累計発行部数2300万部を誇る、Jユースを舞台に描いたサッカー漫画『アオアシ』(小林有吾/小学館)が6月23日発売の「週刊ビッグコミックスピリッツ 2025年30号」で遂に最終回を迎えた。全410話、2015年の連載開始から10年に渡る長い旅路だった。
参考:【画像】『アオアシ』アニメ2期決定で作者・小林有吾が描きおろしたイラスト
愛媛から上京しプロへの登竜門であるユースチームで揉まれ、もがきながらも成長していく葦人の姿にどれだけの勇気を貰ったことだろう。本作品が伝えてくれたサッカーの奥深い楽しさと、作品の魅力を完結を機に改めて振り返っていきたい。
■サッカーの面白さを再認識させてくれた作品
愛媛県の田舎町で育った主人公の青井葦人が、同じく愛媛をルーツに持つ東京シティ・エスペリオンユース監督、福田達也と運命的な出会いを果たすことからこの物語は幕を開ける。福田の野望である”自分のクラブを世界一に”、その根幹を担う「育成」を司どるユースへの扉を葦人が開き、サッカーにのめり込む様が作中で丁寧に描かれていく。
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これまであまり題材に上がることのなかった育成年代「ユースチーム」に焦点を当てたことも新鮮だった。なにより、福田が葦人に言い放った「世界へ、連れて行ってやる」という言葉にワクワクさせられた。サッカーの本場はいまだ海外と目される中、日本のチームが世界を凌駕する、そんな光景は想像もしていなかった人が大半だろう。
サッカーというスポーツに詳しくない大多数の読者にも分かりやすく、葦人が課題に直面する中で得た気づきを感じ取ることができる点も魅力だ。
『アオアシ』という作品を語る上で欠かせないワードの1つである「言語化力」を通して、サッカーという競技を1段階も2段階も深く知ることができるのだ。読み進める内に解像度が上がり、現実のサッカーの試合を観る時の楽しみが増した、という読者も少なくないだろう。
俯瞰の視点、オフザボール(ボールを持っていない時)の動き、5レーンといったワードも言語化を図る上で重要な要素となった。言葉にすることで共有し、同じ価値観を持ってチームとして連動できる。葦人と共に自分自身も成長しているような気持ちにすらさせてくれた。
■考える葦たちが私たちに残してくれたもの
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プロという狭き門を潜り抜ける為に、葦人を始めJリーグユースに所属する選手たちは努力を重ねながら懸命に日々を生きていた。
葦人たちだけではなく、初期から葦人の心の支えとなっていた一条花や、女手ひとつで葦人を育て東京へ送り出した母親。葦人たちユースの面々を見守るコーチ陣。Jリーグの下部組織であるユースチームへの対抗心を燃やしながらエスペリオンユースに立ち向かう高校の強豪校たち。そしてスペインの名門、バルセロナユースの面々。さらには夢半ばで破れ新たな道に進む者も。作中に登場するキャラクターそれぞれが考え、あがき、懸命に生きる姿。そこには確かな人間の手触りがあった。
作中で花が「人間は考える葦である」という、哲学者・パスカルの有名な言葉を引用したセリフを葦人に告げるシーンがある。人間1人1人は弱い存在だが、考えることこそが偉大な力になる、という意味だ。
葦人は課題に直面しながらも、考えに考え抜き、自分で答えを掴んだ。自分で掴んだ答えは、一生忘れない。人が学び、育つことの尊さを感じさせてくれた10年だった。
最終話が掲載された「ビッグコミックスピリッツ」誌上では、浦沢直樹、あさのいにお、ジョージ朝倉をはじめ、豪華な面々による完結お祝いイラストも公開されている。
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2026年にはTVアニメ第2期の放送も予定されているほか、さらには葦人の地元、愛媛県のJリーグチーム「愛媛FC」の2025年8月31日ホームゲームにて「アオアシ サンクスマッチ」が開催されることも決定している。
誌面という枠を超えて、ファンを楽しませてくれた「アオアシ」。連載が完結してしまった寂しさは勿論ある。作者の小林有吾は物語を終え、読者へのメッセージに「ここから先の葦人たちの話は、みなさんが思い描いてみて下さい」と綴っている。
作品を愛した人の数だけ物語は広がっている。若く、希望に溢れた世代はこれから何にだってなれる。大きな希望と、未来への夢を見せ続けてくれた『アオアシ』。10年間の軌跡に、改めて感謝の言葉を伝えたい。
(文=もり氏)
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