最近「静かな退職」が話題になっていると、テレビで放映されていました。
静かな退職とは、「会社を辞めるわけではないし、必要最低限の仕事はきちんとやるけれど、それ以上のことはしない」という働き方だそうです。
仕事や働き方に対する考え方は人それぞれなので、静かな退職のような働き方も「アリ」なのかもしれません。これまでだって「仕事は仕事、プライベートはプライベート」ときっちり分けるタイプの人もいましたからね。
静かな退職のような働き方をする人が増えると「組織の活力がなくなってしまう恐れがある」といった、会社側の問題を指摘する人もいます。でも、会社のことは会社のこと。ここではいったん「自分のこと」について考えてみたい。
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静かな退職が現在や未来の自分に好影響を与えるならばよいのですが、その選択がリスクになる場合もありそうです。そこで今回は「静かな退職のリスク」について考えてみます。
●「静かな退職」2つのパターン
静かな退職には、大きく分けて2つのパターンがありそうです。
1つ目は、「仕事とプライベートは、はっきりと切り分けたい」「プライベートを充実させたい」というパターンです。
ワークライフバランスという言葉が一般的になってきました。人生を充実させる上では、何でもかんでも「仕事第一」ではなく、プライベートも大切にする。それも一つの選択肢です。
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2つ目は、「仕事にやる気ややりがいを見いだせない」パターンです。
先日、ある大手企業の情シスで働く20代の方と話をする機会がありました。その方は「静かな退職のような働き方をしている」そうです。
「なぜ、静かな退職のような働き方を選んだのか?」理由を尋ねたところ、「やりたい仕事をやらせてもらえない」「上司に相談したが、未来を期待できるような回答が得られなかった」からだそう。いま担当している業務が、将来のスキルアップにつながると思えないため、「この会社で頑張っても意味がない」と感じるようになり、「言われたことしかやらない」と決めたそうです。だからといって「転職する気はない」そうです。
このように、「静かな退職」の動機には人それぞれの理由がありそうです。
●「静かな退職」に潜むリスク
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冒頭で、静かな退職に潜むリスクについて触れました。具体的にはどういったリスクなのでしょうか。
一言で言えば「周囲から評価、信頼されなくなる」こと。その結果「給与が下がる恐れがある」ことです。
「必要最低限の仕事はきちんとやるけれど、それ以上のことはしない」ということは、言い換えると、「指示されたことだけをやる」ということでしょう。
若い頃は、静かな退職を選択してもそれほどリスクを感じないかもしれません。なぜなら、若いうちは「自分で考えて動く」よりも、「指示された仕事をきちんとやる」ことが求められるケースが多いからです。指示されたことをそつなくやっていれば、役割を果たしていることになります。評価もそこそこ得られるでしょう。
一方で、ある程度年齢を重ねてくると、状況が変わってくる場合があります。僕はいま50代ですが、最近、仕事をする上で「周囲から指示される」ことが少なくなりました。周囲から「あれやれ」「これやれ」と指示されないため、静かな退職の大前提である「指示されたことだけをやる」こと自体ができないわけです。
なぜ、経験を積むと、あるいは、年齢を重ねると指示されなくなるのか? その理由は、「指示される側」から「指示する側」になる「役割の変化」かもしれませんし、「いままである程度経験してきたのだから、自分で考えて動いてよ」という、周囲からの「期待の変化」かもしれません。あるいは「年上の人に『○○してください』とは言いづらい」といった、年齢に伴う「言いやすさの変化」かもしれません。
もちろん、この状況でも「必要最低限の仕事はきちんとやるけれど、それ以上のことはしない」を貫くことはできます。けれども、年齢や経験を重ねるにつれて、周囲から期待される「必要最低限」が変わってきます。「求められる必要最低限をやっていない」となれば、周囲から信頼も評価もされなくなってしまいます。その結果、給与が下がってしまうかもしれませんし、最悪、早期退職を勧められるかもしれません。
●「仕事漬け」になる必要はないけれど
もっとも「そんなに未来のことは考えなくていい」という考え方もあります。また、仕事は人生の一部であり、人生=仕事ではありません。必ずしも、仕事漬けにならなくたっていい。
また、「本当はやりたいことがあるのに、上司がやりたいことをさせてくれない」とか、「将来について上司に相談しても、未来が期待できるような回答をしてくれない」といった状況に置かれるケースもありますよね。そのような状況でやる気がなくなるのは当然です。「これ以上やる気を出しても無駄だ」「指示されたことだけをやっていた方がコスパがいい」と諦めてしまうのも、自然な心の動きだと思います。
静かな退職を選ぶことも、もちろんできます。
一方で、いまの選択が、ボクたちの「未来のリスク」になってしまうのであれば、できればそれは回避したい。静かな退職には未来のリスクの可能性があることは、頭の片隅に置いておいても損はないでしょう。
さらに、「人生100年時代」と言われるこれからは、いままでよりも長く生きることになります。安心した暮らしにはある程度お金も必要です。もし「将来を考えると、ちょっと困るかもな」と思ったなら、静かな退職という働き方で浮いた時間を使って、将来、役に立ちそうなことや興味があること、やってみたいことに時間を使い始めるのはどうですか?
特に「やりたい仕事をやらせてもらえない」「上司に相談したが、未来を期待できそうな回答が得られなかった」といった諦めが静かな退職を選んでいる理由ならば、その背景には、「本当はやりたい仕事をやりたい」「将来のためにスキルアップしたい」といった気持ちがあるはず。自分の人生を上司の判断や言動にゆだねるよりも、自分の意思で選択した方が、理想の環境を早く手に入れられるのではないかと思います。
●筆者プロフィール
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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