
新卒採用市場では「売り手市場」と言われる状況が数年続いており、学生にとっては有利な環境が続いています。
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「まずは身の丈に合った会社の早期選考で内定を確保し、本選考でチャレンジ企業を受ける」「いくつか内定をもらってから、福利厚生や職場環境、給与を比較して決める」など、就職氷河期を経験した世代からすると、うらやましく感じるような話も多く聞かれます。
とはいえ、人生の重大な岐路となる企業選びは、今のような恵まれた環境にある学生にとっても悩ましいものです。各企業が自社の魅力を積極的にアピールするなか、何を優先して選ぶべきか迷う学生も少なくありません。
内定をもらったのは…まったく正反対な2社
関東在住のAさん(20代・文系)は、全国的に知られる中堅私立大学に通う学生です。就職を意識し始めたのは、サークルの1学年上の先輩たちから「第一志望に内定をもらった」「今のところ3社から内定をもらっているけれど、本命はこれから」といった話を聞くようになった、大学2年の冬頃のことでした。
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「3年の夏にはサマーインターンに参加して、早期選考をいくつか受けておいたほうがいいよ」
「大手ばかり受けると、インターンに全滅することもあるから、身の丈に合った企業も受けた方がいいよ」
といった先輩たちのアドバイスを受け、不安を抱えながらも就職活動の情報収集を始めたそうです。
幸い、学生数の多い総合大学ということもあり、大学内で開催される合同説明会やキャリアセンターの支援も充実しており、Aさんはいくつかの企業と出会うことができました。
Aさんが就職先に求めた希望は以下のようなものでした。
・初任地はできれば実家から通える範囲が望ましいこと。将来的に転勤が必要になった場合も、手当があり、配属先が極端に不便な場所でなければ受け入れられること。
・営業職よりも、総務・経理・人事などのバックオフィス業務に興味があること。ただし、面白そうな企業であれば、営業からスタートしてマーケティングや企画などへキャリアアップする道も魅力に感じていること。
・将来的に転職につながるようなスキルを身につけたい一方で、残業はできるだけ少なく、休日はしっかり休めるメリハリある働き方を望んでいること。
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このような希望をもとに、さまざまな業種や規模の企業にエントリーした結果、Aさんは最終的に2社から内定を得ました。ところが、その2社は「正反対」ともいえる条件でした。
1社は、大手メーカーの子会社で、バックオフィス系の地域総合職。希望勤務地での配属が確約され、将来的な転勤もないとされています(以下、A社)。
もう1社は、初任配属地が入社後の研修を経て決まる大手の専門商社。営業職での内定が出やすいと先輩に聞き、営業職で応募。将来的にマーケティングなどへの配属の可能性もあるとされる総合職採用でした(以下、B社)。
業界も職種も勤務地も異なるこの2社の間で、Aさんは大いに悩んでいます。
初任給の差は「5万円」…どっちの会社を取るべきか
「職種や勤務地のことを考えればA社です。でもA社は子会社だし、正直なところオフィスも地味なんです。一方で、B社は業界大手だし、マーケティングへの配属もあり得ると聞いています。とはいえ営業の仕事や転勤など不安は尽きません」
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と語るAさん。でも理由はそれだけではないようです。
「実は、初任給がB社のほうが5万円高いんです。実はそれが一番の悩みなんです」
Aさんは、すでに両社に内定承諾書を提出しているため、どちらの企業からも内々定者懇親会の案内が届いているといいます。
「最終的には両方の懇親会に参加して、同期の雰囲気で決めることになるかもしれません」
Aさんの迷いは、もうしばらく続きそうです。
学歴別初任給の平均
2024(令和6)年の新規学卒者の平均初任給が発表されました。
院卒:287,400円
大卒:248,300円
高専・短大卒:223,900円
専門学校卒:222,800円
高校卒:197,500円
いずれも前年比で3.9%〜5.7%の高い伸び率を示しています。
とはいえ、初任給をUPできる企業ばかりではなく、企業間の差は拡大しつつあります。ますます学生の「悩み」も増えるのかもしれません。
【参考】
▽厚生労働省/令和6年賃金構造基本統計調査「新規学卒者の学歴別にみた賃金」
◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。