美輪明宏の“言葉”はなぜ心に沁みるのかーー人生相談のベストセレクション『この世は人生学校』を読む

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2025年07月11日 13:10  リアルサウンド

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美輪明宏『この世は人生学校 幸せになりたいすべての人へ』(家の光協会)

 「不幸の数をかぞえるよりも、幸せの数をかぞえてみましょう。まずは感情を横に置いて、冷静に考えてみることがたいせつです。」


 沁みる。本を開くと冒頭に出てくる美輪さんのカラーの肖像写真。それをめくると出てくる上記のお言葉。やはり、美輪明宏さんはやはり尊い、神々しすぎる。人生とは、まさに「学び」の連続――そんな普遍的でありながら忘れがちな真理を、改めて思い出させてくれた一冊が『この世は人生学校 幸せになりたい全ての人へ』(家の光協会)である。



 今回の書籍は月刊誌『家の光』で2001年から連載されていた人生相談を厳選したベストセレクション。本書では、老若男女を問わず、多くの読者が美輪さんに寄せた様々な悩みや質問に対し、美輪さんが人生の先輩として、また精神的な指南役として、深い洞察と温かい励ましを与えている。


 筆者自身は40代半ばになった。人生の折り返し地点を過ぎたことで、自分自身の選択や人間関係、将来への不安など、若い時とは異なるさまざまな悩みが増えてくる。美輪さんの言葉は、そんな私の心にダイレクトに響いた。妹と浮気した夫が許せないという読者の回答には、50歳前後が一番問題があるという指摘にハッとなる。


 最大の魅力は、美輪さんが語る言葉の包容力と、人生を広く深く見つめる視点だろう。単に悩みを解決するだけでなく、悩みそのものが人生の糧となり、自分を成長させてくれる「学びの場」であることを伝えてくれる。


 本書には人間関係や不倫、ニートの子供などの家庭の問題、さらには仕事や将来への不安、心の健康など、読者から寄せられる悩みが多岐にわたり掲載されている。その中で特に印象的だったのは、「自分に自信が持てない」という女性からの相談に対する美輪さんの回答である。「自信とは他人と比較して生まれるものではない。昨日の自分より一歩でも前進したか、そこに目を向けるべきだ」との言葉は、競争や人との比較に疲弊しがちな私の心を優しく解きほぐしてくれる。


 また、家族との軋轢に悩む男性に対しては、「家族とはいえ一人ひとり違う人間なのだから、理解できなくて当然」という視点から、互いに認め合うことの大切さを説いている。美輪さんの回答はいつも現実的でありながら、その根底には温かさと、人間への深い理解がある。


 美輪さんの人生相談の真骨頂は、どのような質問にも共通して、人間が持つ悩みの本質を見極めているところだ。人はそれぞれ違った環境や問題を抱えているが、根底にある「人間の心」は普遍的であり、そこに焦点をあてた美輪さんの言葉は、多くの人に共感をもたらす。


 さらに美輪さんのアドバイスは、決して押し付けがましくない。読者自身が自分なりの答えを見つける手助けをしてくれる。まるでそっと背中を押すような優しさに溢れていて、読後には前向きな気持ちで再び日常に向き合う勇気が湧いてくる。


 人生の困難や悩みは避けられない。それらをどう受け止めるかによって、自分自身の人生は豊かにも貧しくもなる。美輪さんの人生相談は、そうした心の持ち方ひとつで人生の景色が変わっていくことを教えてくれる。日々の暮らしに疲れたり、迷いを感じたりした時、また人生の節目で何かヒントを得たい時に、そっと手元に置いておきたい一冊。とりあえず今日から「不幸の数をかぞえずに幸せの数をかぞえてみたい」と思う。



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