SNS型投資詐欺などを行う、いわゆる「トクリュウ」からの依頼を受け、犯罪収益をマネーロンダリングをしたとして中国籍の男ら男女5人が組織犯罪処罰法違反の容疑で警視庁に逮捕された。男らは、500億円以上の犯罪収益を複数の銀行口座を経由したのちに暗号資産に換金するなどして、資金の出所を追跡困難にしたのち、依頼主の犯罪組織に還流していたとみられている。
マネーロンダリングの手段として利用される暗号資産への換金。といっても、通常の取引所で行われるわけではない。
都心にある高級マンションの一室。電動の紙幣カウンターがけたたましい音を立てながら紙幣を数えると、男は表示された金額を確認し、同じ動作を二度、三度と繰り返した。
「1000万円、確かにありますね。本日の為替レートだと、手数料を差し引いて66591ドル。こちら、指定のアドレスにUSDTを送ります。すぐに反映されると思うのでご確認ください」
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USDTとは、ドルとペグ(連動)された暗号資産の一種で、送金するのは別の場所にいる人物の様子。10分と経たずに依頼主のウォレットに66591ドルが反映され、その場はお開きとなった。某日、筆者が依頼主・A氏の許可を得て同行した「相対取引」の一幕である。
■相対取引自体は違法ではない
相対取引とは、取引所や市場を通さずに資金を交換する行為を指す言葉で、これ自体はただちに違法行為というわけではない。ただし、税金逃れや資産の隠匿に悪用されるケースは多発しており、とりわけ特殊詐欺などの犯罪収益金を洗うマネーロンダリングに使われることから、警察は年々取り締まりを強化している。
事情に明るい全国紙記者が語る。
「警視庁は4月、フィリピンを拠点とする特殊詐欺軍団の犯罪収益金を洗浄した疑いで男女3名を逮捕しました。指揮を執ったのは知能犯を取り締まる捜査2課で、アダルトサイトの架空請求などで荒稼ぎした現金を一度暗号資産に変え、再び日本円に現金化するなど相対取引を繰り返した疑いで、罪状は詐欺。その総額は3か月で11億円にのぼると言われています。
犯罪グループにとって相対業者は汚いお金を洗浄する、なくてはならない存在。詐取した金を追跡しづらい暗号資産に変えて、それを好きなときに現金化できるのですから、従来の銀行間での円の移動と比べて格段に秘匿性が高い。いわば、特殊詐欺の最後の出口を担う機能なわけで、捜査当局がここの摘発に注力するのは時流に合っていると言えます」
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■脱税目的でも多用
犯罪の現場で重宝される暗号資産の相対取引だが、前述A氏によるとその手数料は「一回に決済する金額や業者との関係にもよるが、2〜3%が一般的」と語る。それゆえ、脱税の温床となっている現実もある。
「日本の税制では、暗号資産の売却によって得た利益には分離課税が適用されず、雑所得扱いで税金は最大55%かかる。それが相対業者を使えば2〜3%で済むわけですから、資産を隠しておきたい人にとって大きなメリットがあります。
ビットコインやリップルなどのアルトコインではなく、USDTなど法定通貨と連動したものなら暴落のリスクを考えなくてもいいですしね。端的に言えば脱税ですが、特殊詐欺グループのように徹底的に捜査されでもされない限り、発覚はしづらい。それゆえ、一部の富裕層に相対業者は重宝されているのが現実です。
最近では中国から来るインバウンドの人たちが日本で換金するニーズも高まっており、中国で稼いだお金を日本円に替えてるなんて話もよく聞きます。実際、中国人が仕切っている相対屋グループもあるほどで、彼らは扱う金額が大きいため、セキュリティが高いマンションをいくつも借りて営業しているそうです」(A氏)
とはいえ、トラブルがないわけではない。むしろ、安易に税金逃れで使おうとした結果、とんでもない目に遭うケースも頻発しているという。
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「日本円から暗号資産に替える場合、現金を相対業者に持ち込むでしょう。取引のボリュームは事前に業者に伝えて準備してもらうわけで、そこを叩かれる(強盗される)事件は実際に起きています。あるいは、『人目のつく場所で安全に取引しましょう』などと持ち掛けて安心させ、ファミレスなどで相対取引をするも、お金を渡したらそのまま走って逃げられるなんて原始的な話も聞きます。特にXなどで客を募っている相対業者は筋の悪いのが多くて、トラブルに巻き込まれやすいので特殊なコネでもない限り、安直に手をだすべきではない」(A氏)
本稿執筆時点でビットコインは約10万ドル越えと、上昇トレンドを作りつつある。さらに2025年は暗号資産の暴騰サイクルである「半減期」に該当するなど、マーケットには熱い視線が注がれている。
冒頭で触れた相対業者はこう語った。
「本音では大口取引の客に限定したいけど、うちはあえて『イーサリアム1枚からでもいいですよ』というスタンスをとっている。今なら25万円程度で、3%で受けても実際の利益は5000円程度。ただ、実作業は10分もかからないし、こうした客は周りに広めてくれるので新規をどんどん連れてきてくれる。慣れてくると味をしめて。中には500万、1000万単位の取引をするようになる人も多いから、割のいい商売ですよ」
小口客へと裾野も広がりつつある、暗号資産の相対取引。当局による規制や監視は必要ないのだろうか。
文/新田勝太郎 写真/photo-ac.com