小学生に“ピル”処方? 40〜50代が驚く「真っ当な理由」。性教育の“穴”が浮き彫りに

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2025年07月03日 09:10  女子SPA!

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写真はイメージです(以下同じ)
 皆さんはこどもの頃、生理について悩んだことはありますか? ハッキリ言って私はあります。しかし、その悩みを周囲の大人に打ち明けたことはありません。不安よりも恥ずかしさと気まずさが上回ったからです。たぶん、同じ気持ちを抱いていた元・女児は世の中にけっこういるんじゃなかろうか。

 認定NPO法人フローレンスのグループ法人であるフローレンスこどもと心クリニック(東京都渋谷区)が、2025年6月より、「小学生からのピル外来(生理外来)」の診療をスタート。小学生や思春期のこどもたちから生理についての相談を受けることで、痛みやつらさなどに悩まされることのない生活をサポートしてくれるのだとか……なんと心強い! これはかなり画期的な動きではないでしょうか。

 しかし、実際のところ「小学生からのピル外来」とは、いったいどのようなものなのでしょう? 女子SPA!は、フローレンスこどもと心クリニックのピル外来担当医師である栗原史帆先生にインタビュー。診療についてだけでなく、ピルの服用方法や婦人科に対する誤解についてなども聞かせてもらいました。

◆生理のつらさは「我慢するのが当たり前」?

──フローレンスこどもと心クリニックは、婦人科ではないのですよね?

「そうなんです。もともとは小児科と女性のための心療内科なんですよ」(栗原史帆先生、以下「」内同)

──「小学生からのピル外来」はどのような方を対象にした診療なのですか?

「小学校高学年から中学生くらいがメインの対象です。この年代って、実は医療から一番遠ざかる時期なんですよ。幼児期のように小児科にしょっちゅう通うことがなくなるので、通院ついでに生理について相談する機会がなくなるんです。

 結果、小中学生には『生理のつらさは我慢するもの』という認識が生まれがちになるんですよね。そこを『生理のつらさは受診する必要があるもの』という感覚に変えたいと私たちは考えています」

──なるほど。名称にピル外来と入っていますが、ピルを処方することだけが目的ではないのですね。

「はい。さらにいえば、ここは小児科なのでこどもファーストで診療できることも利点です。婦人科だと、普段大人を対象にしているので、大人同士のコミュニケーションスタイルが中心ですが、小児科だとこどもに合った関わり方に慣れているんですよね。ここでなら当事者であるこどもが安心できると思います」

◆こどもが自分で調べることはやっぱり難しい

──この外来が生まれた経緯を教えてもらえますか?

「当クリニックの院長自身が月経過多だったのもあって、『医師である自分ですら、生理について情報を集めることに制限があるのに、一般の方たちはもっと大変だろうな』と、ずっと考えていたそうです」

──近年はフェムテックが広まってきたのもあり、生理について考える機会が増えたように思いますが。

「たしかに大人は生理のことを知れるようになってきたと思います。しかし、こどもが自分で調べることはやっぱり難しいんですよ。院長は小児科での婦人科診療の必要性を強く感じていたのですが、もう一歩のところで実現できずにいたそうです。

 でも、昨年から私がこちらで勤務をし始めたことが転機になったみたいですね。前のクリニックでは家庭医として婦人科診療を行っていたので、ピルを処方できるんです。そこから1年の構想を経て今に至ります」

◆友達にも聞けない「生理の血ってどれくらい出る?」

──外来を受診するタイミングの目安などあれば教えてください。

「生理で何か困ったことがあれば来てくださって大丈夫です。具体的に言えば、腹痛や頭痛がひどいとか、経血の量が多すぎて怖くて出かけられないとか、ものすごくイライラしたり落ち込んだりして気分の波に苦しんでいるとか。日常生活に不利益があるようなら話をしに来てほしいです」

──でも、こどもの頃って経血量の多い少ないがわからないじゃないですか。他の人の血の量とか知らないから。どれくらいが受診した方がいいレベルなんですかね。

「たしかにそうですよね。個人的な定義としては、日中に夜用のナプキンを2〜3回は替えなければならないと多い方ではないかと。あと経血の塊(かたまり)も500円玉以上のサイズだったらかなり大きいと思います。ただ、こういった基準ってちゃんと示されているわけではないので、誰もなかなか辿り着けない情報ですよね」

──友達と話し合うこともしないですし。

「他の人に『どれくらい出るの?』なんて聞けないですよね。生理の話題は、一般的にもいまだに不潔だったり性的な会話だというイメージは拭えていないと思います」

◆小中学生の男子にも生理を理解してほしい理由

──女の子同士でもそんな感じなのに、小中学生の男子にも生理を理解してもらおうとするのは、なかなかハードルの高いことですよね。

「個人としては男子生徒にも、メカニズムや症状について知ってもらいたいと思っているんですよ。生理は病気でもなければ、なりたくてなってるわけでもない。これをこどものうちから男性にも知っておいてもらいたいんです。そして、ゆくゆく異性のパートナーができた時に気遣える男性になってほしいです」

──たしかにそういう男性は理想的ですね。

「でも、性教育については現場の教育体制次第というところがありますからね。月経については9歳頃から学ぶべきと国際的なガイドライン(国際セクシュアリティ教育ガイダンス)には示されているのですが、難しいのが日本の現状なんです」

◆「ピルを飲むなんてふしだら!」という根強い誤解

──どのような問題点があるのでしょうか。

「男女ともに、学校で性教育にさける時間が圧倒的に足りないことですね。正直なところ生理の対処法が学校できちんと教えられるなら、この外来はいらないとすら思っています。ピルについても保健の教科書には避妊薬としてしか登場しませんし……」

──そうなんですか?! とはいえ、私もピルを服用したことがないので、誤解している部分はあるかもしれないです。

「女性でも50代以上の方だと、まさにピル=避妊薬=性に奔放な人が使うものという印象が強い方も多いようです。生理痛や生理不順、PMSなどの症状を緩和するためのものでもあるのに、『そんなものを飲むなんてふしだらな!』といった感じで、ピルそのものを理解しようとしなかったりします」

──はなから否定されてしまうのですね。

「そこからマイナス10歳くらい、40代になると飲んでいる人もいる世代になるんですよ。『妊娠しづらくなりませんか?』など、飲むことを前提とした相談をよく受けます。30代に入るとそういった質問もなくなってきますね。世代が若くなるごとにピルへの理解が進んでいる感はありますよ」

◆「ピルは太りやすくなる」は数十年前の話

──すいません。私も40代なので聞いてしまいますが、ピルによる副作用は本当にありませんか?

「一番怖いのは血栓症(※血管内で血のかたまりができ、血流が阻害される病気の総称)なのですが、発症の確率は0.09%くらいですね。交通事故に遭うより少ない確率です。ホルモン製剤なので、ピルが体に合うまでの一週間くらいは、頭痛や腹痛、胸が張るなどの症状が出ることがありますが、徐々に体が慣れていくのであまり心配はいりません」

──ピルは太りやすくなるなんてウワサも聞いたことがありますが……。

「現在処方されている低容量ピルが開発される、数十年前の話のようです。ピルに入っているエストロゲンとプロゲステロンという2種類のそれぞれのホルモンの量やそのバランスが現在とは異なり、食欲増進の副作用があったそうです。

 今は処方されるのは低用量か超低用量ピルが主体ですし、開発も進んでいるので、ピルのせいで太るということはありませんよ。ホルモンが安定すれば食べ過ぎは抑えられます」

◆生理のつらさ「我慢が当たり前」ではない社会に

──現状の「小学生からのピル外来」への反響を聞かせてください。

「意外だったのですが、小児科に来るママさんたちから感謝の声があがっていました。小児科に来たついでに自分も相談ができると。産後に生理が重くなる方もいるので、今後も需要は高まりそうです」

──小中学生だけでなく、幅広い年代の女性が足を運べるわけですね。

「さらに言えば、ここは心療内科でもあるので、メンタルのケアもできるんです。様々な悩みをまとめて相談できるというのは、大きなメリットではないでしょうか」

──「小学生からのピル外来」を機に、世の女性たちの生理への向き合い方が変わっていくかもしれませんね。

「まだまだ時間が掛かることではありますが、生理の痛みは我慢するのが当たり前ではない社会を目指していきたいです」

──ありがとうございました。

【栗原史帆】
こどもから高齢者まで、内臓や筋骨格、心の問題や女性特有の月経や妊娠出産に関わる問題などに幅広く対応する家庭医。都内総合病院に勤務後、千葉県館山市にて家庭医療専門研修修了。県内総合病院などで産婦人科研修を行った後、家庭医クリニックにて妊婦健診や婦人科外来を担当。現在は都内・千葉県の小児科・内科・産婦人科クリニックで診療に従事。24年4月より当クリニックで勤務。

【フローレンスこどもと心クリニック】
小児科・女性のための心療内科・不登校を選んだ子のための外来を行うクリニックとして、幼児や思春期のこども、親世代など幅広く患者を診てきた。生理の不調を抱えている人は多い中、患者から生理の悩みについて相談されることが少なく、声が上がりづらい悩みであることに課題を感じ、2025年6月より、「小学生からのピル外来(生理外来)」の診療を立ち上げた。

<取材・文/もちづき千代子>

【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama

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