F1第10戦カナダGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
FP3の不用意なドライビングで「10グリッド降格」という厳しいペナルティを科されてしまった角田裕毅(レッドブル)は、最後尾18番グリッドから決勝をスタートすることになった。
速さのあるマシンだけに、いかに渋滞に引っかからず本来のペースで走れるかが、最後尾スタートでは重要になる。
ハードタイヤを履いてスタートし、定石のミディアムでスタートした中団勢が15周程度でピットインしたところからフリーエアで走行。そこから徹底的に引っ張って、最後にミディアムを履く我慢の1ストップ作戦。
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前のエステバン・オコン(ハース)とカルロス・サインツ(ウイリアムズ)も同じ戦略だったので、彼らを追いかけていった。しかし、フロントタイヤにグレイニング(ささくれ)が発生し、グリップが低下していく。
それをなんとか抑えながら走り続け、徐々にグレイニングが消えてグリップを取り戻していった。ほぼぶっつけ本番の新型フロアを装着したマシンでは、なかなか前の2台についていくことができない。
「最初はグレイニングがひどかったんですけど、それがある程度きれいになっていって、最終的にはなくなっていたので、そこはよかったかな。ペースは最高とは言えませんでしたけど、それほど悪くもなかったと思います。過去数戦と比べると、それよりはよかった。
でも、18番グリッドからのスタートではかなり厳しかった。周りもハードタイヤスタートが多かったので、(ステイアウトして)セーフティカーを待つ以外にやれることはありませんでした」
オコンとサインツを攻略できれば9位入賞が見える状況ではあった。だが、気づけば彼らに7秒引き離され、56周目まで引っ張ってようやくピットインしたところで、懸念していた中団グループの集団に飲み込まれた。
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40周も古いタイヤを履く彼らを抜いていくのは、それほど難しいことではない。しかし、中団グループの集団に飲み込まれなかったオコンとサインツは、遠く前方にいってしまった。
【フェルスタッペンのマネはしない】
「我慢のレースであり、普通にレースができなかった感じもありました。トレインの後ろのほうで走っていると(ダウンフォースを失って)グレイニングが出て厳しくなりましたし、ミディアムに交換してからトラフィックにスタックする場面も多かった。クリーンエアでフレッシュタイヤの時にどんなパフォーマンスがあるのか、見せられなかったのは残念です」
ヨーロッパ3連戦で辛酸をなめ、このカナダGPには新たに試したいことをトライしたという。クリスチャン・ホーナー代表によれば、それは角田独自のセットアップの方向性だという。
「裕毅はこれまでほかのドライバーたちがやってきたように、マックスのセットアップをマネしようとする道には進まず、自分自身のスタイルやニーズに合った方向性を追究することを意識している。そして今週末、その取り組みはある程度、前進を見せたように思うよ」
フェルスタッペンと同じセットアップで走れば、RB21のポテンシャルを100パーセント引き出すことができるようになる。しかしそれを可能にするには、このチームで9年走ってきているフェルスタッペンと同等レベルまでマシンを習熟し、ナチュラルに操れるまで身体に馴染ませる必要がある。ドライバーの能力以前の問題として、それには決して短くない時間が必要だ。
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だから角田は、まず自分のスタイルに合ったマシン方向性を模索し、そうすることで100パーセントを引き出せなくても95〜97パーセントを安定して引き出せるようにすることを、最初のターゲットに据えた。
そのための第1ステップがカナダGPだった。FP3のトラブルとペナルティで見えづらくなってしまったものの、ヨーロッパ3連戦で霞んでいた実力が戻ったことは確認できた。
その新たなアプローチがうまくいったのか、いかなかったのか。うまくいったら詳しく話しますと語っていた角田は、カナダGPを終えて「まだ秘密にしておく」と言った。
「そうですね、元のペースに戻ったといえば戻りましたし、悪くはないかなと思います。詳しいことは、まだ言わずにおきます」
「失敗」と断じる理由はなく、しかしまだ「成功」と自信を持って言える段階でもない。角田の新たな挑戦は、道なかばということなのだろう。
これまで不運にばかり見舞われてきたカナダで、今年も決して流れはよくなかった。しかし、ここで得た経験をしっかりと噛みしめ、新たな挑戦を次のステップへと進めることができれば、そのジンクスは乗り越えられるのかもしれない。