邦画実写では今年最大のヒットとなり、公開から絶えず大きな話題を呼んでいる吉沢亮(31)主演の映画『国宝』。公開から1カ月以上経つが、勢いは増すばかりで、公開46日間で観客動員数486万人、興行収入68億円を突破するという破竹の快進撃を見せている。
作家・吉田修一氏の小説が原作の同作。任侠の家に生まれ、抗争で父を失った吉沢演じる喜久雄が、渡辺謙(65)演じる歌舞伎役者・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の女形となり、やがて人間国宝へと上り詰めていく一代記だ。喜久雄の親友・ライバルとして共に切磋琢磨していく上方歌舞伎の名門の御曹司・大垣俊介を横浜流星(28)が演じ物語を盛り上げていく。
「二人藤娘」「曽根崎心中」をはじめとする歌舞伎の人気演目を吉沢と横浜が実際に演じたことも話題で、クランクインの1年以上前から稽古を重ね、すり足から扇子の扱いまで、基礎から徹底的に練習したという。
果たして、歌舞伎に精通するプロはどう見たのか。演劇評論家の上村以和於氏は、吉沢と横浜の演技について「実によく勉強されたという印象」だと高評価する。
「私自身も映画を観て思ったのは2人の素晴らしさですよね。歌舞伎俳優の役を演じて、舞台の上で演じる場面がたくさん出てきますよね。普通はそういうところで、ちょっと “あちゃ〜”と思ったりすることがありがちなわけですけれど、2人とも実によく勉強されたというか、よく頑張ったなという好印象でした。
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本物の歌舞伎座の舞台だったらという話ではありませんが、少なくとも映画のあの役として色々な演目を踊ったりするところは、よくやっているなと思いました。逆に言うと、私生活の部分にせよ舞台に上ることにせよ、中途半端にやるとそこは非常にちゃちな感じがすることがありますが、そういうことを感じさせなかったです」
そうした確かな演技の背景に、上村氏は「歌舞伎に対する作者からのリスペクト」をあげる。
「登場人物は、実在する坂東玉三郎さんや6代目中村歌右衛門さんを連想させますが、実際には歌舞伎をよく知ればこそ、妙なツッコミが入る余地のないオリジナルのキャラクターを違和感なく描き上げることができたのだと思います。
歌舞伎を知らない人が見ても、歌舞伎の奥深さ、芸を極める孤独感などが感じられるのではないでしょうか。一方で、歌舞伎を知ってる人から見ても嫌なところはなかったと思います」
ストーリーの波乱万丈ぶりも、うまく歌舞伎の世界に落とし込めていると上村氏は評価する。原作者の吉田氏は、歌舞伎俳優の中村鴈治郎(66)の協力のもと3年間にわたり黒子として歌舞伎の幕内で学び、同作を書き上げている。
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「この作品は、歌舞伎の世界が舞台になっていますが、2人のメインキャラクターの葛藤や成長の物語だったりと、ストーリー自体は歌舞伎と離れている部分もあるといいますか、歌舞伎の世界をうまく利用して作られていると思います。
歌舞伎ファンでなくても誰もが引き込まれるストーリーを、歌舞伎のことを深く理解されている作者によって、見事に歌舞伎の世界の中で表現された作品になっていると思います。黒子になってまで取材しているとのことなので、相当に歌舞伎をお好きでリスペクトがあるのだと思います」
かつては人気漫画『スラムダンク』が日本にバスケットを普及させる後押しをしたように、同作が歌舞伎の間口を広げる可能性があると上村氏は言う。
「実際に歌舞伎をご覧になってどう思うかはまた別の話ですが、興味を持って自然に見ていれば別に難しくはないんですよ。難しいと思った人は離れますが、好きになった人は別に難しいと思わずに好きになってるってわけですから。
もちろん奥が深いという意味では難しいというのは難しいわけでしょうが、これは別に歌舞伎に限らず、バスケットボールだろうと野球だろうと、何事も奥が深いわけですから。これをきっかけに歌舞伎に興味を持って本物の舞台を見てみたいと思う人も出るかもしれませんね」
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歌舞伎鑑賞のプロをもってして、“嫌なところが全くない”と言わしめた同作。作者や演者が歌舞伎に対してどのように向き合ってきたかが窺い知れるーー。
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