“女優兼ケアマネ”『牡丹と薔薇』出演俳優が“二刀流”に挑む「介護とお芝居は似ていると思う」

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2025年07月21日 16:00  週刊女性PRIME

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北原佐和子さん 撮影/佐藤靖彦

 現在、「女優」と「介護」という、2つの職業を両立させている北原佐和子さん。どちらも楽な仕事ではないが、北原さんのように、女優ながらに別の仕事に挑む人たちが増えている。農業、大学教授、写真家……“どっちも本業”の二刀流の才能がまぶしい!

“人を笑顔にできる仕事”という意味で似ている

 女優と介護、一見まったく異なるジャンルで活躍する北原佐和子さん。渡された名刺にはケアマネジャー、介護福祉士、女優の肩書が並ぶ。

 40歳を過ぎて介護の世界に足を踏み入れた北原さん。伝説の昼ドラ『牡丹と薔薇』で浮世離れした人妻を演じた後、本格的に介護の仕事へ。

 ホームヘルパー2級を取ったのを皮切りに、50歳で介護福祉士、53歳でケアマネの資格を取得。56歳のときには准看護師の資格も取った。

 今は在宅介護支援事業所での勤務が週3回、介護イベントが月2回。女優としては12月の舞台『女たちの忠臣蔵』の上演を控え、稽古の日々が始まろうとしている。

女優の仕事と介護の仕事は“人を笑顔にできる仕事”という意味で似ているんです

 と、北原さん。どちらの仕事にも情熱的に取り組む姿勢が素敵だ。ところが、その“女優業と介護業の二刀流”に疑問の目を向けられることもあるという。

中途半端に見られることも多いんです。介護の現場で“女優がここに何しに来たの?”という態度をとられたことも。実際、始めたころには実の妹にさえ“お姉ちゃんに何ができるの”って言われました」(北原さん、以下同)

 北原さんの妹は看護師だ。

当時、私は41歳で、妹は40歳。すでに看護師として何十年ものキャリアがあった妹の言葉が本当にショックで何も言い返せなかったけど、後からがぜん、パワーが出てきた。その後、看護学校に行ったときにも、やはり“何がしたいの”と言われたんですが“何がしたいのか自分でもわからないときがあるのに、あなたにわかるわけないでしょ”って気持ちになって、逆に開き直りましたね(笑)

 看護学校時代にも、先輩から厳しい指導があった。

本当に厳しくて、つらくて苦しかったけど、そんな苦しさは女優業でも味わってきました。厳しい先輩もいましたから。いろんな苦しみで私は強くなれたのかも。今の自分なら大概のことには“まかせて”って対応できるかしら。時間はかかっても、じっくりきちんと向き合えば大丈夫だという思いもあります

まだまだこれからの還暦ケアマネ1年生

 例えば現場で“利用者が食事を食べてくれない”といった相談があったとする。

まず“ごはん食べたくない”という人に、私は“食べて”って強要しません。しっかり“なぜ食べたくないのか”を聞き、気分を切り替える対応をすることもあります。時には雰囲気を変えて“そうだ。ちょっと今日ね、私がおみそ汁を作りました。おいしくできたから飲んでほしいな〜”なんてお声かけをしたり。もちろん、それでうまくいくこともあれば、いかないこともありますけど

 去年はグループホームでケアマネ業務を行っていた北原さんは、今春から在宅でのケアマネ業務をスタート。

 ホームの中の限定的なケアとは違い、その人の暮らし全般に関わる包括的な支援となる。医師、看護師、ヘルパー、専門職ら多くの地域資源が一丸となり、チームで利用者の生活を支えている。

私は自宅にお住まいの方のケアマネ業務をしたいと思っていました。まだまだこれからの還暦ケアマネ1年生ですよ

 ケアマネジャーは利用者宅を訪問し、どんな日々を過ごしたいかを聞き、具体的な支援に結びつけるのが役割。神経も使う、重要な業務だ。

“明日のことが不安だ”と話される方には、じっくりとお話を聞き“こんな感じにしたら安心ですか”とご提案。足腰に痛みがある方であれば“痛みが取れるまでヘルパーさんにお手伝いしてもらったらどうでしょう”などと、具体的な解決策のプランを立てています

 そんなやりとりで、相手の表情から不安が和らいでいくのを見られることが本当にうれしい、と北原さんは言う。利用者に“北原佐和子だ”などと気づかれた経験は?

ありますよ。“はい、そうです”ってひとしきりお話をして、それから本題に入るようにしています(笑)

 北原さんが仕事で大事にしているのはコミュニケーション。それは女優でも介護でも同じ。気持ちが伝わり、人を笑顔にする瞬間がうれしい。

そもそも介護の現場で大切なのは何か。やはり人と人の関係だと思うんです。“スタッフと利用者”ではなく、人としての信頼関係を構築することが大事。これがコミュニケーションに生かされます。利用者さんとどういう形で信頼関係を構築するかは、常にアンテナを張っている。原点に立ち返ることや横のつながりから学ぶことも多いです

自分の原点に立ち返るため、時間が許す限り伺いたい

 利用者の気持ちよりも、時間や効率を優先せざるをえない介護現場の実態を見てきた北原さんは“利用者の気持ちに寄り添ったケア”や“利用者と信頼関係を築くこと”の大切さをよく知っている。

 そんな北原さんが自分の原点を見つめ直すため、たびたび訪れる場所がある。地域密着型通所介護事業所『DAYS BLG!はちおうじ』だ。ここでは認知症の症状があるメンバー(と呼ばれる利用者)の自主性を尊重し、働く機会を提供している。

介護福祉士の資格を取って“次はケアマネを取ろう”という時期にBLGに出合いました。BLGは一軒家で家庭的な雰囲気。何より素晴らしいのはスタッフと利用者さんの関係がとてもフラットなこと。自分の原点に立ち返るため、時間が許す限り伺いたい

 BLGの代表・守谷卓也さんとは6年ほど前に全日本認知症ソフトボール大会で知り合い、その取り組みに共鳴。以来、BLGのデイサービスでの取り組み、つまり洗車サービスや草刈りといった作業に同行したり、ランチやミーティングにも参加しているという。

BLGでは仕事内容も利用者とスタッフで話し合って決めています。ランチの店も注文も全員で選ぶし、施設側の都合で何かを押しつけるということがないんですよね

 取材班が訪れた日も、まず朝のミーティングで“今日は何がしたいか”を話し合う。午前中はホンダのディーラーで洗車の仕事をし、全員で決めたファミレスでランチ。もちろんオーダーは各自好きなものをチョイス。

 施設に戻ってコーヒーを飲み、ミーティングで午後の仕事を決める。この日はポスティングの仕事の班とカレーショップ用の玉ねぎを下ごしらえする班に分かれた。BLGでは利用者との“水平な関係”を心がけている、と語ってくれたのは代表の守谷さんだ。

介護する側、される側といった線引きがあってはダメ。ここは認知症であっても“普通に暮らしたい”と思っている人たちが集まるサークルみたいなもの。みんなが同じ気持ちの仲間だから“利用者”でなく“メンバー”と呼ぶんです

 古参メンバーたちと楽しそうにふざける守谷さんを見ていると、サークル仲間という表現がしっくりとくる。

1日の終わりには『振り返り』のミーティングを行うのですが、それがまたいい。その日何をして何を感じたかを振り返る時間で“家にいると奥さんに口うるさく言われる。ここは楽しい”とか、みなさんが心からの素直な気持ちを話してくれる。誰かが“自分はすぐ忘れてしまう”と言えば“私もよ”などと声が上がる。

 つい“私もです!”って参加してしまいました(笑)。利用者さん全員が、そこにいる時間を楽しんでいる。その生き生きとした表情には毎回、魅了されます。BLGは私を原点に戻してくれる大切な場所です」(北原さん)

 もうひとつの本業である女優としては、12月に久しぶりの舞台に立つ。

もう5〜6年ぶりの舞台になります。自分も年を重ねた中で、ちゃんと声が出るのか、時代劇なので、所作を忘れていないか、など心配も尽きません。共演の俳優さんも実力のある方ばかりで、すごく緊張しています。ただ、チームでひとつの作品を作りあげる、という作業はとても好きなんですよね

 ケアマネも利用者を支えるチームの一員だ。

ケアマネ業務も女優業も、どちらも人に喜びを与える仕事。私自身も日々ワクワクしながら、これからも全力で頑張りますよ

 北原さんの二刀流の日々はまだまだ続く。

まだまだいる“二刀流”俳優

柴咲コウ

 有機農業に携わる。サステナブルをキーワードにしたブランドを立ち上げ、環境省の環境特別広報大使を務めるなど、環境活動家としての顔も。農業では、有機野菜農家で土づくりの基礎から学んだ本格派。YouTubeチャンネル「レトロワグラースch.」では、畑仕事の様子や料理、北海道でのサステナブルな暮らしを発信。

小雪

 松山ケンイチとの3人の子どもとともに、青森県の雪深い村と東京での二拠点生活を続ける。自宅前のテニスコートほどの広さの畑を耕し、農薬や肥料を使わない自然栽培でニンジン、大根、ネギなどの野菜を育て、ニワトリを飼う。川釣りの魚などが食卓に並ぶという本格的な自然派。まさに自給自足、ガチの農ライフを送っている。

財前直見

 40歳で出産したのを機に故郷・大分へ2007年に生活の拠点を移す。自宅の畑で採れた野菜や果物を加工し、山菜採りやしいたけ栽培、田植えやビニールハウスのイチゴ栽培など、女優の片手間ではない本格派だ。女優の子として東京で育児をしたくなかったという財前は、大分では農業にいそしむお母さんそのものだ。

奈緒

 女優といえば撮られる側だが、写真家として撮る側にも回っているのが、奈緒。『第33回橋田賞』新人賞を受賞した注目の実力派は、「私が撮りたかった女優展Vol.3」への参加を機に、sunao名義での写真家としての活動もしている。昨年の台湾旅行では、パナソニックの「LUMIX S9」で撮った情緒あふれる街の写真が話題に。

いとうまい子

「応援してくれた人への恩返し」として、45歳で早稲田大に入学。予防医学、ロボット工学など次々に専攻を広げ、大学院博士課程では基礎老化学を学ぶ。今年4月からは、東京大学大学院理学系研究科に所属し、情報経営イノベーション専門職大学の教授に。初講義では芸能界の闇、性接待について語った。また洗足学園音楽大学の客員教授も兼任。

取材・文/ガンガーラ田津美 撮影/佐藤靖彦

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