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あの世から先祖の霊が帰ってくるというお盆の時期。さまざまな怪奇現象を描いたホラー漫画を読むには、もってこいの時期と言えるだろう。
参考:放り投げたくなるほど、気味の悪い書物ーー『近畿地方のある場所について』ホラー小説としての異質さ
そこで本稿では、この機会にぜひ読んでほしい名作ホラーを紹介。とくに衝撃的な展開の作品を厳選したので、背筋のぞっとする体験を味わってほしい。
■押切蓮介『サユリ』
古典的なホラーの展開には飽き飽きしてきた……。そんな人にオススメしたい異色作が『サユリ』だ。
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『ミスミソウ』や『ハイスコアガール』などを代表作にもつ押切蓮介が2010年に発表した作品で、2024年8月には『貞子vs伽椰子』や『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズなどで知られる白石晃士監督によって実写映画化された。
物語は、7人家族の神木家が夢の一戸建てマイホームに引っ越してくるところから始まる。父親の昭雄はいかにも浮かれた様子で、みんなで“家族らしい”ことをしたいと語るのだが、その矢先に突如命を落としてしまう。さらに残された家族たちは失意に沈む暇もなく、次々と奇妙な現象に襲われていく。
“家”という閉鎖空間を舞台としたハウスホラーで、作中で描かれるのはあまりにも凄惨な出来事だ。しかし人間が一方的にやられるだけでは終わらず、物語の後半で意外な展開に突入していくのが同作最大の見どころとなっている。
なおコミックスは通常版で全2巻、完全版は全1巻とコンパクトに物語がまとまっているので、気軽に手を出せるのもうれしいところだ。
■的野アンジ『僕が死ぬだけの百物語』
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『僕が死ぬだけの百物語』は的野アンジが手掛けたオムニバスホラー漫画。すでに完結しており、今年5月には最終巻となる10巻が発売された。
「百物語」が題材となっており、とある少年が一晩に一つ、怖い話を語っていくという形式。驚くべきは、その内容がいずれも独創的なものばかりということだ。
たとえば作者のXに投稿された第八夜「喧嘩」は、先を予想できない展開によって大きな話題を呼んだ。
とある女子学生が前日に喧嘩した友人の家に向かい、謝ろうとすると、インターホンを押す直前に「押さないで〜」という声が聞こえてくる。さらに友人は次々とひどい言葉を投げかけ、彼女を帰らせようとする上、別れ際には異様な形相を浮かべてドアの隙間から顔を出してくる……。あまりに謎めいた展開だが、最後に驚愕の真相が明らかになるのだった。
さらに個々のエピソードとは別に、語り手の少年をめぐるメインストーリーも謎が謎を呼ぶ展開となっている。最終的には全100話で「百物語」を完走するのだが、そこで何が起きるのか実際に読んで確かめてみてほしい。
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■伊藤潤二『富江』シリーズ
伊藤潤二といえば、言わずと知れたホラー漫画の大家。今年7月には“漫画のアカデミー賞”とも呼ばれるアメリカの「アイズナー賞」で殿堂入りを果たしたことで話題を呼んだ。
『富江』シリーズはそんな伊藤の代表作。異様なほどの美しさをもつ少女・富江をめぐる物語となっている。
富江は男性を破滅へと導くファム・ファタール的な人物として造形されており、出会った人間を手当たり次第に誘惑し、その美しさの虜にしていく。しかし富江自身は「私は本気で男を好きになんかならないわ」と語っているように、男性を自尊心や虚栄心を満たすための道具としか捉えていない。
また、富江に夢中になった男はなぜか残虐な性質が引き出されることに。大抵最後には富江を殺害し、その肉体をバラバラにするのだった。
だが、富江はどうやら人類とは違った生き物らしく、驚異的な再生能力をもっており、どれだけ小さな肉片になっても再生することが可能だ。しかも1つの肉体に戻るのではなく、それぞれが1人の富江になろうとするため、無限に増殖していく。
欲望に狂う人間の恐ろしさや、得体の知れない富江の生態などが作品の見どころ。たとえば「もろみ」という短編では富江をミンチにしてタンクに入れ、日本酒を造ろうとする男たちの悲喜劇が描かれていた。
一口にホラーといっても、そこで描かれる恐怖の質は多種多様。今回は長年愛されてきた名作から近年の話題作まで幅広い漫画を取り上げているので、自分の“恐怖のツボ”にハマる作品を探してみてほしい。
(キットゥン希美)
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