
▽ノウハウ継承に危機感8割
建設業界では少子高齢化に伴う労働力不足やデジタル化の遅れなどの問題点が以前から指摘されている。さらに、ここ数年は働き方改革への意識の高まりもあり、業界を取り巻く環境は大きく変化している。
各社が諸課題の解決に向けて対策を進めている中、建設資材の製造販売などを手がける野原グループ(東京、野原弘輔社長)は、建設業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に向けた独自のビジネスを積極的に展開している。その中核にあるのが、新しく開発したプラットフォーム「BuildApp」(ビルドアップ)だ。
生産性の向上が大きな課題といわれる建設業界で、「BIM」と呼ばれる、コンピュータ上に作成した3次元の形状情報に加え、材料の仕様や仕上げなど建築物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築していく手法が注目されている。
野原グループのBuildApp総合研究所(東京)が今年3月、全国の建設産業従事者1257人を対象に行った調査によると、8割強が「ベテラン技術者のノウハウや技術が失われる可能性がある」と危機感を抱いているほか、4人に1人が「技術の継承の方法は特に取られていない」と回答。その上で、今後、建設プロジェクトを計画通りに進めるには「BIM活用による設計・施工プロセスの生産性向上が必要」との声が最も多かったという。
参考:【独自調査】現場の円滑な進行を支えるベテラン技術者の「ノウハウや技術」喪失に8割強が危機感
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国土交通省もBIMの導入活用は建築生産現場の生産性向上につながるとして、建築会社などに導入の検討を呼び掛けている。
野原グループはBIMをベースに、設計データへ目的に応じたデータを付与し、建設工程全体を支援することで業務効率化が狙えるBuildAppの開発構想を2021年に発表。サプライチェーンのプレーヤー間の情報連携を図り業界全体の生産性向上を目指す取り組みとして、当初から注目されていた。
▽データ連携で生産性向上
BuildAppは、データで建設プロセスを一気につなぎ、関係者が効率的に業務を進められるシステムを提供できるのが特徴。設計積算から製造・流通・施工管理・維持管理までをBIMでつなぐ複数のサービスにより、各プレーヤーに合わせたサービスが提供可能に。例えば建設現場に変更箇所があった場合にも、その承認作業の時間短縮を実現できるため、生産性向上につながり、ひいては働き方や人手不足の解決に向けた貢献も見込めるほか、建設図面のビジュアル化で部材建材単位での排出ガスの削減効果も期待でき、カーボンニュートラル社会の実現も目指すことができるとしている。
開発責任者である野原グループBuildAppサービス開発統括部の平野洋行部長は「建設業界は、就業者数の減少、高齢化、ほかの産業と比べて低い生産性という三つの問題を抱えているが、BIMを使ったBuildAppの提供で解決は可能だと思う。建築プロセスを変えていくことで生産性を上げていきたい」と力を込める。
同社はすでに今年2月から、BIM化が遅れている内装仕上げ工事向けの新サービスとして「BuildApp内装 建材数量・手配」の提供を開始。受注・引き合いについては「滑りだしは順調」(平野部長)といい、今夏には第2弾を商用提供予定という。
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ただ、BIMの導入を検討する企業が増える一方、習熟までの業務負担が大きいことや、維持管理にコストがかかるといった指摘も出ている。平野部長は「BIMソフトを購入しづらい専門工事会社にも簡単にBIMのメリットを感じ生産性を向上できる基盤環境としてのBuildApp事業を強化していく」と話しており、今後もBIM戦略で抜きんでている同グループの動向には関心が集まっている。
▽働きやすい環境づくり
建設業の就業者数は、1997年のピーク時の685万人から減少傾向で、2024年には477万人と、ピーク時から約30%減少。また24年に始まった時間外労働の上限規制で建設業は原則、月45時間、年360時間までしか残業はできなくなっているのが現状。
そんな中、同社の労働環境改善への取り組みは早くから行われてきた。社員にとって働きやすい環境を守るため、新型コロナウイルス感染拡大後に始めたテレワーク、時差出勤、フレックスは、現在も継続しているとのこと。「社長が生産性にこだわっていて、そのための働き方については本人に選択肢を与えている」(広報担当)と独自色を打ち出しており、現役社員だけでなく、新入社員からも好評という。
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