※イメージです(Alina - stock.adobe.com) 画像や音声、テキストなど、新しいコンテンツを人工知能によって簡単に作ることができる生成AI。その代表格であるChatGPTは、日常生活にも少しずつ広がりを見せ始めています。
今回は、育児や家事にChatGPTなどのAIを取り入れ、SNSで発信している専業主婦・まりさん(@m316jp2)に、家庭での活用法について聞きました。
まりさんは、国立大学の理系の大学院を卒業後、メーカーで技術・開発職を経験。妊娠、出産を機に退職し、現在は12歳、10歳、3歳の男の子を育てています。AIを家事や育児に使うようになったきっかけや、具体的な活用方法について教えてもらいました。
◆主婦目線のAI活用に、大きな反響
――家事や育児で生成AIを活用するようになったきっかけは何だったのでしょうか。
まり:家事や育児をしていると、一つひとつは小さくても判断が必要なことが大量にあります。それを自分一人で処理しようとすると、脳のリソースを大量に消費しているような感覚があって。小さい子どもがいると常に寝不足なので、余計に混乱してしまうこともよくありました。
2年ほど前にChatGPTが公開されて間もない頃、ふと「AIに聞いてみようかな」と思って質問を投げかけたところ、「意外に使えるな」と実感したことが何度もあったので、そこから日常的に使うようになりました。
――AIの活用事例を発信するようになったのはなぜですか?
まり:最初は生活や育児で気づいたことをnoteに書いていたのですが、家庭でAIを使った記事を載せると、大きな反響があって驚いたんです。
今はAIに関する記事はSNSにいくらでもありますが、ビジネスパーソン向けの内容がほとんどです。AIそのものや、ビジネスでの活用について語られていることが多く、家庭や子育ての中での活用について発信をしている人は、数か月前まではほとんど見かけませんでした。私は一応理系出身なので、主婦の立場から、新しいテクノロジーを積極的に使ってみる発信を続けてみようと思うようになりました。
――ChatGPTには無料版と有料版がありますが、家庭で活用する際は無料版でも大丈夫ですか?
まり:有料版のほうが精度が高く、すごくいい回答が得られるのですが、無料版でも十分に使えると感じています。無料で、より精度の高い回答を得たい人には、GoogleのGemini(ジェミニ)という生成AIがおすすめです。無料でも使える範囲が広く、回答の質が高いと言われています。
あと、「ChatGPTは全然役に立たない」と言う人が入れているアプリを確認してみると、ChatGPTに似た別のアプリを使っていることが多いんです。名称が似ていても別物であるケースも多いので注意が必要です。例えば、アプリ名の英語のつづりが微妙に違っていたり、カタカナ表記だったり。セキュリティ上の不安もありますし、アプリをインストールする前によく確認したほうがいいと思います。
◆我が家の好みに、AIを育てる
――家庭では、具体的にどんなことにAIを活用しているのですか?
まり:例えば冷蔵庫にある材料から、その日の献立を提案してもらっています。「ナス2本、ピーマン2個、しめじ1袋、豚肉200g、全部で527g(ホットクックの内鍋に材料を入れて計量)、塩分濃度0.6%で味付け考えて。子どもも食べる。3つくらい提案して」とChatGPTに入力すると、和風、洋風、中華風で3パターンくらい提案してくれます。
――「塩分0.6%」というのは……?
まり:勝間和代さんの著書『ラクして おいしく、太らない! 勝間式超ロジカル料理』で、「塩分濃度は料理の総量の0.6%だと一番美味しく感じる」といったことが書かれていたので、それを参考にしています。
重要なポイントは、家にある調味料を最初にChatGPTに教えておくこと。あらかじめ言っておけば記憶してくれます。家族構成も覚えさせているので、うちのChatGPTは毎回「塩分0.6%」「子どもも食べる」と入れなくても済むようになっています。
AIと話せば話すほど、味の好みなども汲み取ってくれるようになるので、我が家のためのChatGPTを育てているような感覚です。
◆子どもの発疹に不安な夜も
――家庭でAIを活用するメリットは何だと思いますか?
まり:子育てをしていると、知識を得たいというよりは、相談したい、選択肢が知りたいと思うことが多い気がします。
以前、小6の長男が夜間に「お腹にブツブツがある」と見せてきたことがありました。「赤いブツブツ」「子ども」などのキーワードで検索すると大量の情報が出てきましたが、つい怖い病気の可能性ばかり探ってしまい、不安がつのるばかりでした。
そこで、ChatGPTに発疹の写真を添えて、「どうしたらいいの」と聞くと、「おそらく水ぼうそうの可能性があります」と回答があり、「予防接種済みなら重症化はしにくい」「発熱など、今後あらわれる可能性のある症状」と教えてくれました。「水ぼうそうかもしれないんだ」「病院が開いたら受診すれば大丈夫」と思えたことで肩の荷がスッと降りました。
もちろん確定診断ではないので注意は必要ですが、私自身の気持ちのサポート面の役割が大きかったです。不安な気持ちを聞いてもらって、選択肢を示してもらえたことで、「これから熱が出るかもしれないから、今のうちにドラッグストアで必要なものを買ってこよう」と、今やれることが明確になり、少し落ち着くことができました。
◆家庭にこそ、AIの恩恵を
――他にも、日常生活でAIが役立った場面はありますか?
まり:ChatGPTに契約書を読んでもらっています。賃貸マンションのLEDシーリングライトがチカチカしていたとき、自分で取り替えるべきなのか、管理会社にいうべきか迷いました。そこで、スキャンした契約書のPDFをChatGPTに読み込ませて、「照明器具の交換は誰の責任になっていますか?」と聞くと、「第8条3項では、設備故障は賃貸人が修繕とあります」と回答が瞬時にあり、無償で管理会社に対応してもらうことができました。
また、家のWi-Fiが何度再起動しても不安定で困っていたとき、モデムとルーターの写真を撮ってChatGPTに送り、「ネットの接続がときどき切れるんだけど、原因って何だと思う?」と相談しました。すると、「二重ルーターになっている可能性があります」とアドバイスがありました。二重ルーターとは、家庭内でルーターが重複して接続され、通信が不安定になる状態です。写真の隅々まで情報を読み取って、スイッチの状態や、LANケーブルをさしこむ場所までアドバイスしてくれたので、接続状況を改善することができました。
――家庭や育児の分野で、ChatGPTがさらに活用されるようになるためには何が必要だと思いますか?
まり:AIの分野って、どうしても男性エンジニアが中心になって進んでいるところがあって、活用の場もビジネスシーンに偏りがちなんですよね。でも実は、家庭の中にもテクノロジーの力が役立つ場面ってたくさんあると思うんです。
だけど現実には、新しいテクノロジーが家庭にまでなかなか届いていない。便利なツールがあっても忙しい日常の中では「どう使ったらいいのか分からない」「難しそう」と感じて、取り入れられないままになっていることも多い気がします。
家事や育児を担っている人たちが、こうした最新技術の恩恵から取り残されてしまうのは、本当にもったいない。私自身も専業主婦ですが、「こういうときにAIが使えたらいいな」と思うことが日々たくさんあります。だからこそ、家庭の中でのAIの活かし方をもっと探っていきたいし、暮らしの視点からこの分野を少しずつ広げていけたらと思っています。
【まり】
国立大学の理系の大学院を卒業後、メーカーで技術・開発職を経験。妊娠、出産を機に退職し、現在は男子3兄弟(小6、小4、3歳)の母。家事子育てにAIを導入したことで、NHK「チルシル」、日テレ「DayDay.」他、複数メディアに出演。著書に『おうち遊びアイデア帳』。note:めんどくさいことをテクノロジーで解決したい主婦、X:@m316jp2
<取材・文/都田ミツコ>
【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。