『運命の巻戻士』がアニメ化されることが7月10日に発表された。
参考:【画像】『運命の巻戻士』作者・木村風太らのアニメ化記念お祝いイラスト
2022年より「月刊コロコロコミック」で連載中の同作は、コロコロ45年の歴史上初のループ漫画。「このマンガがすごい!2024」で32位にランクインして頭角を現すと、あの『ドラえもん』でも成し遂げられなかった「12カ月連続人気アンケート1位」という大記録を打ち立て、辻村深月、川村元気、虚淵玄など著名人からも大絶賛されている。
アニメの演出を手がけるのは『血界戦線』の松本理恵、制作は『僕のヒーローアカデミア』のボンズフィルム、プロデュースは『すずめの戸締まり』を送り出したSTORY inc.という盤石の布陣。これだけでアニメファンは期待で心が高鳴ってしまうだろう。
■「コロコロ」向けにチューニングされたハードなテーマ
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『運命の巻戻士』は、時空警察特殊機動隊、通称「巻戻士」を描いたタイムループアクション。右眼に埋め込まれたタイムマシン“リトライアイ”を使って、悲運の死を遂げた人々を救うまで繰り返し時間を巻き戻す彼らの活躍が描かれる。
タイムループ漫画といえば、『サマータイムレンダ』『ひぐらしのなく頃に』『東京卍リベンジャーズ』などが思い出されるが、その多くが悲劇性を軸に物語を紡いできた。しかし、本作はその重さを咀嚼し、児童誌向けに昇華した点が極めてユニークだ。
見た目こそ子ども向けのポップな絵柄だが、その内実は、限りなく真顔で放心してしまうようなシリアスに満ちている。主人公・クロノは失敗しても失敗しても、執拗に運命に抗い続け、事件を何千回と巻き戻す。ループ能力という一見万能な力を持ちながら、それを使ってもなお救えない悲劇が描かれ、そのたびに読み手は彼の強さと優しさに胸を打たれる。だが、物語の構造は決して陰惨に流れない。なぜなら、彼がどんな困難にも笑顔で立ち向かうからだ。だからこそ、読者には「応援したい」という純粋な感情だけが残る。
また、クロノは一人で戦うわけではない。仲間たちと支え合い、知恵を絞り、強い信念でミッションに挑む。この構造は「友情・努力・勝利」という「ジャンプ」の王道ストーリーを彷彿とさせるが、それを掲載誌である「コロコロ」の文脈に落とし込んでいる点が面白い。
誰かのため、大事な人を守りたいといった強い感情がトリガーとなって開眼する必殺技も、「早送り」「再生」「停止」とアナログ感があり親しみやすい。決め台詞である「攻略未来(クリアルート)」の語感も最高で、作者のセンスが光っている。まるでRPGのような戦略性とドラマ性を併せ持ち、子どもたちにもわかりやすいように構築されているのだ。
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実際、「コロコロ」という媒体でここまでハードなテーマを扱っていながら、過度に人が傷つかず、それでいて悲劇を丁寧に描くというバランス感覚は、異常なまでに洗練されている。
■『鬼滅の刃』にも通づる明快な対立軸
クロノがなぜ巻戻士になったのか。序盤で彼自身の過去が描かれるのだが、そこにあるのは、あまりにも厳しく、そして美しい兄妹の絆。最愛の妹を救えなかったという現実が彼の根幹を構成し、それゆえに彼は一切諦めないし、失敗から学び、何度でも立ち上がることができる。
これはまさに『ONE PIECE』のような、“純度100%の王道”である。シンプルで感情移入しやすく、それでいて深く、重く、熱い。「ジャンプ」に載っていてもおかしくない、むしろ本来「ジャンプ」でこそやるべき王道展開を、あえてコロコロが引き受けてしまった。それは「ジャンプがジャンプらしさで敗北した瞬間」でもあるようにすら思えてしまう。
しかもこの作品は、コロコロ読者というある種「未来のオタク予備軍」に対して、最初に読むSFバトル作品として最高の入り口を提示している。リトライアイ、時空警察という設定、敵組織「クロックハンズ」には『鬼滅の刃』の「十二鬼月」にも似た12人の強キャラがおり、対立軸も明快でイメージが湧きやすい。
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子ども向けな“めちゃくちゃな展開”も入れつつ、物語としては大人が見ても面白いという完成度の高さ。本作が今の子どもたちのSFや能力バトルの基準になってしまうと思うと、末恐ろしい感じすらしてしまうが、これほどのエンタメ体験を今の子どもたちが最初に味わうのだとしたら、それはとてつもない財産になるだろう。
アニメをきっかけに、この作品が爆発的なブームとなることは、時間の問題にも思える。クロノならきっと救ってくれる。どんなに辛くても、最後には絶対に笑顔になれると信じられる。この「安心感を前提にしたハードさ」こそが、今までのどのループ漫画にもなかった最大の魅力だろう。
「コロコロ」という器に“王道ジャンプ魂”を詰め込んだ『運命の巻戻士』は、まさに名作。作品に触れれば、幸せな時を刻んでくれることは間違いない。
(文=蒼影コウ)
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