『怪獣8号』完結目前! マンガファンを熱狂させた「魅力」「批判」「功績」を振り返る

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2025年06月24日 13:00  リアルサウンド

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怪獣8号 公式 X(@KaijuNo8_O)

 7月18日に最終話が配信予定となっている松本直也による人気漫画『怪獣8号』。2020年7月の連載開始以来、「ジャンプ+」(集英社)の看板作品として走り続けた本作は、配信型マンガという新しいフォーマットの可能性を押し広げ、世代や性別を超えて幅広い読者層の支持を得てきた。


参考:【写真】瞳と身体から青白い閃光が迸る!「1/4スケールスタチュー『怪獣8号』」を見る


■「ジャンプ+」看板として屹立した”中年の再挑戦”


 なぜここまでのムーブメントを巻き起こしたのか。まずは「ジャンプ+」という“アプリ媒体”での連載であったことが大きい。かつて雑誌を手にしていた少年少女たちがスマホでマンガを読む時代に変わるなか、『怪獣8号』はその象徴的成功例として、鮮やかに旗を掲げた作品だった。


 主人公の日比野カフカは怪獣専門の清掃業者で、「防衛隊」を目指すが突如怪獣化する。連載開始直後から驚異的なPV数を叩き出し、「ジャンプ+」のヒット作『SPY×FAMILY』と肩を並べる話題作となった。


 まず第1話は完璧な掴みだったと言える。怪獣が日常的に出現し被害が甚大な日本で、怪獣を倒すヒーローではなく、その死骸を片付ける中年男の姿を描く。かつて防衛隊を夢見たが挫折し、地味な解体作業員として汗を流す彼のもとに、同じく防衛隊を夢見る新入りの市川レノが現れ、夢が揺さぶられる。さらにカフカの怪獣化が物語を大きく動かす。日常から非日常へ、中年の再挑戦という人間味あふれる展開が秀逸で、「続きを読みたい」と強く思わせる導入だった。


 だが、回を重ねるごとに物語のテンポや展開に批判も多かった。特に、その見た目から“エリンギ”と揶揄されたヴィラン「怪獣9号」の扱いは厳しい評価が集まった。知能や言語を持つ9号は主人公・カフカを苦しめる存在だが、その進化の仕方やデザインに魅力が薄く、ラスボスとしてのカリスマ性に欠けるとの指摘は根強い。また、ピンチ→パワーアップ→ピンチという単調なループは後半に入り読者の疲労感を招き、テンポの悪さに不満を持つ声もあった。


 キャラ掘り下げも一長一短。カフカやキコル、保科ら主要キャラは丁寧に描かれたが、それ以外は「いつの間に?」と思わせる描写も目立ち、友情や絆の説得力に欠ける場面も。ネームドキャラが誰も死なない展開も含め、作劇のバランスには惜しい部分があった。


 それでも『怪獣8号』が秀作とされるのは、こうした粗とされる部分がありながらも全体として高い完成度を維持したからだ。読みやすく王道でありながらも、中年男性を主人公に据え新鮮な視点を提供した本作は、現代少年漫画の「王道テンプレ刷新作」として記憶されるだろう。


■”怪獣漫画”に女性ファンを取り込んだ功績


 特筆すべきは“女性が読める怪獣漫画”であったこと。従来怪獣ものは男性向けが強く女性読者の支持は得にくかったが、キコルのような強く芯のある女性キャラや現代的な家族問題、イケメン配置による群像劇が「男性向け」にとどまらない魅力を生んだ。


 この構成力は2024年4月開始のテレビアニメにも表れている。「ヱヴァンゲリオン新劇場版」制作のスタジオカラーが関わり、怪獣描写の説得力と迫力が格段にアップ。戦闘シーンの緩急が視聴者を引き込んだ。


 原作の演出巧みさも重要だ。スマホで読むことを前提に“見開き”の使い方が抜群で、戦闘シーンではフリック式のページめくりを活かし、紙媒体以上にダイナミックに見える表現方法を切り拓いた。


 『進撃の巨人』や『エヴァンゲリオン』の類似性を指摘する声もあるが、「防衛隊」「怪獣に変身」「強い幼馴染」などはパクリというよりも王道の再解釈=オマージュとして、作者のインスピレーション元への敬意が感じられた。


 こうした評価や批評を含め、『怪獣8号』は令和のマンガ史に確かな足跡を残した。「ジャンプ+」という新時代の土壌で花開き、少年誌の王道路線と現代的文脈を融合。アニメ化で表現幅も拡がり、読者とクリエイターに刺激を与え続けた。


 実際、2024年には「ヤングマガジン」(講談社)で『怪獣カムイ』、「ヤングチャンピオン」(秋田書店)で『戦国怪獣記ライゴラ』がそれぞれ連載スタート。かつてはマニアックと見られた怪獣モノが青年誌でも注目され始めたのは、『怪獣8号』が新風を吹き込んだこともあるだろう。


 最終話の配信を前に、SNSでは考察や感想が飛び交い、7月19日からはアニメ第2期も放送される。連載開始から5年、あらゆる面で“時代の先頭”を走ったこの看板作がどんな結末を迎えるのか、盛り上がりは加速するばかりだ。


(文=蒼影コウ)



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