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いま、ドラマ界でいちばんの売れっ子はこの人かもしれない。新納慎也(50)。初主演ドラマ「社畜人ヤブー」(BS松竹東急、金曜午後10時半)を含め、この4月期は5本のドラマに出演している。滅私奉公のサラリーマンから臓器売買の極悪人まで、同時進行で何役もこなす俳優力は、ひたすら「ほふく前進」の道のりで身につけてきた。【梅田恵子】
★恐縮「たまたま」
4月期5本のドラマ出演という無双の売れっ子ぶりだが、「たまたまなんです」と恐縮する。主戦場にしてきた演劇とドラマの出演依頼がバッティングすることなくはまった結果とし、「運が良かっただけで、ブーム到来ではないと思っています」と穏やかに笑う。
50歳で俳優人生初の主演ドラマという大きなトピック付き。「社畜人ヤブー」のオファーを振り返り「なんで? と思いました」。ソフトな関西弁で驚きを語る。「舞台も映像も、主役をやる俳優ってそういうジャンルがある気がしていて、僕はその引き出しに入っていないと思っていたんです。機会があるとしたら来世かな、って思っていたので、なぜ僕を選んでくれたのか、感謝しかありません」。
ドラマでは「今日も骨になるまで働きましょう」をモットーに、「社畜」という働き方で自分らしく生きる営業課長、薮隣一郎を演じている。「滅私奉公」「歯車」などの強ワードがテンポよく飛び出すが、「薮さんの言っていることに違和感はない」という。
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「会社に尽くすことを好きになれというのではなく、就いた仕事を好きになれという考え方は俳優業ともわりと近い。この仕事が好きだし、撮影が早朝でも深夜でも、やれと言われればやります。誰よりも社畜です(笑い)」。社会人の多くは、日常の一定の時間を仕事に費やしているのが現実であり、「仕事を生きがいにしているという生き方はとても豊かなんじゃないかとも感じます」。
★「人間味」を表現
フジテレビ系「人事の人見」では、社畜エリートとは正反対なお調子者社員を演じ、TBS系「キャスター」では臓器売買の仲介者という極悪人。「ごちゃ混ぜになりませんかとよく聞かれますが、ドラマをやりながら舞台もやるという状態をこれまでもやってきたので、混ざるということはないです」。どんな役でも「こういう人、いるよね」と思わせる新納ワールドにSNSも大いに沸く。「うれしい。芝居をするうえで一番大切にしてきたのがリアリティーなので。見る人が、人物のバックグラウンドを想像できるような人間味を表現したいんです」。
★モデルきっかけ
もともと俳優を目指していたわけではなく、高校の時にモデルにスカウトされたことが芸能界への入り口となった。「モデルの仕事は服が主役。ポーズをとると『服にシワが寄るから立ってるだけでいい』とか言われて(笑い)、いろんなことを表現したい僕の性格とは合わなかった」。演劇科がある大阪芸術大学に進み、ミュージカルと出会った。高校時代のバンド活動やストリートダンスの経験から「歌って踊って芝居をする」ミュージカルの才能を発揮。「これを仕事にしてしまおう」と上京した。
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ミュージカルでは、役のないアンサンブルからのスタート。そこから役があるプリンシパルになることは「あり得ない時代だった」という。役がほしいという渇望の中で何年ももがき、突破口を求めてNHKのうたのおにいさんを2年務めたりもした。「もうアンサンブルはやりません」と周囲に宣言して退路を断った02年、ミュージカル「GODSPELL」の主演を射止め、一気に才能が可視化されることになった。
★豊臣秀次の生涯
キャリアを激変させた恩人は、脚本家三谷幸喜氏だ。「ある日楽屋に来て、突然『大河やりませんか?』って」。ルックスだけでキャスティングしたと思われるホスト役が続いていた時期。「人間の悲しみという深い芝居ができる人」と言ってもらえたことがうれしかったという。NHK大河ドラマ「真田丸」(16年)で豊臣秀次役に抜てき。人なつこいキャラクターが壮絶な最期を迎えるまでの生涯を演じ切り、人気が全国区になった。
舞台とはまた違った形で表現者としての快感を知り、俳優として「ギアがひとつ上がった」という。「それまでは、自分が舞台俳優であることにプライドを持ちすぎていたんですね。『テレビに魂を売る』みたいな言葉もあるじゃないですか。でも、そのプライド要らないなって。表現の場や、表現方法を広げていけるなら、舞台でも映像でも、何でもやりたいと」。
★はい、やります
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アンサンブルの最後列からここまで来た道のりを振り返り、「自分でもよくやったと思う」と語る。「劇団四季出身とか、イケメングランプリで優勝したとか、親が芸能人とか、アピールできる看板が一切なかったので。本来、基礎練習よりもすぐ大技をやりたがる性格なのに、うまくなるしかないから1歩ずつ」。
俳優人生を「ずっとほふく前進してきた」と表現する。「顔を上げる余裕なんかなくて、ずっとこうやって腹ばい状態のまま、『大河出ますか』『はい、出ます』、『社畜人ヤブーやりますか』『はい、やります』って(笑い)。今もほふく前進の真っ最中ですよ。10年後の自分は、という質問をよく聞かれますが、立ち上がって先を見る余裕ないです」。
★初心を忘れずに
初心を忘れないため、上京して初めて住んだ家に今でも年に1回行き、付近をぶらぶらするのだという。
「当時はバレエとジャズダンスとお芝居と歌を習っている日々で、リュックにすごいけいこ道具を詰めて歩いていました。あの場所に行くと、当時の自分とすれ違いそうな気がするんです。会えたら言ってやりたいですね。お前信じられへんかもしれんけど大河に出るぞ。1クールにドラマ5本も掛け持ちして、予想もしない人生が待ってるよと」
★「深い役」楽しみ
今後も舞台と映像をバランスよくやっていきたいという。年輪を重ねるにつれ、三谷氏の言う「人間の悲しみという深い芝居」向きの役が増えていくことを楽しみにしている。
「イエーイ、みたいなチャラい役も得意なんですけど、深い役もやらせてみてくださいという感じです。そうやって、ええ感じに、いいおじいちゃん俳優になっていけたら。98歳くらいの自分も楽しみです」。ほふく前進のまま、俳優人生を完走する気満々である。
■4月期放送中の出演ドラマ
▼BS松竹東急「社畜人ヤブー」(金曜午後10時半=主演)
総合商社営業部二課の社畜エリート、薮隣一郎課長役。
▼TBS系「キャスター」(日曜午後9時、主演阿部寛)
医療NPOを装った臓器売買仲介人、深沢役。
▼フジテレビ系「人事の人見」(火曜午後9時、主演松田元太)
ゴマすりばかりで全然仕事をしない中堅社員、須永圭介役。
▼Leminoオリジナルドラマ「飛鳥クリニックは今日も雨」(主演森山未来)
本格裏社会ドラマの詐欺師、ゴールド櫻田役。
▼NHK夜ドラ「藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ シーズン3 ミラクルマン」(12日午後10時45分、主演前野朋哉)
性格も女グセも悪く部下から嫌われている「課長」役。
◆新納慎也(にいろ・しんや)
1975年(昭50)4月21日生まれ、神戸市出身。16歳の時にスカウトされモデルとして芸能界入り。大阪芸大舞台芸術学科演技演出コースを経て俳優活動開始。名だたる演出家の舞台作品に多く出演。ほかNHK大河ドラマ「真田丸」「鎌倉殿の13人」、NHK朝ドラ「ブギウギ」「おむすび」などテレビ出演も多数。180センチ。血液型A。
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