
ダイヤの原石の記憶〜プロ野球選手のアマチュア時代
第2回 増田陸(巨人)
「なんで、そこまで言われなアカンねんって思ってました」
増田陸がプロ入り後、久しぶりに会った時に言われた言葉だ。だが間違いなく、あの後から取り組みが変わった。
【甲子園での活躍で社会人に内定】
2017年の秋。明秀日立(茨城)のキャプテン・増田陸は、1番・ショートとしてチームをけん引した。
翌春の選抜出場がかかった関東大会。準決勝の慶應義塾(神奈川)戦では本塁打を含む3安打4打点。決勝の中央学院(千葉)戦でも2試合連続の本塁打を放ち、明秀日立を春夏通じて甲子園初出場に導いた。
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光星学院(現・八戸学院光星/青森)時代に坂本勇人(巨人)を育てた金沢成奉監督が指導することもあり、"坂本二世"として注目されて臨んだセンバツでは、初戦の瀬戸内(広島)戦の初回、第1打席でいきなりレフトフェンス直撃の三塁打。
7回にも再びレフトフェンス直撃の一打を放つ(二塁打)と、1点ビハインドで迎えた9回には無死一、三塁からライト前に同点打を放つ上々の全国デビュー。2回戦の高知戦でもフェンス直撃の当たりを放ち、アピールに成功した。
冒頭の「あの後」の"あの"とは、選抜大会が終わってしばらくした頃、筆者が明秀日立を訪ねた時だ。
進路を聞くと、甲子園での活躍が評価されて関西地区の社会人チームに内定したという。だが練習を見ると、甲子園後の燃え尽き症候群なのか、進路が決まった安心感なのか、プレーに精彩を欠いていた。そこでこう声をかけた。
「夏まで本気でやればプロに行ける。ホントに社会人でいいの?」
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プロに行くために「夏の大会が就職活動の場だ」という気持ちでやるのと、進路が決定した状態で最後の夏を迎えるのとでは、夏の大会までの取り組みが変わってくる。ちょうど、その前年、広陵の中村奨成(現・広島)が甲子園新記録となる1大会6本塁打を放っていた。
「たとえ社会人入りを表明していても、去年の中村奨成ぐらい打てば、プロが放っておかない。『増田くん、プロに来てくれ』と言われる。それぐらい目指してやらないと、成長するのは厳しいんじゃない」
【大舞台になると燃えるお祭り男タイプ】
もともとはプロ志望。「なぜ、ここで安泰を求めるのか?」と、そんな疑問から投げかけた言葉だった。本人は「まぁ、そうっすね」という感じだったが......。
関東大会、甲子園での活躍が証明するように、当時の増田は大舞台になると燃え、元気よくプレーする"お祭り男"。ゆえに勢いに乗ると強いが、そうでない時はからっきし。第1打席の結果によって、その後の結果も決まるようなところがあった。
また、金沢監督いわく「イノシシみたいなヤツ」。甲子園初打席の三塁打の際は、相手の中継が乱れたのを見て、まだノーアウトだったにも関わらず、無理やり本塁に突っ込んで悠々アウトになっている。熱いのは長所だが、熱くなりすぎて周りが見えなくなることがあった。
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「成長するためには、そういうところから直さないと」という筆者の言葉に、メラメラと燃えてきたのだろう。その取材の最後にはこう言っていた。
「甲子園でのミスは焦りです。余裕がなかった。欲が出てしまい、状況判断や準備がなかった。周りを見てやるようにしないといけない。バッティングも"フェン直"ばっかりで悔しかった。スピンティーを使ってボールの下を叩いて、打ち上げて飛ばす練習をしています。夏はホームランを3本打ちたい。第1打席のことも、もっと真剣に考えてやります」
【退路を断ち進路をプロ一本に】
そして、夏。増田の変化は明らかだった。社会人に断りを入れ、進路をプロ一本に変更。
「準備の意識を変えました。練習のキャッチボールから抜かないでやるようにしました」
その成果が数字として表れる。夏の茨城大会では警戒され、ボール球が多くなった。それまでは打ちたい気持ちが強すぎて、悪球に手を出すことが多かったが、我慢した。
その結果、初戦は3安打1本塁打、2戦目は3安打2四球。3戦目の第2打席で凡退するまで10打席連続出塁。春の関東大会から通算すると県記録を更新する公式戦12打席連続出塁だった。
「この夏は我が出たのは1球だけでした。それで連続出塁が途切れたんですけど、『これはアカン』と切り替えられました」
敗れた土浦日大戦では、コールド負け寸前の8回に意地の3ラン。簡単に2ストライクに追い込まれたが、慌てなかった。
「データが頭に入っていた。次は絶対スライダーやと思って、思いきり絞って打ちました」
我慢を覚え、冷静に考えられるようになったのが大きな成長。覚悟を決め、退路を断ち、意識も行動も変わったからこその結果だった。
この活躍が認められ、巨人から2位指名を受けた。プロ入り後は3年で育成契約に切り替えられるなど決して順風満帆ではなかったが、岡本和真のケガによってチャンスを得た今年、持ち味の思い切りのよいバッティングでアピールしている。
謙虚さは忘れず、でも、思いきり調子に乗って、シーズン終了まで突っ走ってもらいたい。