広告か有料購読か、答えのないニュースの在り方 ペイウォールの課題は“マンガ配信”に解決のヒント?

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2025年07月04日 17:51  ITmedia NEWS

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 普段われわれがさまざまなメディアを通して目にするニュースは、無料で無尽蔵に情報が提供されているように見える。しかし実際には、そのニュースを提供するためのコストがかかっており、どこかで回収が図られている。


【画像を見る】アメリカの調査だが、ペイウォールで実際に支払う人はたった1%(全6枚)


 公益財団法人 新聞通信調査会が公開した第17回 メディアに関する全国世論調査(2024年)という資料をひもといてみると、ニュースへ接触するメディアは、50代まではインターネットが最多であり、60代以上になるとテレビメディアが逆転する。


 とはいえ平均でならすと、最多メディアは民放テレビニュースとなる。これは無償で提供されているように錯覚しがちだが、実際にはスポンサーが付く広告モデルである。


 インターネットのニュースも、サイトによっては広告モデルの場合もあるし、ペイウォールモデルの場合もある。傾向としては、新聞社系はペイウォールモデル、雑誌・週刊誌派生系は広告モデルが多いようだ。


 ペイウォールモデルの利用率は、かなり低い。有料のニュースサービスを利用している人は全体の5.8%にすぎず、大半は無料の(実際には広告モデルの)ニュースしか読んでいない。


 情報アクセスという点では、Googleなどパーソナライズされた検索エンジンを使用することで、自分の好む情報にしかアクセスしない「フィルターバブル」といった現象は、古くから指摘されているところである。


 またSNSなどで作られたグループ内で共有される情報は、自分たちにとって心地よい情報に偏っていくという「エコーチェンバー」現象も指摘されているところである。


 インターネットニュースを見る時に使用するサイトとしては、30代以上は圧倒的にポータルサイト経由であり、フィルターバブルの影響を受けている。また20代以下ではSNSが最多となっており、エコーチェンバーの影響を受けていると考えられる。


 それに加えて、広告モデルとペイウォールのニュースに二分されるという現象もまた、発生しているといえるのではないだろうか。これはおもに、経済感覚の問題だろう。つまり対価を払ってもそのニュースを見たいと思う人と、広告モデルのニュースしか見ない人との間で、知識的な分断が起こっている可能性がある。


●ペイウォールに遭遇した時に取る行動


 この仮説に関しては、新聞通信調査会の資料からはこれ以上深掘りしていない。だがアメリカで同様の調査が公開されていた。「Pew Research Center」が2025年6月に公開したエントリーでは、ペイウォール記事に遭遇したユーザーの、その後の行動を追っている。


 それによれば、「何か似たような情報を探す」と回答した人が53%、「情報へアクセスすることを諦める」人が32%、「無料で読めるアーティクルがないか探す」人が11%、「払って読む」人が1%となっている。つまりほとんどの人は、ペイウォールの先にある情報にはたどり着いておらず、無償の(実際には広告モデルだが)情報で代替している。


 またお金を払わなかった理由としては、「他にも無料コンテンツがいくらでもあるから」という人が49%、「お金を払うほどの興味がない」人が32%、「高すぎる」という人が10%、「ニュースプロバイダーに対して払う価値があると思えない」という人が8%となっている。


 この回答からは、半分はそのアーティクル自体に固執しないようだが、残りの半分は情報やニュースプロバイダーの価値に対して対価が合わないと考えている。ただ、「高すぎる」と答えた人は、納得できる金額であれば払っていた可能性もある。


 一方で何らかの形でニュースにお金を払った人たちの内訳は、非常に深刻な情報をわれわれにもたらす。人種の内訳としては、白人20%に対して黒人やヒスパニックはその半分しかない。


 収入面では、高収入者が30%なのに対し、中流層で18%、低所得者層で8%となっている。当然収入が高ければ、情報に対価を払う余裕があることは当然だが、低所得者でも情報に対価を払っている人はゼロではない。当然負担は大きいだろうが、情報に対価が必要であることは広く理解されているといえるだろう。ただしその比率は4倍弱もある。


 学歴面では、ハイグレードな大学卒が27%なのに対し、一般大卒で15%、高校以下が9%となっている。高卒とハイグレード大卒では3倍の開きがある。


 この3つのパラーメータは、互いにつながっていると考えるべきだろう。高学歴であれば収入は高くなり、高学歴である人種の比率もグラフの通りで、これは親世代の裕福度が反映された結果だろうと予測できる。


 インターネットは、つながってさえいれば情報を公平に分配できる。しかしアクセス可能な情報の質は、必ずしも公平ではなく、そこには経済格差が存在する。それがペイウォールモデルによって可視化されるわけである。


●デッドエンドをどう抜けるか


 情報が紙で流通していた時代、知りたいことがあれば雑誌を買って読むか、あるいは駅のキオスクでスポーツ新聞を買って読んでいたはずだ。例えばPC誌を考えてみると、紙面に載っている情報の全てが必要ではないにしても、そのプラットフォームとしての雑誌自体のファン、という状態が普通であった。ゆえに毎回同じ雑誌を買う。これはスポーツ新聞も同じだろう。


 プラットフォームがサイト化し始めた21世紀初頭、そこには有力な課金システムは存在しなかったこともあり、多くのプラットフォームは広告モデルを取った。新聞社も当初はペイウォールがうまくいかず広告モデルで展開したが、やがて一部の記事だけ無料といった、ソフトペイウォール型に移行した。その背景には、月額よりも年額の方がお得といった方式を打ち出した、映像や音楽サブスクの成功があった。方法論というよりも、マインドセットが成功したという意味合いである。


 今後、ネットニュースがどこまで広告モデルでやれるかは、多くの人が頭を悩ませている問題だ。あまりにも記事を邪魔する広告に嫌気がさして、「閉じる」ボタンを探す前に引き返す人も少なくない。これなどは、記事も読まれないし広告も回らないという、結局誰も得しないケースである。


 一方でペイウォール型も、有料にぶち当たった途端引き返す人がほとんどであることは、これまでの調査で見てきたところである。おそらくその理由は、「高すぎる」の10%、「ニュースプロバイダーに対して払う価値があると思えない」の8%に答えがある。


 つまりペイウォール型は、記事単位の都度課金ではなく、月額・年額払いで、そのプラットフォームに対しての1カ月なり1年なりの忠誠が求められる格好になっている。そしてその月額・年額の金額がまあまあまとまったお金であるというところも、1つのハードルになっている。


 これだけ簡単電子決済の世の中にありながら、いつまでカード番号を入力して月額・年額払いの手続きをさせるのか。もちろんその方が、途中で離脱されても利益は減らないというメリットがあるからだろうが、ペイウォールの支払い方にももう少しバリエーションがあっていい。


 例えばマンガ配信において、1話ごと都度電子決済で30円とか50円とかで読ませるモデルは、そこそこうまく回っている。筆者もnoteで単品で有料コンテンツを配信しているが、100円なり200円なりで毎日誰かが買ってくれる。個人で宣伝もしていない零細ビジネスでさえ、こうした少額課金は成り立っている。


 プラットフォームのファンを作るのは今更難しいが、コンテンツや、書き手、作り手のファンという形態はなくならない。またペイウォールの壁の向こう側では、誹謗中傷や粘着などが起こらず、比較的安定したコミュニケーションが成立する。わざわざ金を払って書き手とけんかしに来るような酔狂な者はいないからである。そこにペイウォール型の将来像が見いだせるのではないか。


 経済格差による情報格差は、資本主義の宿命といえるかもしれない。だが少額決済が、その問題を解決するかもしれない。それには、決済方法が簡便でなければならない。いったんアカウントを作って、というのでは、結局はプラットフォーム縛りになる。


 顔認証や指紋認証、タッチ決済、バーコード決済など簡易な決済方法で記事単品が数十円で買える世界というのを、目指してもいいのではないだろうか。



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