リクエスト判定の根拠は?米球界との格差は歴然…いかなる理由で至ったか説明すべきだ/寺尾で候

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2025年07月07日 17:34  日刊スポーツ

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7月2日、阪神対巨人 8回裏阪神2死一、二塁、大山悠輔の遊撃適時内野安打で生還する森下翔太。捕手甲斐拓也。判定はアウトもリクエストでセーフとなる

<寺尾で候>



日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。


     ◇     ◇     ◇


阪神がこのまま突っ走って、セ・リーグ優勝が現実になったとき、この一戦は重大な転機になったと言えるだろう。それが2日の巨人戦でもぎとった、ただの1勝ではない1勝だった。


1対0。そのゲームはホームベース上で起きたクロスプレーで、リプレー検証の判定が「アウト」から「セーフ」にひっくり返った。その1点で阪神が勝って、巨人は敗れた。


阪神ベンチは蜂の巣をつついたような大騒ぎ。一方、抗議に出た巨人監督の阿部慎之助は退場処分を受けた。首位争いをする両軍が明暗を分けたのが、1つのジャッジだったのだ。


0対0で迎えた8回2死一、二塁、阪神大山のショート泉口への遊ゴロがイレギュラーして二塁方向にはじかれた。これに反応した二塁走者森下が一気にホームに突っ込んだ。


転がったボールを拾った二塁手の吉川が本塁に送球、森下はタッチをかいくぐって大きく回り込んだ。そこに難しい送球を捕った甲斐がタッチにいった。


球審山本は「アウト」を宣告したが、阪神監督・藤川球児がリクエストに出た結果、判定が覆った。タイミングは完全にアウトだが、必死に手を伸ばした森下の執念が実った。


この試合に限らず、どのチームの監督もリクエスト判定に内心は納得ができず、腹に不満を残したまま受け入れざるを得ない心境だった苦い経験を持っている。


セ・リーグのアグリーメントでは、検証後の判定に抗議はできない。だが阿部が審判に「(判定が覆った)根拠は教えてもらえないんですか?」と持ちかけた気持ちには一定の理解もできる。


そこに日本球界におけるリクエスト制度の限界がある。もはや各球場のテレビ中継用の映像だけでリプレー検証の判定を下すのは厳しくなっているし、米球界との格差は歴然としている。


今回の一件で、身びいきチームの勝敗はさておき、複数ファンを取材したリクエスト制度に関する意見はさまざまだった。


「裏で審判が多数決で決めてるって本当?」「審判の権限、威厳なんてもう古い。審判がリクエストしたら?」「メジャーみたいに第三者の介入必要」「球場によってばらつきがある」


米大リーグの「チャレンジ」の通称で行われるリプレー検証では、全30球場に独自に専門のカメラ機器を設置し、ニューヨークのオペレーションセンターで一括管理されている。


チャレンジのプレーには、現場にいる審判とニューヨークのスタジオを速やかにつなぎ、本部から判定が伝えられる公平性を保った仕組みになっている。


日本が米大リーグと同じシステムを構築するには莫大(ばくだい)な設備投資が必要になってくる。また何度もリクエストの対象を拡大するなど“日本版”に改良してきたのも事実だった。


ただ単にリクエストがショーになって球場が盛り上がればいいというものではない。それにこの制度に依存し過ぎて、審判の技術力が低下するのは本末転倒だろう。


それにファンに対していかなる理由、根拠でその判定に至ったかの説明をすべきだ。リクエストに限らず、マイクをもった審判は、より丁寧にわかりやすい釈明に取り組んでほしい。


そのうち日本でも、米マイナー、韓国などで運用される「ロボット審判」導入が論議されるのだろう。テクノロジーにはアレルギーを感じるが、今後はさらに正しい判定が求められる。


くしくも甲子園と同じ日、ソフトバンク対日本ハム戦でも、最終回のリクエスト判定で勝敗が決した。サヨナラ負けを喫した新庄剛志は平静を保ったらしいが、行き場のない憤りではらわたは煮えくりかえっていた。そう思った。(敬称略)【寺尾博和】

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