背番号「4」のキャプテン石川真佑の笑顔から伝わる充実感「ハイセットは自分の強みだし、打ち続けてきたから今がある」

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2025年07月14日 07:10  webスポルティーバ

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 ネーションズリーグ2025予選ラウンド第3週でファイナルラウンド進出を決めた女子日本代表。その主将を務める石川真佑は、試合中に多くの笑顔を見せていた。その理由とは――。

 【新チームをプレーで引っ張っていく】

 崩れた状況で、トスが上がってくる。

 3戦目のポーランド戦、圧倒的な高さを誇る相手のブロックを前に、高いトスの落下点を見定めながら、助走に入る。通常ならばアタッカーが不利と見る人が圧倒的であろうなか、その状況で、石川真佑はまさに真骨頂ともいうべきプレーを見せつけた。

 高く上がったトスを空中で捉え、鋭角に叩きつける。セットカウント2−1とリードしながら、第4セットはポーランドが先行。一時は最大4点差まで広がった状況で、劣勢をはねのける石川の一打が、日本に勝利をもたらした。

 待ち望んだ"エース"の輝き。実はその2日前、韓国戦を終えた石川は、葛藤していた。

「『もうちょっと打ちたいな』『トスがほしいな』と思う時もありますけど、チームが勝てるならどんな形でもいい。自分にトスが上がってきた時にどれだけ結果を残せるか。そのために準備するだけだと思ってプレーしています」

 そう話す石川は、リザーブで出場機会はなかった韓国戦でも、アップゾーンで常に笑顔を見せていた。そして、「ファイナルラウンド進出を決めた好調の理由をキャプテンとしてはどう見るのか」と、尋ねると、表情を引き締めた。

「苦しい状況になった時に何かひとつきっかけがあれば流れが変わると思うんですけど、それを言葉で伝えるのか、プレーで伝えるのか。個人的には言葉で伝えるよりもプレーで引っ張っていくタイプだと思っているので、自分が1点決めた時のアクションや、ほかの選手が決めた時にもそれ以上に盛り上げたい。ここからもっと苦しい場面が増えると思うので、そこでどう耐えて、チームとして戦っていけるか。それもひとつ、重要なことだと思っています」

【今につながっている成徳のバレー】

 石川の背番号は「4」。これまで、女子バレー日本代表の主将は「3」をつけることが多かった。最初は竹下佳江がつけた「3」を背負いたい、と継承された番号だったが、そのあとも日本代表の主将イコール3番、といっても過言ではないほど浸透してきた。

 2028年ロサンゼルス五輪に向け、フェルハト・アクバシュ監督のもと始動した新生日本代表で、石川が主将に抜擢された。これまでの流れならば、石川も「3」をつけるのかと思いきや、選んだのは「4」だった。もちろん理由がある。

「(下北沢)成徳の時につけていたのが4番だったので、それからは日本代表でも(イタリアの)所属チームでも自分が選べる時は4番がいいな、って。やっぱり自分にとっては原点だし、成徳でやってきたことが、今にもつながっていると思うんです」

 成徳のバレーが今にもつながる――。

 石川の言葉を聞き、まさに、と思うシーンが何度もある。サーブ戦術が高まる近年、セッターへピタリと返すパスを理想としながらも、現実的には難しい。返球が多少離れてもそこからコンビを使うのはもちろんだが、セッターがトスを上げるのがやっとという状況や、セッター以外の選手がトスを上げる場面も珍しくない。

 たいていの場合、まずはアタッカーを打たせるために高いトスを上げることが多く、相手ブロックも揃った状況で高いトスからの攻撃をどう決めるか、アタッカーの技量が試される状況なのだが、このハイセットを打つ、という一見すればシンプルで実は難しい攻撃は、石川にとってむしろ得意とするプレーだった。

「ちょっとタイミングがズレたり、自分の感覚が崩れた時にあえてハイセットを打つことで、感覚を取り戻したい、というのはあります。速いトスを打つよりも高いトスを打つほうが難しくて、すぐできることではないんですけど、私の場合は高校時代に高いトスを打ってきたので、自分の感覚を確かめる時にはハイセットを打つほうがいい。それが自分の強みだし、打ち続けてきたから今がある。それは間違いないです」

 もっと広い目で見れば、日本代表でネーションズリーグを戦うメンバーを見渡した時、ハイセットを打つことを得意とする、打てる選手が石川だけではない、というのも強みだ。対角に入る佐藤淑乃やオポジットの和田由紀子、ミドルブロッカーの宮部藍梨や島村春世もハイセットを打てる。リザーブの深澤めぐみ、北窓絢音もハイセットを打てる技術と力を持つ。そんな選手がずらりと揃うのはまさに強みだろう。石川もこう続ける。

「本当に全員が(ハイセットを)打ち切れるので、パスが崩れてしまったとしても失敗とは思わない。むしろそこから決めればいい、と思って打てる」

 もちろん、ただ打つだけでなく、レベルが上がればより高度なスキルや状況判断能力など、求められることも増える。ブロックに対してどう攻撃するか、ひとつ間違えれば失点につながり、相手へ流れや勢いを与えるきっかけにもなりかねない。

 攻撃面での活躍が光る23歳のアウトサイドヒッターで、大会全体の総得点数でも8位となる158得点(7月12日時点)を挙げる活躍を見せている佐藤は「対海外選手に対して、真佑さんのハイセットの打ち方がものすごくうまいので、自分もマネしている」と話す。

 まさにイタリアでの2シーズンで磨かれた技術と判断力。「大きく何かを変えたわけではない」と言いながらも、「変化があるとしたら......」と石川が明かす。

「日本でプレーしていた時は、ブロックが揃った状態でのハイセットも打ち込めることが多かったんです。でもイタリアのように、相手のブロックが高くなると打ち込むだけではシャットされてしまうので、長いコースへ打ったり、ちょっと緩く打ってブロックに当てて出したり、空いたところへ落とす、というのは今まで以上に意識するようになりました」

【笑顔のプレーから伝わる充実感】

 2019年に日本代表へ初選出されて以後、出場機会を得続けられたわけではなく、なかなかコートに立てず、試合後のミックスゾーンへ現れる際も、笑顔よりもどかしさを浮かべるほうが多い時期もあった。

 速さが重視されるなか、思うようなプレーができずに「全然いい感覚で打てない」と眉間にしわを寄せる姿。また別の時には、勝負どころでブロックに捕まって、しかもそれが勝敗を決する場面であったことから「自分が決めきれなかったので負けた」と涙する姿も見た。

 学生時代からの華やかな戦績に注目されがちだが、決していい時ばかりではない。だから今の、「もうちょっと打ちたい」と言いながらも常に笑顔でプレーし、ミックスゾーンで応える姿を見ていると充実度が伝わってくる。

「まだまだこれからのチームだし、アタッカーとしてここは欲しい、と思う場面もセッターにはセッターの考えがあるから、そういう時は葛藤もする。でもそれ以上に、チームが勝ったり、チームとして成長していくことができていたらいいな、と思うので、自分のことばかりに矢印が向くわけじゃない。自分自身は上がってきたトスは全部決める気持ちで。キャプテンとしてはどうかな(笑)、特別なことができるわけじゃないですけど、苦しい時に抜け出せるきっかけをつくれるような存在でありたいです」

 まだまだこれから。ファイナルラウンド、そして世界選手権へ向けて、背番号「4」の主将は、自身とチームの成長に向けて突っ走る。

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