
◆Pat Martino「Days Of Wine & Roses」
村上春樹というのは僕の本名です。親につけられた名前です。まさか職業作家になるとは思ってもみなかったので、ペンネームのことは考えもしませんでした。本名で原稿を応募して、それが文芸誌の新人賞をとって、わけのわからないうちにそのまま作家になってしまいました。今となっては後悔しています。ペンネームにしときゃよかったなあ、と。
正直言って、本名でものを書いていると、いろいろ困ることが多いんですよね。病院なんかで名前で呼ばれたりすると、まわりの人はみんなこっちをじろっと見るしね。クレジットカードにも名前がついているから、場合によってはちょっと使いにくいなあ、というときがあるし。なんか人前で裸にされた、みたいな感じがすることもあります。
でも、じゃあ村上春樹を捨てて、どんなペンネームにするかっていうと、それがなかなか思い浮かばないんですよね。猫に名前をつけるのは至難の業(わざ)だとT・S・エリオットは言ってますが、自分にペンネームをつけるのもそれに劣らず難しいです。ヒトのラジオネームだと、「堕落したラクダ」とか「牛に引かれていきなりステーキ」だとか適当なものが気軽につけられるんだけど、自分のペンネームは難しいです。だからまだしばらくは「村上春樹」でやります。『ノルウェイの森』の著者名がある日突然「幕の内弥太郎」に変わった、なんてことはまず起こりませんので、ご安心ください。
ちょっと前に免許証の更新に行って、出来上がりを待っていたのですが、しばらくしたら「ムラカミハルキさん」と呼ばれて、カウンターに取りにいったら窓口の女性に「ムラカミハルキさん、あら、同姓同名なんですね」と言われました。「ええ、そうなんですよ。ほんとに迷惑で……」とか言って逃げてきました。そういう楽しいこともたまにはありますけど。
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でも、長年にわたる我慢強いリハビリを経て、新しくゼロからギターを学び直し、1980年代半ばにはジャズ・ギタリストとして再起しました。僕も再起後の彼の演奏を生で聴きましたが、そりゃ素晴らしかったですよ。奇跡のギタリストと呼ばれていました。4年前に亡くなりましたが。
そのパット・マルティーノの演奏する「酒とバラの日々」を聴いてください。これは彼が病に倒れる寸前、1976年の録音です。バックはギル・ゴールドスタインのピアノ、リチャード・デイヴィスのベース、ビリー・ハートのドラムズという豪華なメンバーです。
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<番組概要>
番組名:村上RADIO 〜村上の世間話7〜
放送日時:7月27日(日)19:00〜19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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