【プレミアリーグ】三笘薫のステップアップ移籍は焦るべからず 開幕時はブライトンでプレーしたほうがいい理由

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2025年07月15日 10:10  webスポルティーバ

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 この1〜2年、夏・冬にかぎらず移籍市場が開くたびに、ブライトンの三笘薫はビッグクラブへの移籍が噂されていた。

 今年1月にはサウジアラビアのアル・ヒラルが提示した8500万ユーロ(約141億円)ものオファーを「レベルが高いリーグでプレーしたい」と拒否したとも伝えられている。カネでは動かないぞ、という意思表示だ。

 今年の夏も、三笘の周辺は騒がしかった。アーセナルやチェルシー、バイエルンの補強候補として、国内外のメディアからクローズアップされた。

 しかし、バイエルンは本当に三笘を欲していたのだろうか。そもそもの発信源は、情報の信憑性に乏しい大衆紙『Bild』だ。5月の段階で去就が微妙だったレロイ・サネ、キングスレイ・コマンの立場を踏まえ、左ウイングに三笘を当てはめたにすぎない。バイエルンがエージェントに接触した事実は確認できなかった。

 そして今、サネはガラタサライに去り、フリートランスファーになったコマンも移籍先を探している。バイエルンは現在、ミランのラファエル・レオン、リバプールのルイス・ディアスとの交渉がまことしやかに囁かれている。そこに三笘の名前は見当たらない。

 チェルシーも同様だ。コール・パーマー、モイセス・カイセド、ニコラス・ジャクソン、ペドロ・ネトなど、近頃は2000年代生まれの若者を軸に補強を図っている。今夏に獲得したリアム・デラップも22歳、ジョアン・ペドロは23歳、ジェイミー・バイノー=ギッテンスは20歳である。5月で28歳になった三笘は対象外だろう。

 しかもチェルシーの内情は、ジェイドン・サンチョ、ラヒーム・スターリング、クリストファー・エンクンク、ミハイロ・ムドリク、ジョアン・フェリックスといった構想外の選手が目立つ。それらを含めると、前線は多くの余剰戦力を抱えている。また、ファイナンシャル・フェアプレー違反を繰り返すクラブの体質も、三笘のクリーンなイメージにふさわしくない。

【アーセナル移籍の線も消えた】

 一方、アーセナルは左ウイングを欲していた。30歳になったレアンドロ・トロサールは売り時で、ガブリエウ・マルティネッリはより多くの出場機会と大幅な昇給を要求した。「両選手とも放出か」「レアル・マドリードのロドリゴ獲得か」「三笘もあるぞ」とメディアは色めき立った。

 だが、左ウイングはクルスタル・パレスのエベレチ・エゼで落ち着きそうだ。攻撃のアイデアだけではなく、守備の貢献度も高いイングランド代表である。ミケル・アルテタ監督もいたくお気に入りだという。

 なお、すでにレアル・ソシエダのマルティン・スビメンディを獲得するために5100万ポンド(約99億円)、ブレントフォードのクリスチャン・ノアゴールには1500万ポンド(約29億円)を支払っている。

 また、5000万ポンド(約98億円)を投じてチェルシーからノニ・マドゥエケを補強寸前で、エゼの契約解除金は6750万ポンド(約132億円)もかかる。そしてスポルティングとの交渉が大詰めとされる(破談の恐れもある)ヴィクトル・ギェケレシュには、少なくとも7000万ポンド(約136億円)が必要だ。

 つまり今夏のアーセナルの補強には、2億5350万ポンド(約494億円)ものビッグマネーが動くことになる。大盤振る舞いである。

 アーセナルの直近3シーズンの収支を踏まえると、プレミアリーグ独自のPSR(Profit and Sustainability Rules/収益性と持続可能性に関する規則)に違反する怖れはないが、次なる補強があるとすれば数人を売却してからの話になる。こうして、アーセナルの線も消えた。

 それでも、三笘の名は移籍市場でくすぶっている。特別に優れた左ウイングであることは周知の事実だからだ。本人もステップアップをあきらめたわけではなく、好条件のオファーが届けば新天地を求めるのではないだろうか。

【たとえばマンCに移籍したら...】

 そしてブライトンからステップアップするのなら、世界でも名が知れた強豪に限られる。

 噂どおり、ルイス・ディアスがバルセロナあるいはバイエルンに移籍すれば、リバプールは左ウイングが手薄になる。マンチェスター・シティもこのポジションは選手層が厚くなく、アトレティコ・マドリード、高井幸大が加入したトッテナム・ホットスパーも、左ウイングはパワーアップが必須とされている。

 ヨーロッパ主要リーグの移籍市場は9月1日まで開かれ、奇々怪々な動きはまだまだ続く。「今夏は残留」と三苫の去就を決めつけるのは早計であり、また、これっぽっちも楽しくない。

 チャンスさえ訪れれば、三笘は必ずステップアップする──。これが筆者の考え方だ。しかし今シーズンの開幕時に絞れば、ブライトンに落ち着いていたほうがいいのではないだろうか。なぜなら、ヨーロッパのフットボ−ルシーンが混沌の夏を迎えているからだ。

 クラブワールドカップに出場したチームは疲弊している。昨シーズンの疲れを引きずったまま炎天下で戦った。本来、休むべき期間に心と体を酷使したツケは、いずれ必ず支払わなければならない。

 リバプールのユルゲン・クロップ前監督も警鐘を鳴らした。

「これまでに経験したことのない甚大なダメージが、選手たちに降りかかるリスクは否定できない」

 たとえば、疲れきったマンチェスター・Cに三笘が加入したとしよう。日本代表の左ウイングは動けるが、ほかの選手はギアが上がらない。負傷選手が相次いでいても不思議ではなく、チームはずるずると下降線を描く。結果、期待された28歳の新戦力に批判の矢が飛んでくるかもしれない。

 要するに、ステップアップを急ぐ必要はないのである。

 チアゴ・シウバ(現フルミネンセ)がパリ・サンジェルマンからチェルシーに移籍したのは、36歳の時だった。ハリー・ケインは30歳でスパーズからバイエルンへ、遠藤航も30歳の時にシュツットガルトからリヴァプールにチャレンジし、ともに大成功している。

【ブライトンの王様でいるメリット】

 これらは、満を持した決断が最良の選択となった好例で、年齢は単なる数字でしかないことを身をもって証明した。

 今オフ、ジョアン・ペドロがチェルシーに、シモン・アディングラはサンダーランドに移籍した。20歳のエヴァン・ファーガソンはファビアン・ヒュルツェラー監督のお眼鏡に叶っていない。今シーズンもブライトン攻撃陣は三笘が軸になる。

 世界でもトップ3に入るボールコントロール、相手DFを無効化する切れ味鋭いフェイントは、見る者を別世界にいざなう。周囲がイージーミスを犯さなければ、昨シーズンの10ゴール・4アシストは簡単に上回るだろう。

 三笘がピッチに現れた瞬間、スタジアムのボルテージは最高潮に達する。すでにブライトンの「玉座」に君臨している証(あかし)だ。そのまま居座るもよし、時を見計らってビッグクラブに移籍するもよし。

 繰り返すが、急ぐ必要はまったくない。

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