立命館大の桜井啓太准教授(本人提供) 生活保護受給者に対しては、「働かずに楽をしている」といった誤解に基づく批判が後を絶たない。ケースワーカーとして生活困窮者の支援をした経験もある立命館大の桜井啓太准教授(社会福祉学)は「自己責任を強調し、不満のはけ口を求めるものだが、(批判する)自らの生活にも悪影響を及ぼしかねない」と指摘する。
桜井准教授によると、2008年のリーマン・ショックで企業の雇い止めやリストラが相次ぎ、生活保護の申請が大幅に増加した。しかし12年に人気芸人の親族が生活保護を受けていたと報じられたのをきっかけに、受給者に対するバッシングが吹き荒れた。
憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めるが、「受給世帯より苦しい生活の人もいる」などの主張が拡大。同年12月の総選挙では、生活保護費削減を公約に掲げた自民党が大勝した。桜井准教授は「経済的に苦しい時に生活保護を受けるのは当然の権利なのに、むしろ恥ずかしいことのような意識が強められた」と振り返る。
13年から始まった生活保護基準引き下げの影響は、200万人以上に及んだ。桜井准教授は「受給対象から外された人もいたはずで、生存権が保障されたと言えるのか」と疑問視する。
1990年代以降、経済の低成長が続き、社会に余裕が乏しくなる中で「成功も失敗も個人の努力の結果という考え方が浸透した」と桜井准教授。「運や育った環境などさまざまな要素が関係しているのに、困難な境遇にある人の存在を想像しにくくなっているのではないか」と懸念する。
「そもそも人生は予測不可能で、突然事故に遭ったり、病気になったりすることもある。連帯し支え合うことを目指すのではなく、個人で対処することを強いるのであれば、結局は自分自身も苦しくなるのではないか」と問い掛けた。