんな役柄でも器用に演じ分けられる俳優がいる一方で、まるでその役のために存在しているかのように、ぴたりとハマる俳優もいます。橋本環奈は、まさに後者のタイプだと言えるのではないでしょうか。
現在放送中の『天久鷹央の推理カルテ』(テレビ朝日系・火曜よる9時〜)で演じている主人公・天久鷹央も、そんな「ハマり役」のひとつです。
◆朝ドラヒロインが不評だったワケ
2024年後期の朝ドラ『おむすび』でヒロインを務めた橋本環奈ですが、その評判はあまり芳しくありませんでした。
ヒロイン・米田結は、神戸で震災を経験した姉との確執からギャル文化を嫌い、夢を持たず、「普通」であることを望むというキャラクター。物語が進むにつれて栄養士を志すようになり、まさに市井の人々を象徴するような存在です。
しかし、物語冒頭で描かれる、夢を抱かずキラキラしていない橋本環奈には、本来のスター性が抑えられていたことで、かえって彼女の魅力が十分に発揮されていないようにも感じられました。
橋本環奈は、10代の頃に「天使すぎるアイドル」として注目を浴びた美少女であり、26歳になった現在も、大きな目と童顔を特徴とする華やかな顔立ちをしています。加えて、彼女は小柄な体格もあって、周囲との対比で画面の中ではひときわ目立つ存在となっています。
その橋本環奈が、不貞腐れた様子で「夢はない」と語り、「ギャルになって目立ちたくない」と口にしても、どうしてもその言葉には現実味が伴わず、説得力に欠けてしまいます。
◆“ちょっと変”な役柄がハマるワケ
逆に、橋本環奈は「市井の人」ではなく、どこか特殊で“ちょっと変わった”キャラクターを演じることに定評があります。だからこそ、漫画作品の実写化には欠かせない女優だといえるでしょう。
『銀魂』の神楽役や『斉木楠雄のΨ難』の照橋心美役、『キングダム』の河了貂役など、数々の実写化作品でヒロインや重要な役どころを務めてきました。
彼女は、可愛らしい顔立ちをあえて崩し、漫画的な「変顔」すら臆することなく全力で表現できる貴重な存在です。画面上で強い存在感を放ちながらも、コメディ要素を自然に演じきることができるため、作品にリアリティと説得力を加える役割を果たしてきました。
今回の『天久鷹央の推理カルテ』もその延長線上にあると言えます。原作はベストセラー作家・知念実希人による人気シリーズで、今年1月からはアニメ版の放送・配信もスタートし、話題を呼んでいます。
◆ぴったりすぎる天久鷹央役で見せた演技力
橋本が演じる天久鷹央は、単に“ちょっと変わっている”というレベルではなく、かなりの変わり者です。「驚異の知能を誇る診断医」として、各科で“診断困難”とされた症例の原因を次々に突き止めていきます。
加えて、医師としての視点を活かしながら、さまざまな事件を解決していくというストーリーが展開されます。超人的な頭脳と、圧倒的な知識・洞察力を持つ一方で、鷹央は自閉スペクトラム症を抱えており、人の感情をうまく読み取ることができません。加えて、歯に衣着せぬ物言いと高慢とも取れる発言で、周囲との軋轢が絶えません。
その一方で、運動神経が鈍く、何もないところで転んでしまったり、スキップすらうまくできなかったりと、どこか抜けたコミカルな一面も持ち合わせています。
一歩間違えれば「感じの悪い天才」として敬遠されかねないキャラクターですが、橋本の小柄で愛らしい外見と独特のユーモア感覚が、この難役に人間味と親しみを与え、結果として非常に魅力的な人物像に仕上げています。
◆コミカルの中で魅せた繊細な演技と揺れ動く葛藤
基本的にはハチャメチャな主人公によるコミカルな展開が続く本作ですが、第5話では、橋本の繊細な演技がひときわ際立っていました。この回では、入院中の8歳の白血病患者・三木健太(石塚陸翔)との友情が描かれます。
健太の余命がわずかであるという現実と向き合えずにいる鷹央が、医師としての責務と友情の間で揺れ動く葛藤を、橋本は見事に演じ切りました。彼女の流した涙に、思わずもらい泣きした視聴者も多かったのではないでしょうか。
橋本環奈は、決して表現力に乏しい女優ではありません。ただ、その小柄な体格と圧倒的な存在感ゆえに、市井の人を演じるときには、どうしても説得力が薄れてしまうことがあります。だからこそ、彼女にしか演じられないキャラクターが存在し、その個性を活かすことで、作品に独特の活力を与えているのです。
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朝ドラで主演を務めた後は、イメージが定着することを避けるため、しばらくドラマ出演を控える女優も少なくありません。しかし橋本の場合は、すぐにまったく異なる「ハマり役」を演じたことが功を奏したように思えます。筆者としては、『天久鷹央の推理カルテ』のシリーズ化を期待せずにはいられないほど、本作を楽しんでいます。
<文/鈴木まこと>
【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:@makoto12130201