「子育ては自分を顧みる作業」テノール歌手で2人の子の父・秋川雅史、お受験を通じて学んだ子育て論

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2025年06月29日 13:00  週刊女性PRIME

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秋川雅史 撮影/山田智絵

「子育てこそ、生きがい」と胸を張って語る秋川。子どものいい面を親が理解し伸ばしてあげることが大切、と語る。今、日本が抱えている少子化問題は、子育てに対する価値観の問題だとして、自身が行ってきた20年以上の経験を振り返りつつ、今の親たちへ贈る提言。

子育てとは生涯かけて行うもの

 ピアニストとして活動する大学3年の息子と、86歳の声楽家の父とともに、3人で共演した『千の風になって』がYouTubeで180万回再生を達成、話題となっている秋川雅史。2人の子どもの父親でもある彼は、自他共に認める子煩悩。「子どもの成長を片時も見逃したくない」と、子育てに並々ならぬ情熱を注ぎ続けている。

 子どもたちが大学生になった今も、家族全員同じ部屋で寝るほどの仲良し家族。いじめ問題、少子化、お受験など、日本を取り巻く子育ての課題について、秋川流の“熱すぎる”子育て論を聞いた。
   
子を持つ親にとっては、子育てこそが生きがいであり、人生の醍醐味なんです。それに気づいていない親御さんが実に多い。もったいないなぁと思いますよ」(秋川、以下同)

 子ども2人と妻との4人家族。長男は大学3年生、娘は大学1年生になり、共に成人したが、「今も子育て真っ最中」との意識を持ち続けている。

「子育てとは生涯かけて行うもの。子どもが50歳になっても60歳になっても、その意識は変わらないと思います

 OECD(経済協力開発機構)の2020年の調査によると、男性の家事・育児の分担割合はスウェーデンの43.7%、アメリカの37.9%に対し、日本は15.4%。世界的に見ても、大幅に低い水準だ。そんな中、秋川のように「子育てに全身全霊を注いでいる」と言い切る男性は非常にレアな存在といえるだろう。

でも僕の影響なのか、パパ友さんたちもどんどん育児に参加するようになってきて(笑)。だから今、僕の周りは育児熱心な方ばかり。子育てはひとりでやるものじゃなく、周りを巻き込んで一緒にやるものなんだと実感しているところです

 多くの日本人男性が子育てにあまり協力的でないのは、この国に娯楽があふれすぎていることも一因ではないかと考えている。

「グルメに旅行に趣味に、なんでも手に入る世の中ですし、繁華街では夜遅くまでお店が開いていますよね。でも仕事仲間と飲み歩きなんかするよりも、子どもと過ごす時間のほうが絶対に楽しいはず。

 どんな高級レストランだって、子どもと一緒に行くファミレスにはかないません。世のお父さん方にも、そのことに早く気づいてほしい。子どもはあっという間に大きくなってしまいますから

 愛媛県で生まれ育った秋川は、現在57歳。自身も幼いころから、親の深い愛情を感じ取っていたという。

父は声楽家で、高校の音楽教師でもありました。帰宅すると幼い僕を自転車の後ろに乗せ、近所をぐるぐると走ってくれたことを今でも覚えています。なんでも小さいころの僕はかなりかわいかったらしく(笑)、みんなに見せて自慢したかったんだと、あとから父に聞いたことがあります

 とはいえ、両親から受けた教育を、自身の子どもたちにそのまま実践しているわけではない。

例えば母は、おしゃれは不良の始まり、という考えでした。僕の青春時代の流行はいわゆる“ツッパリ”ファッションだったから気持ちもわからないでもないんだけど(笑)。反対に僕は、子どもたちの髪形や服装は本人の自由にさせています

誰しも踏み込まれたくない一線がある

 何より、子どもたちのプライバシーを尊重するように心がけているという。

子どもたちにスマホを持たせたのは中学生からですが、親であろうと中身を確認するようなことは一切しない、と最初から告げていました。誰しも踏み込まれたくない一線はあり、小さな隠し事などは成長するうえで自然なことだからです

 決して野放しというわけではない。親子間できちんとルールを決め“破ったときだけ親がスマホの中身を確認する”と、取り決めを交わした。

子どもの小さな嘘や隠し事が犯罪につながるのでは、と心配する方もいるけれど、それは大きな勘違いだと僕は思う。子どものプライバシーをすべて把握しようとして、親子の信頼関係を失うほうがよほど問題です

 つい最近、大学生の娘とふたりで外食をしたときのこと。話が弾み、将来の結婚についての話題になったという。

「僕の唯一のアドバイスは、旦那さんのスマホの中身だけは絶対に見ちゃいけない、ということ。それを伝えると娘は、自分もそのつもりだ、と。夫が浮気をしていたらもちろん嫌だけど、知らなければしていないのと一緒だからと言ったんです。

 彼氏がいたこともないのに、こんな考え方ができるんだ、ってびっくりしてね(笑)。それはやはり、きちんと個人を尊重する親子関係から生まれた価値観だと思う。たとえ夫婦であっても一線を引くという考えが、自然と身についているんだなと驚きました

 秋川の子育てがユニークなのは、いわゆる“マニュアルどおりの育児”ではないからだ。例えばそれは、子どもたちのお受験の取り組み方にも表れている。

そもそも、うちの家内は小学校受験に反対でした。でも僕は自分の子どもの特性を見極め、小学校受験が豊かな人生経験のひとつになると考えたんです。それで夫婦で話し合いを重ね、受験に挑戦することに決めました

 お受験対策として塾に通い始めたが、小さな違和感を覚えることがたびたびあった。

塾では、言葉遣いやマナーにとても厳しいんです。でも僕は、子どもが妙に大人ぶった言動をする必要はないという考え方。うちの息子は口が悪いほうだったけど、あえて塾の言うことを聞かず(笑)、そのままにしておくことにしました

 願書の書き方についても、塾の指導法には従わなかった。

親が書いた志望動機などを塾が添削してくれるんですけど、なんだか妙にきれいな文章に整えられちゃって(笑)。もちろん文章としては美しいんだけど、心に響かないんですよ。結局、自分が書いたものをそのまま提出しました

どものいい面を親が理解し、伸ばしてあげることが大切

 小学校の説明会に参加し、校風が長男に合っていると納得できた私立校を2校だけ受験。一方で、公立の学校にも良さがあると考えていたため、不合格だった場合は地域の区立校に通わせるつもりだった。結果、第一志望に見事合格。慶應義塾幼稚舎への進学が決まった。

やはり学校側が重視しているのは、子どもの言葉遣いやマナーではないのだと実感しました。何もかも塾の言うとおりにするのではなく、自分の子どものいい面を親が理解し、伸ばしてあげることが大切だと思います

 一方、長女の小学校受験は学習院一本。長男同様、不合格であれば潔く地域の公立小に通わせるつもりだったが、こちらも見事合格した。

学習院を選んだのは、完全に愛子さまの影響(笑)。本当に素晴らしいお方でしょう? 娘のちょっとしたことについて家内と相談するときも、もし愛子さまだったら、が基準になるんです。例えばヘソ出しルックを認めるかどうかについては、“愛子さまはきっとお召しにならないよね”といった具合(笑)

 長女と愛子さまは4学年違い。なんと保護者参観日に、当時の皇太子さまと雅子さまに校内で遭遇したことも。

偶然にも廊下ですれ違うことになり、僕も慌てましたが、ご挨拶させていただいたんです。娘の音楽の授業を見に行くところだとお伝えすると、雅子さまが“あら、それは先生も緊張なさいますね”と笑顔で返してくださいました

 小学校から大学までの一貫校で、子どもたちはのびのびと、充実した学生生活を送ることができたという。

もちろん、友達同士の小さないさかいはあったでしょう。幸いにもいじめとは無縁でしたが、大きな社会問題となっているいじめについて、いつも自分なりに考えてきました。まさに今悩んでいる方に、同じ親としてお伝えしたいことがあるんです

 子どもを守りたい一心で、相手の親や学校に強硬な態度を示す親は少なくない。だがそれは、絶対にやってはいけないことのひとつだと続ける。

これをやってしまうと、何か問題が起きたらいつでも親が対応してくれる、と子どもが勘違いしてしまう。いじめを解決するのは、あくまで子ども自身。親は、最強のサポート役に徹するんです

 まずすべきは、子どもからの詳細なヒアリング。そのうえで、自分たち親は絶対的な味方であることを伝え、一緒になって最良の対策を考える。

いちばん重要なのは、いじめっ子に対し、やめろと言える度胸を子どもに身につけさせてあげることです

 もちろん、学校との連携も重要だ。

担任には親から連絡し、しっかりとした観察をお願いしつつ、共に解決への道を探ること。いきなり相手への厳しい指導をお願いするのではなく、時間をかけて密に情報を共有するほうが得策です

 とはいえ、いじめはこの世から決してなくならない、と考えている。

だからこそ、いじめっ子をどうにかするのではなく、いじめられたときに強い対応ができる子に育てることが重要なんです。いじめっ子の家庭は、夫婦仲がよくないパターンが多いことも事実。自分の子どもをいじめっ子にしないために、せめて子どもの前では夫婦ゲンカを見せないようにしてほしいとも思います

子どもがしてほしくないと思う行動は自分もやらない

 子育てとは、親の背中を見せることだと語る秋川。偉大なオペラ歌手である父親の背中を見て育った長男は3歳からピアノを始め、ピアニストの夢を叶えた。長女はオペラ歌手を目指しつつ、大学では司法試験の勉強も続けている。

僕自身もまだまだ成長の途中。今は9月のソロコンサートに向け、練習を重ねているところです

 声と体力の維持のため、毎日2時間の発声練習と、3キロのランニング、水泳、筋トレを欠かさない。また、40歳を過ぎてから始めた木彫りの彫刻は趣味の域を超え、これまで二科展に4回入選。彫刻家としての才能も発揮する。

彫刻は毎日6時間。今や、発声トレーニングよりも長い時間を費やしています(笑)。二科展に毎年出品することを目標としており、今年8月締め切りの応募作品は、すでに完成させています

 歌手としての日課と、彫刻の制作活動だけで1日9時間。ストイックな父に感化され、最近では子どもたちや妻も一緒にトレーニングに取り組むようになった。

僕だって、決して完璧な父親ではありません。でも子どもがしてほしくないと思う行動は、自分もやらないよう心がけています。子育てってそんなふうに、自分を顧みる作業でもあると思うんです

 子育てや教育に関する自身の体験を惜しみなく公表することに決めたのは、社会貢献の意味合いが大きい。

「この国では、子を持つことが負債ともいわれ、少子化が大きな課題です。経済的な支援はもちろん必要ですが、もっと根本的な、子育てに対する価値観の問題もあると思うんです。

 自分の体験を伝えることで、子育てって楽しいんだ、素晴らしいことなんだ、と思う人が増えてくれたらとてもうれしい。大人たちが子育てや教育に本気で力を入れれば、日本の将来はもっと明るいものになると信じています

取材・文/植木淳子

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