無断転載防止の切り札? 自分のデジタル作品に“来歴情報”を埋め込む、Adobeの無料ツールを試す

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2025年07月04日 11:01  ITmedia NEWS

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 多くのクリエイティブツールを輩出する米Adobeは、4月に開催された「Adobe MAX London」にて新しいWebツール、「Adobe Content Authenticity」(以下ACA)を発表した。現在β版が公開されている。


【画像を見る】自分のデジタル作品に「自分が作った」という情報を埋め込む手順(全9枚)


 Adobeでは以前からデジタルコンテンツの信頼性を担保する仕組みの構築に取り組んでいるが、その結果としてC2PAとCAIという2つの団体が設立された。C2PAは、デジタルコンテンツの透明性を確保するために、コンテンツに対する履歴を署名付きで追加する仕組みの標準仕様化を行う団体である。もう一つのCAI(Content Authenticity Initiative)は、C2PAに準拠した認証情報をオープンソースとして開発・公開・実装する団体である。


 コンテンツに対する来歴および署名情報は、「Content Credentials」(以下CC)と呼ばれる。例えば食品を買うと、成分表や製造元、販売元などのラベルが貼り付けてあるが、コンテンツに対してもこうしたラベルを貼っていこうというわけだ。


 もともとアナログな美術、例えば絵画や書などには、作者のサインや落款印が押してあったものである。これによって昔の美術商人たちは真贋を見極めたりしていたわけだ。しかしこうした慣習は、デジタル時代になって失われた。いくらでも簡単に複製が作れる世界に、1点もののオリジナルという価値がないからである。


 だが1点ものであるということの価値とは別に、「オリジナルを作ったのは誰か」という情報は必要になった。コピーが簡単に作れ、優れたツールの出現により、贋作や悪意のある改ざん、あるいは他人の著作物を自分のものであると主張するものが現れたからである。


 CCは、これまでAdobe製品を使うことで埋め込むことができた。写真については各カメラメーカーが賛同し、撮影時にカメラが自動的に情報を付加するという方向で動いている。


 ただ、デジタル作品はそうした対応カメラ以外でも作られるし、最終アウトプットが必ずAdobe製品を経由するとは限らない。そこで、どんなソフトウェアで作られても、最終画像をドラッグ&ドロップするだけでContent Credentialsが埋め込めるツールとして、ACAが開発された。


●どのように動作するか


 ACAがどのように動作するのか、検証してみよう。まずACAのページにアクセスし、Adobeのアカウントを使ってログインする。AdobeアカウントはAdobe製品を購入しなくても無料で作れる。


 ログインしたのち、左上の3本線メニューからPreferenceページへ行く。最初はVerifyed NameのGet startedをクリックして、個人認証を行う。これはLinkedInの「ペルソナ」機能を使って国が発行する証明書情報とのひも付けを行う。現在対応している証明書はパスポートだけのようだ。筆者はあいにくパスポートの期限が失効しているので、今回は名前の認証なしで進める。


 続いてソーシャルメディアアカウントをひも付けする。これは権利情報を確認した人が、自分に連絡できるようにするためだ。


 ここまで完了したら、左上のメニューから「Apply」ページへ移動する。Content Credentialsと書かれたエリアに、ひも付けされたSNSが現れているのが分かる。その下の「I request that generative AI models not train on or use my content.」は、ここにチェックを入れることで、AIモデルにこのコンテンツを学習させたくないという意思表示をすることができる。


 右側のエリアに、CCを付加したい画像をドラッグ&ドロップする。同時に50枚まで登録できる。また登録できる画像フォーマットは、現在JPGかPNGのみである。登録した画像は、以前「REON POCKET PRO」の記事で使用した写真である。特に新旧の製品を比較した写真は、旧モデルを持っていないと撮影できないので、レビュー系YouTuberに大変パクられやすい。


 画面下の「I ackowledge that I own the selected content or have permission to apply Content Credentiails.」というチェックは、このコンテンツが自分が所有するものか、あるいは権利情報を埋め込む許可があることを確認するものである。ここにチェックを入れたあと、Applyボタンをクリックすると、CCを埋め込んだファイルが生成され、同時にACAのサーバに情報が登録される。


 画像をダウンロードすると、オリジナルの名前の後ろに「Cr」という文字が追加された画像が出てくる。コンテンツを公開する場合は、この画像を使用する。ファイル名はリネームしても効力は変わらない。


 付加された情報を確認するには、ACAのサイトで「Inspect」ページを開く。ここに先ほどの画像をドラッグ&ドロップすると、付加された情報を見ることができる。


●どのように機能するか


 本サイトもそうだが、一般に記事中で使用する写真は、オリジナル解像度のものを原稿とともに編集部に入稿すると、編集部が記事ページを作る際に適切なサイズにリサイズして掲載する。つまり何らかの編集と再保存行為が行われるわけである。


 この段階で、画像に埋め込まれたCC情報は削除されてしまう。再保存した画像を「Instect」しても、情報なしと表示される。だがサムネイルの下の「Search for passible matches」をクリックすると、先に登録したオリジナルの画像と登録情報が表示される。


 もう少しひどい例を試してみよう。このリサイズされた画像のスクリーンショットを取り、動画の中にPinPしてみた。そしてその画面をスマートフォンのカメラで再撮した。


 この画像を「Instect」し、同じく「Search for passible matches」で探してみたところ、無事オリジナル画像にたどり着いた。情報を判別する技術としては、メタデータ、フィンガープリント、ウオーターマークを組み合わせている。複製や加工によってどれかの情報が欠けても、他の情報を元に判別できる。


 つまり他人の記事の写真を無断で拝借して自分の動画の中に使うYouTuberがいても、視聴者の誰かがその画面を写真に撮ってACAのサイトで確認すれば、誰の写真を盗んだのかが分かる。CCの情報をたどってSNSに連絡してくれれば、著作権者本人がそのYouTuberに対して何らかの法的手段を取ることができる。


 こうした利用に関連して、もう少し別の使い方も考えられる。例えばメーカーが自社製品の広報のために利用していい写真にCCを付けておいてくれると、われわれ記事を書く側も入手方法に頼らず、記事中に使用可能なものなのかどうかが判断できる。


 ただ、現時点でβ版のACAでは、法人著作の情報を付加することができないようだ。LinkedInのペルソナ機能は、その名の通り個人しか認証できないからである。法人著作の場合は、別の企業認証の方法を考える必要がある。


 他方で多くのクリエイターが気にしているのは、自分の作品が無断でAIに学習されることであろう。ACAには「I request that generative AI models not train on or use my content.」のチェックボックスがあるが、これはあくまでもコンテンツ側の意思表示として機能しているだけで、AIに学習させないという技術的、あるいは法的拘束力は持たない。このチェックがある画像をAIが学習しないようにするには、AIモデルの開発者側の対応が必要になる。


 すでに現段階でこのような「AIに学習されない手段」としては、画像にノイズを加えることで学習させないという強制的な解決方法や、「AIに学習されない権利」の創出といった議論が進み始めている。ただその前に、意思表示とその尊重というきれいな関係が、一度きちんと構築されるべきだろう。この点においては、まずクリエイター側から意思表示しておくことは重要である。



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