日本代表DF安藤智哉 日本代表は過去2度東アジアE-1サッカー選手権を制している。2013年の韓国大会、2022年日本大会では、最終決戦で韓国代表を撃破して、頂点をつかみ取った。逆に韓国に敗れた2017年の日本大会、2019年の韓国大会は優勝を逃す苦い経験をしている。
「先制点がすごく大事になると思う。前回は堅い試合だったんですけど、しっかり守りながらも先制点を取れたことがよかった。だけど、2019年のアウェイでやった時は向こうの最初の勢い、かなりアウェイの雰囲気に押されて前半に失点して負けてしまった。その2019年の教訓も生かせたらと思ってます」。前回大会のMVP&得点王の相馬勇紀は、2度の大舞台で天国と地獄を味わった経験値をチーム全体に還元していく構えだ。
その先輩に背中を押されながら、ピッチに立つ一人が、身長191cmの大型DF安藤智哉だ。愛知県出身の安藤は、2021年に加入した当時J3のFC今治からプロキャリアをスタート。2023から24年までJ2・大分トリニータでプレーし、今季から最高峰J1リーグに参戦したばかりの“成り上がり組”である。堂々たるプレーでアビスパ福岡の新指揮官・金明輝監督の信頼をつかみ、J1リーグ第2節のガンバ大阪戦からレギュラーを奪取。瞬く間に守備リーダーに君臨するようになる。関係者も「安藤の評価が急上昇し、引き合いが多くなっている」と話していたが、4月に福岡がJ1首位に立った時点で、Jリーグ屈指の注目DFの仲間入りを果たしていたのだ。
遅咲きの逸材のE-1選手権参戦はある意味想定内だったが、実際に今大会の初戦ホンコン・チャイナ代表戦で代表デビュー。3バック右で高さと強さ、縦につけるパス、攻撃の組み立てといった多彩な能力をアピールした。ラストのドンピシャヘッドはゴールを認められず、悔しさも残っただろうが、初キャップとは思えないほどの安定感を示したのは間違いない。香港戦の6−1に貢献し、2−0で勝った中国戦をベンチから見ることになったが、目の前で凄まじい闘争心を前面に押し出す38歳DF長友佑都の一挙手一投足には頭が下がる思いだったという。
「ピッチ内外であれだけ影響力のある選手って、あまりいないなと思いますし、想像よりもすごかった。気持ちの面を含めて、やっぱりこれまで第一線で戦った選手だなと。中国戦で90分走り切る姿から刺激を受けた。自分もやっていかないとなと感じました」
安藤は神妙な面持ちでコメントしたが、長友から学んだマインド、闘争心を今回の大一番にぶつけるしかない。宿敵・韓国は、オ・セフンにせよ、チュ・ミンギュ、イ・ホジェが出るにせよ、最前線の1トップは高さと競り合いの強さを兼ね備えている。そこにクロスを供給するウイングバックも能力が高く、2列目のムン・ソンミン、イ・ドンギョンの決定力がある。そういうタレントたちにスキを与えないのが、3バックの一角に陣取る安藤の重要タスクなのだ。
「誰が出ても高さがあるというのは、分析でも言われていること。その高さ対策とセカンドボールが大事になってくるんで(守備陣の)チャレンジ&カバーというのは、普段以上に意識しないといけないと思います。オ・セフンに関しては、Jリーグでもやりましたけど、高さもあって体もパワフルな選手。自由に競らせないようにストレスをかけるとか、そういった駆け引きもやっていきたい。韓国は彼だけじゃなく、他にも個で打開できる選手がいるので、本当に一人だけにならず、組織で警戒しながら、日本のサッカーを見せたいです」
安藤は自身のやるべきことを明確にして、ピッチに立つつもりだ。過去の日韓戦で覚えているゲームを問うと、2012年ロンドン五輪の3位決定戦、2019年E-1選手権最終戦などを挙げた。これはいずれも日本が苦杯を喫したゲーム。だからこそ、簡単な戦いにはならないと痛感している。
「自分が勝たせるイメージを持って準備したいですね。本当に生き残るためには、ここが勝負。今回勝って、Jに帰ってからも高いレベルのパフォーマンスを出せば、自分の評価も自ずと上がる。そうなるように目の前の一戦に集中したいです」
まずは地に足を付けて一つひとつのハードルをクリアするというのが、安藤のスタイルだ。J3今治、J2大分、J1福岡と階段を駆け上がれたのは、まさに地道な努力の結果に他ならない。そこからもう一段階、高いステージへ飛躍できるかどうかは、本当に日韓戦次第。安藤智哉というポテンシャルの高いDFの命運を左右することになりそうだ。
1年後の北中米ワールドカップを視野に入れ、日本代表のDF陣の現状を見ると、冨安健洋と伊藤洋輝が長期離脱中で、谷口彰悟もケガから復帰したばかり。板倉滉はステップアップ移籍が噂されながら足踏み状態で、トッテナムへ赴いた高井幸大も試合に出られるかどうか分からない。故に国内組DFに食い込める可能性が少なからずある。安藤にはそのチャンスをガッチリとつかみ取ってほしいところだ。“日韓戦勝利のキーマン”として、見る者を驚かせる際立った働きができるのか。背番号16の規格外のスケール感に期待を寄せたいものである。
取材・文=元川悦子