あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「フジ株主総会」について。
* * *
6月25日、雨のなかフジテレビ(以下、フジ)の親会社フジ・メディア・ホールディングス(以下、FMH)の株主総会に行ってきた。
多くの報道陣が詰めかけ、関心の高さをうかがわせた。ドクター・中松さん、堀江貴文さんら著名人もいた(私の前にいた田端信太郎さんが目立つように手を挙げていたのに1時間ほど議長からスルーされたのには同情した)。これほど注目される総会は珍しい。
ところで総会開催の一週間ほど前。「議決権行使のお願い」なるハガキが送られてきた。なんじゃこりゃ。
|
|
見ると、「こちらが当社取締役会の意見です」とあり、会社が提案した議案に「賛」をつけろという。さらに株主提案を「否」にしてほしいとも書かれている。
米投資ファンドのダルトン・インベストメンツがFMHに刷新を求め、SBIホールディングスの北尾吉孝さんらを取締役候補として挙げた、その提案を否決しろと。ここまで露骨な誘導文章は珍しい。郵便代も生じるし。
そして当日、ずっこけた。事前の議決権行使により、会社提案の議案がもう通っているというのだ。しかもダルトン側は総会に参加してすらいない。勝負はすでに終わっていた。
会社法上、議決権をもつ全員の同意が揃(そろ)っていれば株主総会をスキップできる。しかし上場企業の場合、現実的に全員は無理だから、このように総会は"形式上"であっても開催される。あとは会社の定款(ていかん)で書かれている議長≒代表取締役が総会をそつなくこなすだけだ。
私は遊び半分で20代前半からさまざまな個別株を保有してきた。今回のFMHの総会は、紛糾とはいうものの、それほどではなかった。厳しい質問といっても予想の範囲内だった。
|
|
ざっと挙げてみると「不動産事業の切り離し」「ハラスメント問題」「日枝久(ひえだ・ひさし)さんの処遇」「会社・株主提案の取締役候補の適任性」「コンテンツ、プラットフォーム事業の将来」「組織風土の刷新」といったところか。
堀江さんが「認定放送持ち株会社制度の継続」の是非について質問したのは面白かった。経営の多角化や資金調達で問題になるからね。
通常は2時間ほどだが、今回の総会は4時間半。後半は質問者が叫びだすなど面白かったものの、予定通り会社提案を可決して終わり。帰り道は誰もが静かなもんだった。
ところで、一般株主からのアニメ『PSYCHO-PASS(サイコパス)』の続編を要望する声には笑った。国民の心理状態が定量的に監視・管理されるディストピアを描いた有名作品だが、この株主には「新しい取締役会も日枝さんの心理的監視・管理下にあるのではないか」とかいう含意があるのかと思ったら、純粋な要望だった。それがわかってもっと笑ってしまった。
しかし、これは単なる笑い話ではない。この4時間半で再認識したのはFMH、フジはやはりコンテンツプロバイダーとしてじゅうぶん再生できる、ということだ。
|
|
実写の邦画歴代興行収入を見ると、上位作品のほとんどがフジによるものだ。アニメもある。莫大(ばくだい)な映像アーカイブは宝の山だ。海外への拡大余地もある。清水賢治新社長もコンテンツの強さを強調した。
よし、では『ザ・ノンフィクション』で今回の株主総会の裏側を暴くのはいかがか。もちろんタイトルは『世にも奇妙な株主総会』で。
写真/坂口孝則