記者会見する石破茂首相=23日、首相官邸 米国によるイラン攻撃を巡り、日本政府は一時ジレンマに陥った。数日前にイランを攻撃したイスラエルを日本政府は「強く非難」。米国にも強い姿勢で臨まなければ「ダブルスタンダード」の指摘を受ける恐れの一方、批判すれば同盟関係を損なう懸念があった。今回は米国に一定の理解を示す見解をまとめ、何とか乗り切った日本政府だが、トランプ米政権を相手に今後も対応に苦慮する場面が増えそうだ。
国連憲章は武力攻撃を受けた国が自衛権を行使するケースなどを除いて、武力行使を原則禁じている。イスラエルが13日にイランの核施設や軍事施設を「先制攻撃」したことを受け、日本政府は「法の支配」を重視する立場から「(イスラエルの)行動を強く非難する」と直ちに表明した。
日本政府の立場は先進7カ国(G7)の他のメンバー国と比べても厳しいものだった。中国などの威圧的な動きをかねて「力による一方的な現状変更の試み」と批判してきたことも背景にあった。
しかし、米国が22日にイラン攻撃に踏み切ると、日本政府は対応に窮することになった。米国は「集団的自衛権の行使」と主張したが、「国際法的に難しい論点がある」(外務省関係者)のは否めなかった。さりとて、国際法上の根拠に乏しいと疑問を公に呈すれば、トランプ大統領を遠ざけ、関係悪化を招く可能性もあった。
23日になってようやくひねり出したのが「イランの核兵器保有を阻止する決意を示したものと承知する」(外相談話)とのライン。支持も批判もせず、理解を示す内容だった。外務省幹部は「同盟国の米国に『国際法上の懸念がある』などとは到底言えない」と苦しさをにじませた。
石破茂首相は23日の記者会見で、攻撃の法的評価を問われ、「国際法の観点から議論があることは承知している」としつつ「わが国は直接の当事者ではない。確定的な評価は困難だ」と言葉を濁した。トランプ氏はデンマーク領グリーンランドの領有に意欲を見せるなど、国際法を重視しているとは言い難く、日本政府は今後も「法の支配」とのはざまで頭を悩ませることになりそうだ。