画像はイメージです ※画像生成にAIを利用しています 飲食店で時々困るのが、チョロチョロ動き回る幼い子どもではないでしょうか。もちろん、子供達には悪気はなく、むしろ、たまのお出かけで親と一緒に食事が楽しめるのですから、テンションが上がるのも無理はありません。
ただ、親は子どもから目を離さず、常に監視する必要があることも事実です。今回は、はしゃぎ回る子どもが原因で思わぬ被害を被ったエピソードです。
◆結婚記念日の特別なランチ
「今年の結婚記念日は、ちょっと贅沢しようと思って」と話してくれたのは、都内在住の望月さん(仮名・33歳)です。
彼が選んだのは、都内でも評判の高い老舗の日本料理店。落ち着いた和の趣と、職人が丁寧に仕上げる料理で知られる人気店で、週末ともなれば予約が取りにくいことで知られています。
その日は、記念日ということで夫婦でランチに出かけたとのこと。天気もよく、店内は賑やかで、家族連れの姿も目立っていたといいます。
「最初に出てきた十割そばが、本当に美味しくて。細めなのにコシがしっかりあって、出汁の香りもとても上品で、これから出てくる料理にワクワクしていたんです」
しかし、その穏やかな空気は、突然の出来事によって一変したといいます。
◆走り回る幼児、嫌な予感は的中した
そばをすすりながら会話を楽しんでいた望月さん夫妻。そのすぐ傍らで、幼い兄弟が走り回っていたといいます。席を立ったり、隣のテーブルの下に潜ったりと落ち着きがなく、「ああ、危ないな」と感じた瞬間のことでした。
「その子たち、途中から兄弟喧嘩を始めたんです。声も大きくなってきて、ちょっと嫌な予感がしていたんですが……」
ちょうどその時、2品目の天ぷらを運んできた女性スタッフと、兄弟のひとりがぶつかってしまいました。トレイの上にあった天汁の皿が、ぐらりと傾いたかと思うと、望月さんの方へ飛ぶようにして落下。そして、冷たい天汁が彼女の胸元にまともにかかってしまったのです。
「火傷はなかったんです。冷たい出汁だったので。でも……お気に入りだった白のワンピースが、見るも無惨に茶色く染まってしまって」
あまりの出来事に、しばし呆然とする望月さん。スタッフはすぐに駆け寄り、深々と頭を下げながら謝罪を繰り返したそうです。
◆まさかの理不尽な逆ギレ
その場を見ていた夫は、すぐに兄弟の母親と思われる女性に注意を促しました。「子どもが店内で走り回るのは危険ですし、他のお客さんにも迷惑ですよ」と穏やかに声をかけたそうです。
しかし、その返答は思いがけないものでした。
「落としたのは店員の方でしょ?うちの子のせいにしないで」と、その母親は逆に声を荒げてきたといいます。
「一瞬、え?って固まっちゃいました。まるで責任転嫁されたような感じで……」
騒ぎを察知した店側のスタッフが間に入り、母子に声をかけたところ、その女性は足早に子どもを連れて店を後にしました。スタッフたちは、再度望月さんに謝罪し、クリーニング代の申し出や、お詫びの品も提案してきたとのことです。
「スタッフの方たちは本当に丁寧で、誠意を見せてくださって。だからこそ、あの母親の態度だけが、今でも引っかかっています」
◆苦い記憶となった結婚記念日
本来なら、思い出に残る楽しい記念日になるはずだったこの日。しかし実際には、望月さんご夫妻にとっては、少し苦い記憶となってしまいました。
「せっかくの料理も、正直あまり味を覚えていないんです。なんだか気持ちが落ち着かなくて」
それでも、取材の最後に望月さんはこう語ってくれました。
「もちろん、子どもが元気なのはいいことだと思います。でも、それを見守る大人の姿勢が問われるんだなと感じました。あの日のことで、子どもが悪いというよりも、親の態度が残念だったんです。私たちも、もし親になることがあったら、周囲への配慮を忘れないようにしたいねって、夫と話しました」
一見、些細なトラブルのようにも見えるこの出来事。しかし、外食の場は多くの人が共有する空間だからこそ、そこに必要なのは「思いやり」なのかもしれません。望月さんの言葉には、そんな静かな教訓が込められているように感じられました。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営