撮影/中村和孝 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『カウントダウン』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:「火災」と「放射能汚染」と「台風」という3つの危機が同時に迫った香港を舞台に、絶体絶命の窮地から市民を救うためために奔走する人々の姿を描かれる。未曾有の放射能汚染から700万人を救うことができるタイムリミットはわずか「90分」という状況のなか、前代未聞の作戦を決行される。
香港映画界きってのスター俳優であるアンディ・ラウが主演を務めたほか、豪華キャストが本作のために集結。“香港映画史上最大級”のディザスター超大作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)
◆どうかこれが現実じゃありませんようにと祈る
「この物語はフィクションです」なんて、見慣れないテロップに首を傾げた冒頭が遠い記憶のよう。この作品を観た今は、ただただあのテロップの存在に救われている。鑑賞中はあまりの緊張感に身体を強張らせながら終始ハラハラし続け、どうかこれが現実じゃありませんようにと祈り続けていたのだから。あの注釈は、確かに必要なものだった。
産業廃棄物集積所で火災が発生。消防隊員たちが駆けつけるも、なぜか水の使用を禁じられる。実は現場に高濃度セシウムが漏洩していたのだった。
政府は環境汚染問題の専門家ファンたちを招集し、対策を講じるが、時を同じくして巨大な熱帯低気圧が香港に接近。水溶性の放射性物質の拡散を食い止めるため、雨が降るまで90分というタイムリミットの中で、ファンたちは前代未聞の作戦を決行する。
◆日本人は“あの事故”を思い起こさずにはいられない
火災シーンの迫力、政府対策室との駆け引きや葛藤、現場の焦りと人を救わんとする強い意志が濃密に織り込まれたディザスタームービーである本作。火災に汚染、そして台風と息もつけないほどの絶望の連鎖に翻弄され、結末がどこにいきつくのか予想もつかない。
虚構とは思えないリアリティはとてもじゃないけど他人事にはできず、何度も心臓を抉られる。
特に日本人にとっては東日本大震災での福島第一原発事故を思い起こさずにはいられず、母国でありえたかもしれない人災の行方を食い入るように見続けた。
◆香港映画界、屈指のスターの演技も必見
混乱の中にあっても救急車を通すために協力し合う人々や、秩序を保って移動する住民の姿に既視感があるからこそ、涙腺を刺激される。
自己犠牲的な結末を素直に受け入れることはできないが、それでもあの時、同じように多くの人の命を思って決死の覚悟で現場に向かった人たちがいたんだよな、と名もなきヒーローたちに思いを馳せた。
かつての香港映画の中では間違いなく現場で戦う消防隊員側であったアンディ・ラウが、過去の痛みを乗り越え、香港を救わんと必死に奔走する専門家を渋く演じていて、そちらも必見。
●『カウントダウン』
配給/AMGエンタテインメント 全国公開中 ⓒ2024 Edko Films Limited and Beijing Alibaba Pictures Culture Co., Ltd. All Rights Reserved.
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。