限定公開( 1 )
俳優早乙女太一(33)が芸歴30周年を迎えた。若き天才女形と評され「流し目王子」として注目を集めてから、ドラマに映画にと活躍の幅を広げてきた。7月5日には、憧れの松本幸四郎(52)からの“指名”で初共演がかなった「鬼平犯科帳 暗剣白梅香」が時代劇専門チャンネルで初放送される。反発した10代、役者で生きる決意をした20代、30代で考える大衆演劇の未来について胸の内を明かした。【鎌田良美】
★役柄に自身を投影
20年来の夢がかなった。幸四郎が主演する「鬼平犯科帳」シリーズ最新作で、すご腕の刺客、金子半四郎を演じた。
「13歳の頃、初めて見た舞台が劇団☆新感線の『髑髏(どくろ)城の七人』。主演が幸四郎さんで、こんなにかっこいい世界があって、こんなにかっこいい立ち回りがあるんだと、全てが衝撃でした。僕にとっては『仮面ライダー、ウルトラマン、幸四郎』みたいな。憧れのヒーロー」
殺陣を始めるきっかけになった存在。いつか刀を交えたい。その思いが、幸四郎たっての希望という形で実現した。「報われた気分になりましたね。あの時の自分が頑張ってくれたから、今の自分がある。ありがとうって感じです」と13歳の自分に感謝した。
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狂気的な執念で長谷川平蔵(幸四郎)を狙う半四郎は宿命に縛られている。役柄を落とし込む上で、過去の自身を投影したという。
「僕、孤独で闇を背負ってる役が多くて。10代とか、自分も孤立していた時期があったり、人から見たらすごく闇があるような雰囲気だったと思うんですね。というのも、自分も半四郎と同じく、自ら選んだ道ではなかったから」
大衆演劇の家系に生まれ、当然のように舞台という道が用意されていた。当時は夢がなかった。目標がないから頑張る理由も見つけられない。望んで選んだわけではないと、感情を殺していた。
「半四郎って、生きているんだけど死んでいるような。亡霊のようなイメージ。生きる道にずっともやがかかっているような状況で歩んできた人」と過去を重ねた。
★きっかけは子ども
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「役者として生きていこう」と腹をくくったのは23、24歳の頃。自身のもやが晴れたきっかけを「子どもができたのが大きかった」と振り返る。親になり、正面から己と向き合った。
「すごくありがたい環境にいたんだと実感しました。せっかく過去の自分が、時間を使って女形や立ち回りに取り組んだ。その時は楽しくなかったかもしれないけど、今の自分なら浄化させられる。舞台や劇団、そこに携わってくれるみんな。自分で自分を楽しませる場所を作り出していこう」と決心がついた。
迷いなく磨いた技術を半四郎の剣に込めた。
「つじ斬りなので余韻を残さない。歩いているところから切りかかる抜刀のタイミング。切り終えてから納刀の無駄のなさ。そういうのを大事にしました。自分がやってきたことでいかに鬼平を、幸四郎さんを楽しませられるかってところにかけていました」
ぎりぎりの攻防。緊張に高揚が入り交じった。撮影終了後、帰宅しようとすると幸四郎が待っていた。褒めてくれたが「ちょっと声がちっちゃすぎて。僕も緊張してるから、お互いもじもじしてるし、ぼそぼそ言いながら。結局最後、なんて言ってたのか分からなかった」と笑った。
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初舞台から数えて、今年で芸歴30年。幸四郎に憧れたように、今では慕われる側の存在になってきた。
「今度は自分が誰かの憧れになる。若い世代の人たちに、自分が学んできたことをいかにつなげていけるかを考えてます。時代劇ってかっこいいんだなとか、そういうきっかけになれるようなつなぎ目をつくりたい」と、後輩との共演を増やしている。
10代後半の頃、「流し目王子」として茶の間を席巻した。だが周囲が騒ぐほどの実感はなかった。「当時も変わらず、毎月健康ランドで公演をしていて。お客さんがずっといっぱい入ってるわけでもなくて、少ない時もたくさんあった。どれくらい自分が世間の人たちに知ってもらえてるのか、そんなに分かってなかった」という。
「20歳になったら役者を辞めたい」と言っていた。ギターを持っていて「僕はバンドをやりたかったんで」と、意外な夢もあった。だが続けていれば縁は巡る。劇団☆新感線の「髑髏城の七人」に出演がかなった。あの日の幸四郎と同じ役も担った。「すごくうれしかった。同時に、最初はプレッシャーに負けてましたね」と懐かしんだ。
2代目を務め、15年に1度は解散した「劇団朱雀」を「自分のルーツ。外で力を付けて、またみんなで集まりたいと思っていた」と19年に復活させた。映像作品に出るのは、門戸を広げる意味もある。「映像にしかできないことももちろんやっていきたいですけど、やっぱり僕の根っこは舞台につながっている。興味を持っていただけたら、実際に見に来てほしい」と話す。
大衆演劇は、かつては民衆にとって最も身近なエンタメだった。今はスマホさえあれば、どこでも「楽しい」が味わえてしまう。
「だから今の時代の大衆演劇は全然大衆演劇じゃない。逆にすごくアングラな世界。古き良きものを残しながら、自分がブラッシュアップしてその世界を広げるっていうのを課題において今、活動しています」
年齢を重ねれば、技術は増すが体力は落ちていく。殺陣も例外ではない。「でももし次の世代、さらにその次の世代の人たちが憧れを持ってくれて、やっと対面した時に自分がボロボロだったら、その子たちがかわいそう。多分、かっこいい人と戦いたいと思って頑張ってるから。そういう時のために、かっこよくいられるようにしておきたい」。そして「またいつか、僕の代じゃ間に合わなかったとしても、大衆演劇が皆さんの身近なエンターテインメントになれたらいいなと思っています」と締めた。
▼松本幸四郎
「鬼平犯科帳 暗剣白梅香」で念願の早乙女太一さんと共演できたことに格別興奮しました。彼の太刀筋、着流しのたたずまいに、いつもほれぼれして舞台を見ていました。舞のような美しさで金子半四郎、そして早乙女太一の両人の思いが込められ振り下ろす刀。それを受け止めた平蔵、というより幸四郎の刺激度は最高潮でした。
この作品をやることが決まって、平蔵を最大の危機に追い詰める金子半四郎は、早乙女太一さんしかいないと思っていました。寡黙でもせいひつに感じる鋭さ、白梅香の香りを画面から感じさせてくれる妖しさ、おしろいを塗り、美しさを漂わせる存在。彼しかいないです。彼が今いることを池波正太郎先生は予知していたと思うほど彼のために書かれた人物だと思います。
うれしいコメントを度々聞いて恥ずかしい限りですが、まだまだ進化できる自分を信じて精進するので、再び立ち回りという会話ができる日を目指して鍛えていきます。
◆早乙女太一(さおとめ・たいち)
本名・西村太一。1991年(平3)9月24日、福岡県生まれ。4歳で初舞台。「劇団朱雀(すじゃく)」の2代目として妖艶な女形ぶりで注目される。映画「座頭市」やNHK大河ドラマ「風林火山」、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」などに出演。同じく俳優の早乙女友貴は実弟。174センチ。血液型B。
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