駅前で行われる参院選の街頭演説。立ち止まって演説を聴ける「聴衆エリア」は柵やコーンで囲まれ、通路と分離。選挙カーとも十分距離を取っている=5日、さいたま市見沼区 各党の論戦が続く参院選。前回2022年に起きた安倍晋三元首相銃撃事件以降、警察は警備を抜本的に見直し、街頭演説の風景は変化した。警護対象の要人が来る会場では、聴衆は柵で囲まれたエリアに入り、演説者は数十メートル離れた場所から声を張り上げる。手荷物検査も定着した。警察幹部は「陣営の理解も進んだ。二度と事件を起こさせない」と意気込むが、現場では暑さによる混乱もみられる。
警察庁は事件後、都道府県警任せだった警護計画を事前に審査する仕組みに変更。5月までに審査した約9700件のうち74%で修正を加えた。今回の参院選でも数百件の申請を見込んで、審査態勢を増強。申請のある前に警護計画を作り、基準を満たす会場を逆提案できるようにする「予備審査」も全国約900カ所分準備したという。
警備の主なポイントは、手荷物検査や金属探知検査を済ませた人だけをパイプ柵などで囲った「聴衆エリア」に入場させ、選挙カーなどとの間にも十分な安全距離を取るというもの。演台の周囲には防弾用のついたてなども置く。当時、米前大統領だったトランプ氏が24年に狙撃された事件を踏まえ、周囲のビル屋上への要員配置や外階段の閉鎖など「高所対策」を強化した。
聴衆エリア外の警備も重視しており、バリケードや警察車両で一般車の接近を防止。検査を受けていない人を滞留させないよう、足を止めて聴く場合はエリア内に誘導する。
ただ、厳しい暑さが警備を難しくする。さいたま市内で5日に開かれた与党の街頭演説では、暑さのせいか聴衆の出足は悪く、開始直前になって一気に手荷物検査などに長蛇の列ができた。熱中症対策で飲み物持参を勧める一方、容器の中身が危険物でないことを確認するため、入場前に一口飲んでもらう手間が混雑に拍車を掛けていた。また暑さを避けて聴衆エリア外の日陰で演説を聴こうとする人の滞留が生じ、汗だくの警察官や運動員が懸命にエリア内への移動を呼び掛けていた。
「なるべく屋内会場を促しているが、目立つ駅前の方が人気がある」と警察幹部。握手や触れ合いの要望も根強く、柵越しや「電車ごっこ」のようにロープで警護対象を囲んだ状態での対応などを求めているという。
一方、警護対象の要人が来ない会場では、従来通りの密接な選挙運動が続く。3月には路上で政治団体党首がなたで切り付けられる事件も発生しており、同幹部は「襲撃はどこでも起こる。聴衆の安全のためにも新スタイルが浸透してほしい」と話した。

参院選の街頭演説で「聴衆エリア」に入るため、手荷物検査や金属探知を受ける人たち=5日、さいたま市見沼区(一部、画像処理してあります)