
【世界最高峰のリーグを目指すなら「審判もプロであってほしい」】
SVリーグ初年度の閉幕から約2カ月。直後にはロサンゼルス五輪に向けた日本代表が始動し、ネーションズリーグも開幕。女子に続いて男子も、7月16日から今年度初の日本開催となる千葉大会が始まる。
バレーボール熱が日増しに高まるなか、西田有志は今秋に開幕するSVリーグ、さらにその先の自身が目指す選手像を体現すべく、新たなスタートを切っていた。
昨夏のパリ五輪を終えた直後から、今年度(2025年)の日本代表選手としての活動は参加せず、「休養に充てたい」と明言した。"休養"という言葉だけが独り歩きしてさまざまな憶測を呼んだが、休むのではなく、これまで日本代表と所属クラブで走り続け、疲弊してきた身体をイチからつくり直したい。加えて、バレーボールの技術や考え方、発するばかりで枯渇していた知識やスキルをさらに身に着けるために、自身のトレーニングに集中したい、という意図が含まれていた。
この先も続く長い選手生活を考えれば、なるほど、と頷く理由はあっても、否定する要素などない。それなのに「僕はいつも叩かれるんで」と笑いながら、西田が言う。
「自分の意見は、自分の意見としてちゃんと発する。そこにどんな反応があってもいいと思っているので、僕は僕と違う考え方をする人がいても気にならないです。でもまぁ、なかにはひどい言葉をぶつけてくる人もいますけどね。それも別に、僕は僕なので。気にしてないです」
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振り返れば、SVリーグの最中もそうだ。
レギュラーラウンド44試合という試合数や、対戦数の不均等。選手の目線で、その時々に西田は声を上げてきた。プレーオフ直前のインタビューでも、あくまで自分の意見、と前置きしながら「もっとこうなってほしい」と望む西田の言葉には熱が満ちていた。
「SVリーグになって、間違いなく選手個々のレベルは上がったと思うし、外国籍のものすごい選手たちも増えた。そのなかで、審判に関しての問題が非常に大きかった、というのが僕の印象です。大変な仕事であるのはもちろん僕たちも承知していますし、リスペクトもしています。とはいえ、これだけプレーの質が高まるなか、判定技術がイコールかといえば残念ながらそうではないと感じます。
明らかなジャッジミス、とまでは言わないですけど、イン、アウトのジャッジやアンテナの内側、外側を通ったボールに関して、『これを見逃すのか』ということが多くて、プレーをしながら選手は非常にストレスがたまっていました。でも、誤解しないでいただきたいのは、僕が発しているのは文句ではなく意見なんです。選手が審判のジャッジに関して要求すると、SNSなどでは『審判はボランティア同然なのだからそこまで求めるな』という声も聞きます。それでも、だからこそ僕は言う。
なぜなら、あれだけ大変な責務が与えられているわけですから、プロの審判として職業にしていく仕組みとか、審判の技術を育成するとか、リーグとして世界最高峰を目指すなら、審判もプロであってほしい。僕は、あえて選手側からこういう意見を発することで変えていけると思うので、もっとよくなるために発信し続けたいです」
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【ほかにも"主人公"がいるなかで「譲れない」こと】
反応を怖がって沈黙するのではなく、よりよくなるための"意見"をぶつける。大阪ブルテオンの戦いはセミファイナルで終幕したが、その後も西田は自らの意見を発し、選手会の必要性も訴えた。
自分たちの立場を守ろうという自己擁護ではなく、選手も運営側もファンも、全員が当事者として一緒につくることができればもっといいリーグになるのではないか、という考えの現れでもあった。
「SVリーグになって大変なことはありますけど、でも明らかに、どの会場もたくさんのお客さんが足を運んでくださって、すごく盛り上がっていた。選手の立場からすれば、こんなにうれしいことはないですよね。独自の応援スタイルや盛り上げ方、ホーム&アウェーも根づいてきているし、だからこそ『もっといいプレーを見せたい』と思うのは当然ですよね」
西田は2018年にジェイテクトSTINGS(ジェイテクトSTINGS愛知)に入団し、20年にはチーム初優勝に貢献してMVPも受賞した。バレーボール選手としてひとつの目標を叶えたが、時はコロナ禍。共に喜び合いたいファンの姿がない、無観客での決勝だった。
「あの景色は忘れられないです。1点取って、普通ならワーッと盛り上がる場面でも歓声がない。いい時も、うまくいかない時も自分で盛り上げて、自分で立て直すしかない。あんなに苦しい優勝は初めてだったし、2度と(無観客試合は)経験したくないです」
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それは見ている側も同じだろう。
西田が日本代表に初選出された翌年、2019年のワールドカップ最終戦。カナダとの試合で見せた5本のサービスエースを含む6連続得点や、ラリーを決するスパイク、そして決めた後に両手を握りしめて叫ぶ姿。西田のプレーには華があり、会場を一気に盛り上げる。いつ、いかなる時も"主役"と言うべき存在ではあるが、「僕よりすごい選手がいっぱいいすぎる」と苦笑いを浮かべ、次々に名前を挙げる。
「まず、ウルフドッグス名古屋のニミル(・アブデルアジズ)選手は別格。1本1本のスパイク、サーブはもちろんですけど、もともとセッターの経験もあるのでトスもうまいし、プレーに遊び心がある。『このボール、どう取れる?』みたいな感じでティップを落としてきたかと思えば、ドカーンとまた違うコースに打つ。すごすぎです(笑)。
ニミル選手だけじゃなく外国籍のすごい選手はたくさんいるし、日本人だって宮浦(健人)選手や水町(泰杜)選手(ともにウルフドッグス名古屋)もすごい。水町選手なんて、身長181cmと小柄なほうなのに勝負所でめっぽう強いし、一番大事なところで一番いいサーブが打てる。完全に主人公じゃないですか。すごい選手、いっぱいいるんですよ」
ただし、これだけは負けない。
「子ども人気だけは、僕でしょ。そこは譲れないです。どこに行っても『ニシダ〜!』って手を振ってくれるのが嬉うれしいし、子どもって遠慮がないじゃないですか。僕に対して『ねー、これ知ってる?』みたいなノリで話しかけてくる子もおるし(笑)、たぶん僕は、友達みたいなもんなんですよ。
でも、僕も子どもたちに夢を与えられる存在になりたいんで。ひとりでも多くの子どもたちにバレーボールを見てほしいし、これからも気軽に僕の名前を呼んでほしい。『あいよ』とか『おう』とか、いくらでも応えますよ(笑)」
いつまでも、ヒーローであり続けるために。2018年の初選出から走り続けた日本代表を離れて過ごす夏は、さらにパワーアップやスケールアップを遂げるための必要な時間だ。証明するのは自分自身。この先も、西田有志の進化は続く。
【プロフィール】
西田有志(にしだ・ゆうじ)
2000年1月30日生まれ。三重県出身。186cm。オポジット。大阪ブルテオン所属。海星高校3年生でジェイテクトSTINGS(現ジェイテクトSTINGS愛知)の内定選手としてVリーグデビュー。入団2年目でMVPを獲得した。2018年には日本代表に初招集され、以降主力選手として活躍。東京五輪、パリ五輪にも出場した。2021年にはイタリア・セリエAのビーボ・ヴァレンティアでプレー。2022年、ジェイテクトに復帰後、2023年から現チームに加入した。