『JUNK WORLD』監督・堀貴秀「人と金がなくても、僕が表現したい映画を作るにはこの方法しかないんです」

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2025年06月18日 07:20  週プレNEWS

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物体を1コマずつ動かして撮影するストップモーションアニメで世界的に注目される作家・堀貴秀監督の新作が先週から公開中だ。前作から約4年、地道で終わりの見えない作業の末に完成した同作について、製作秘話を語ってもらった!

【写真】不気味でユニークなクリーチャーも数多く登場『JUNK WORLD』

■前作は大反響も製作は苦労だらけ

――前作『JUNK HEAD』から約4年、続編『JUNK WORLD』がついに公開されました。

 ありがとうございます。前作は製作に約7年もかかりましたが、今回は3年で完成しました。

――新作が半分以下の期間で製作できた理由は?

 前作の反響を受けて、スタッフの数が倍になったことが大きいですね。3人から6人に増えました(笑)。

――前作は映像制作の経験ゼロだった堀監督が、ひとりで手がけた短編から始まりました。内装業の仕事をしながら製作資金を集めていたそうですが、その頃に比べると環境はかなり変わったのでは?

 おかげさまで今はアルバイトもせずに、映画一本でやれています。「いつか映画だけをやって暮らせるようになりたい」と願った夢が実現しました。ただ......実際にやってみると苦しくて。

――何が苦しい?

 単純に生活が(苦笑)。そもそも、前作はコロナ禍での公開だったこともあり、劇場収入は製作費を回収できる程度でした。パンフレットやDVDなどの二次利用でなんとか利益が出たくらいです。

――そのパンフレットですけど、映画で明かされていない設定の解説など、すごく内容が充実していましたよね。

 映画だけでなく、パンフレットも手作りですからね。この売り上げが僕の命綱でした(笑)。だから、前作に比べて予算規模は増えましたが、一般的な劇場公開作に比べたら決して多くはないんです。

それでも表現したい映像を作るとなったら、とにかく自分が頑張るしかない。スタジオの2階に住んでいるので、起きたら寝るまでずっと作業して、外にもほとんど出ない日々でした。

――『JUNK』シリーズの特徴である、パペット(人形)を少しずつ動かして撮影する「ストップモーションアニメ」という手法には膨大な作業量を要しますが、新作ではどこに時間がかかりました?

 前作はすべて手作業だったんですよ。人形の造形も粘土をこねるところからひとつずつ。それがとにかく大変だったので、今回はキャラクターの造形にCGと3Dプリンターを導入したんですけど、僕も含め、スタッフに誰も使いこなせる人がいなかった(笑)。だから全部イチから勉強しなきゃいけなくて。

――まず機械の使い方を学ばないといけなかった。

 そうなんです。何時間もかけてクリーチャーを作ったのに、3Dプリンターの設定が悪かったのか、造形がゆがんでしまって作り直しとか、たくさんありました。

あと、昔なら諦めていた細部の修正がコンピューターでいくらでもできるようになったので、結局は前作と同じくらい手間をかけてしまい、時間的に短縮にならなかったり。とにかく手探りでした。

■映像も物語もスケールアップ

――「これはうまくいった」というシーンは?

 細かいところですけど、岩場のセットは石のバランスが自然に見えるようにすごく意識しましたね。

――新作では廃墟となった都市など、大きなセットも登場しますが、そういった派手なシーンではなく?

 廃墟みたいなデザインがしっかりとあるシーンは、逆にスタッフに任せられるんです。むしろ、岩場みたいに何げないものに手を抜いたほうが変な映像になってしまう。実在しないSF的な世界を描くからこそ、どこにでもあるものをしっかり作り込むことが大切だと思っています。

――前作は地下世界を舞台にした壮大な世界観と独創的なキャラクターたちが大きな反響を呼びましたが、新作はその1042年前を舞台に、映像だけでなく、物語も大幅にスケールアップした内容が展開されます。特に中盤以降の展開には驚かされました。

 ネタバレになるので詳しくは話せませんが、SF好きの人なら、すんなり受け入れられると思いますが、SFに慣れていない人がどう思うのかは少しドキドキしています。セリフも漫才のようなやりとりが中心で、設定の説明も最小限にしていますし。

――でも、謎がちりばめられているからこそ、内容を考察する楽しみもありますよね。

 特に自分は何回も見たくなるような作品を目指しているので、一度ですべてが理解できるようにはわざとしていないところもあります。まあ、映画で描かれない部分についてはパンフレットで解説しているので、ぜひそちらもご覧ください(笑)。

――さらに、新作の大きな変更点として、キャラクターの音声が日本語になりました。前作は謎の言語を話していて、字幕で説明するという形式でしたが、この変更の経緯は?

 声もスタッフが担当しているんですけど、なんか、できる気がしたんですよね。

――できる気がした(笑)。

 前作でキャラクターが日本語を話さなかったのはこだわりではなくて、当初は自分だけで製作していたので、何人も声を演じ分けるのは難しいという判断だったんです。だから、そもそもキャラクターが日本語を話すこと自体には抵抗がなくて。

――プロの声優を使うという選択肢も?

 実は「手伝いますよ」と言ってくれた方もいたんですけど、映像の完成が締め切りギリギリになってしまい、お願いできるスケジュールではなくなってしまったんです。それなら思い切ってスタッフでいこう、と。

■奇抜な世界観なのに誰もが見やすい理由

――なるほど。失礼ながら、かなりの"棒読み"でびっくりしたのですが、映画が進むとだんだんとクセになってくるんですよね。独特の世界観と融合して、これが自然にさえ感じてくる。

 それも狙いのひとつではあります。本当です。『JUNK』シリーズはその手作り感も応援してもらっている要因だと思っています。だから、声優もプロにお願いせず、自分たちで頑張ったほうが応援してもらえるんじゃないか。そういう、まあ姑息な計算ですね(笑)。

――セリフでいえば、堀監督の作品はキャラクター同士のやりとりに必ずユーモアが込められている点も特徴的です。

 僕はSFだけでなく、『男はつらいよ』みたいな作品も好きなんです。寅さんの丁々発止のやりとりとか、見ていて気持ちいいじゃないですか。ああいうのも目指しています。

――だから、全体の世界観はかなり奇抜なのに、不思議と見やすい作風になっているんですね。

 そのおかげで、僕の作品には女性のファンも多いんですよ。

――それは意外ですね。だって、けっこうエグい下ネタもあるじゃないですか。

 どこですか?

――「クノコ」という高級食材の造形なんて、完全に男性のアレですよね。

 いや、あれは下ネタだと思ってなかったんですよ。前作でも「尻尾」と説明していますし。ただ、観客の皆さんは「あの形は......アレだよね」という反応で、僕としてはそう見えちゃうんだって驚いたくらいです。意図的ではありません。本当ですよ。

ただ、今回はさらに踏み込んだ表現もあるので、さすがに怒られるかもしれないですけど(笑)。

――『JUNK WORLD』は3部作の2作目とのことですが、最終作として予告されている『JUNK END』はいつ頃公開予定ですか?

 数年後の公開を目標にしています。まだ絵コンテすらできていないので、また地元のスタジオにこもる日々に戻ります。

――それだけ手間も時間もかかるストップモーションアニメの魅力とは?

 自主製作でも大作SF映画が作れる。そこに尽きます。こういう世界観の作品を実写でやろうとしたら、おそらく何十億円もかかるはずです。でも、このやり方なら少人数・低予算でも壮大な世界をつくることができます。本当に製作は大変なんですけど、僕が表現したいことを制限なくやれる手法は、やはりストップモーションアニメしかありません。

●堀貴秀(ほり たかひで) 
1971年生まれ、大分県出身。高校卒業後、内装業の仕事をしながら、アニメーション監督の新海誠氏がほぼひとりでアニメ映画を製作したことに触発され、自身の映画製作に取り組む。2009年に30分の短編『JUNK HEAD 1』を製作、2013年に完成。自主上映で話題を呼び、14年4月から製作を開始、2021年3月に公開された長編『JUNK HEAD』がスマッシュヒットを記録。ストップモーションアニメの新時代を築く作品として絶賛された

■『JUNK WORLD』全国公開中!! 

<INTRODUCTION> 
「ストップモーションアニメ」は静止している物体を1コマ(24分の1秒)ごとに少しずつ動かした様子をカメラで撮影し、それを連続して動いているように見せる撮影技術のこと。日本ではこの技法を使った作品は子供向け作品が多かったが、本格的なSF作品として世に送り出し、数々の映画賞を受賞したのが前作『JUNK HEAD』(2021年)だ。本作はその待望の続編。前作から1042年前が舞台で、前作を見ていなくても問題なし!

<STORY> 
環境破壊により地上に住めなくなった人類は、地下開発を目指し、その労働力として人工生命体マリガンを創造するが、自我に目覚めたマリガンが反乱を起こし、地下を乗っ取られてしまった。そんな世界で新種のウイルスに襲われ、人口の30%を喪失した人類は独自に進化していたマリガンの調査を開始。地下調査員とマリガンが組み、共に目的地を目指すが......

取材・文/小山田裕哉 撮影/榊 智朗 ©YAMIKEN

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