握手するインドのモディ首相(左)とトランプ米大統領=2月13日、ワシントン(EPA時事) 【ニューデリー時事】トランプ米政権の「相互関税」を巡り、インドと米国との交渉が佳境を迎えているもようだ。各国・地域が進める交渉でインドは先頭集団と目されていたが、米国が突き付けた酪農や農産物の市場開放要求をのめず難航。医薬品に対する200%の関税圧力も加わり、インドが死守したい「聖域」の扱いが最大の焦点だ。インド政府代表団は近く再度訪米し、暫定的な貿易協定締結に向け詰めの協議を行うと伝えられている。
米政権が4月に公表したインドに対する相互関税は、国別の上乗せ分を合わせて計26%。シタラマン財務相は6月下旬に地元紙とのインタビューで、農業と酪農は「とても大きなレッドライン(譲れない一線)」と述べ、妥協しない姿勢を示した。
14億人超の人口を抱えるインドでは6割以上が農業関連の仕事に従事しているとの推定もある。市場開放に応じて安価な米国産品が流入すれば、国産品との価格競争力が激化するのは必至。モディ政権としては、自国の農家に打撃を与え、政権批判につながることを懸念しているようだ。
関税交渉が暗礁に乗り上げる中、インドは米国が輸入自動車や同部品に追加関税を課したことに対抗し、報復関税を課す方針だと世界貿易機関(WTO)に通知した。今後、対米けん制の交渉カードに使うこともあり得る。
また、ここにきてトランプ大統領が医薬品の輸入に対し200%の追加関税をちらつかせたことで、製薬大国であるインドの痛手となる可能性も浮上。2024年度のインドの医薬品輸出額は約305億ドル(約4兆5000億円)で、米国向けが3分の1近くを占める。インドは特に後発医薬品(ジェネリック)の製造に強みを持つ。
インド製薬大手幹部のパバン・クマール・ネレラ氏は「インドの大手企業の多くが米国に製造施設を有し、影響を緩和できるだろうが、施設の増強には数年かかるとみられる。ジェネリック医薬品のわずかな利益率を圧迫するだろう。小規模な企業は(生き残るため)合併問題に直面するかもしれない」と語った。