‟社内で一番厳しい部署”で「連日女性上司に詰められる同期」…それでも楽しそうにしていた、“まさかの理由”に社員一同驚き

　新社会人にとっての最初の配属とは、その後の仕事人生をも左右しかねない重大なイベントである。そんな悲喜こもごもある配属では、意外な人間性が明らかになることもある。
　金井弘明さん（仮名・41歳）がそうした体験をしたのは、新卒で入った不動産会社でのことだった。

◆同期が配属されたのが‟最悪の部署”

「自分は営業として配属されたんですが、20年ほど前のその当時はコンプラ意識も薄くて、成績が悪いと鬼詰めされるのも当たり前。配属された部署によっては、成果を出せなければ高確率でメンタルをやられる過酷な環境でした」

　そんな環境下では、新入社員の配属はとりわけ大きな意味を持つ。

「同期に須藤（仮名）という奴がいたんですが、その同期が配属された部署が最悪でした。須藤もエリア違いの営業部なんですが、上司の女性課長が、プレイヤーとして全社員の中でも1・2を争う成果を出している人で、成果が出ない部下に延々と人格否定の言葉を浴びせるようなタイプだったんです」

　実際にその部署では、精神に不調を来たして退職する社員が多数出ていた。金井さんが心配したのは、須藤さんが営業に向いているようにはあまり見えなかったことも大きかったそうだ。

「優しくていい奴なんですが、自分の意見を主張するタイプではないですし、線も細いしメンタルも強そうには見えなくて。正直、長くは続かないだろうと思っていました」

◆結果は出せないものの、気丈に振舞っていた

　そうして数カ月が経つと、金井さんの予想は悲しいかな、的中してしまう。

「提案するのはマイホーム。ふつう一生で一番の買い物ですから、そう簡単に成約出来るものではありません。特に新人がはやばやと最終的な成果を出すのは難しいので、アポ数などのプロセスで管理されていました。ですが、須藤は進捗も悪かったようで。配属されてしばらくした頃から、課長に詰められるようになったんです」

　心配した金井さんだったが、意外に思うことがあった。

「須藤は『大変だよ』とは言うものの、一緒に飯に行けば楽しそうで、課長に詰められていることを大して苦にしていないように見えました。飲みの場でも『成果を出せるようになりたい』と前向きな話ばかりで、『つらい』といった弱音を吐くこともなかったんです。その様子を見て、コイツ意外とメンタル強いんだなと思いました」

◆急に会社を辞めた…“意外過ぎる理由”に一同唖然

　その後も須藤さんの数字は伸び悩み、連日詰められてたまま。それでもめげない様子から、むしろ「同期の中で一番根性がある」と一目置かれる存在になっていった。

「先輩たちも、『須藤みたいなタイプがコツを掴むと一気に伸びるんだけどな』と期待するようになっていました。そんな矢先に驚く話を耳にして……須藤が急に会社を辞めたんです」

　退職した理由は誰もが予想だにしないものだった。
　
「表には出さなかったものの、やっぱりメンタル的にはきつかったのかなと思っていたんですが、違ったんです。まさかまさか、アイツの本当の退職理由は、例の女性課長との不倫によるものでした。それが課長の夫にバレてしまって、と……」

　というのも、課長の夫は会社の創業メンバーのひとり。すでに退職して別の事業を行なっていたものの、変わらず会社の上層部とも懇意にしていたのだ。

　夫経由で不倫が役員らに伝わり、風紀を乱したことを理由に退職を迫られた——これが事の真相であった。

「須藤が数字を出せなくても耐えられたのは、叱られる相手が不倫相手だったから（苦笑）。さらに驚いたのが、課長の方が須藤に入れ込んでいたことです。裏でそんなことが起きていたなんてと、みんなして仰天でしたね。元から言われていた『須藤はすごい奴だ』の意味こそ変わりつつ、同じ言葉で会社中の話題をかっさらっていました」

　須藤さんはその後、課長の夫から多額の慰謝料を請求された。金井さんは「返済が大変だ」とのボヤキを本人から何度かは聞いていたそうだが、職場での縁は一般的に儚いもの。完済する前に疎遠となり、彼の肝っ玉エピソードに続きがあるのかどうか、もはや確かめようがない。

＜TEXT／和泉太郎＞

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め