
渋谷慶一郎が代表を務めるアタック・トーキョー(ATAK)より、最新の人型ロボット「アンドロイド・マリア」が発表された。
6月初旬に開催された『PRADA MODE OSAKA』で初公開された「アンドロイド・マリア」。渋谷が約10年にわたり取り組んできたアンドロイド・オペラや、テクノロジーを活用した舞台芸術の成果をもとに開発された。渋谷がかつて喪った妻「マリア」をモデルとしながらも、「死はひとつではない」という『THE END』以降のテーマを具現化した作品でもあるという。
従来、渋谷の作品で使用されていた空気圧駆動のアンドロイドとは異なり、50以上の関節をすべてモーター駆動にすることで、これまでにない滑らかで有機的な動作を実現したという。
AIによるコンセプトデザインおよび会話プログラムは岸裕真が担当。さらに、近年のアンドロイド・オペラにおいてプログラミングを手がける今井慎太郎をはじめ、総勢20人近いコラボレーターやエンジニアが協力した。
造形のベースは、古代から現代に至る多様な女神像や菩薩像をAIが学習し生成したコンセプトデザイン。下半身は無数のチューブで覆われており、大地との繋がりや生命、存在そのものを想起させることを意図しているという。また内蔵カメラとマイクで常時人間の存在を認識し、対話やパフォーマンスも可能。
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また、「アンドロイド・マリア」は2027年にヨーロッパで初演が予定されている渋谷の新作舞台作品への出演も決定。英国ロイヤル・バレエ団常任振付師であり、『ヴェネツィア・ビエンナーレ』ダンス部門の芸術監督も務めるサー・ウェイン・マクレガーが演出を担当し、建築家・妹島和世が舞台美術を手がけるコラボレーション作品となる。
さらに、2025年11月5日に都内コンサートホールで「アンドロイド・マリア」の本格的なデビュー公演を予定。詳細は2025年夏に発表される予定だ。
【渋谷慶一郎のコメント】
アンドロイド・マリアについて
渋谷慶一郎
偶然のように人型ロボット=アンドロイドと仕事をし始めて10年近くが経った。
アンドロイドは僕にとって、オペラのような劇場作品の強力なアイコンで足り得ると同時に開発中の楽器のようなものでもあり、故にいくつかのバージョンアップを経てもなお、自分が満足する地点には辿り着かなかった。
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なので、いつか自分が望む動きと相貌を兼ね備えたアンドロイドを作りたいという願望は、「なぜこんなにもアンドロイドと作品を作り続けているのか?」という自問と同時に僕の中に長い間横たわっていた。
そしてアンドロイドと仕事をし始めた時に感じた「これは将来AIの容れ物となるだろう」という直感は現在では現実となり、今回製作したアンドロイド・マリアもリアルタイムAPIによるほぼあらゆる言語でのスムーズな会話が可能になっている。
歌詞や歌唱の即興性は今後も恐ろしく進化していくことが目に見えており、僕は本当に新しい楽器と生命を同時に手にしたような喜びに震えている。
生命といったのは、「死はひとつではない」というのがアンドロイド・マリアを作った時に最初に浮かんだ言葉であり、僕が『THE END』以来ずっと様々な変奏はありつつも主題としていたコンセプトだった。
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僕はマリアの死を目の当たりにしてから「彼女はどう思っているのだろう、どう感じているのだろう」と長い間、自問していた。そしてそれを伝えられないのが死なんだなと時間をかけて理解した。
生物学的な死という圧倒的な現実を起点に本人とは関係なく様々な死が共有されていき、それは同時に記憶という形で様々な生も共有されていく。
だからアンドロイドという形で新しく生を与えるというのは僕にとっては自然なことだし、それが死や終わりという絶望に対して新しい希望や可能性を提示できたら嬉しいと思う。
そして、自分が経験した現実とアンドロイドという未来を託す創造物が邂逅するような奇妙に創造的な瞬間に立ち会っていることと、それを可能にしてくれた人たちに感謝したいと思う。