インタビューに答える元外交官の赤尾信敏氏=7月28日、東京都中央区 ―保護主義が第2次世界大戦に結び付いた。
戦前は世界銀行や国際通貨基金(IMF)はもちろん、国際的な貿易機関もなく、各国が好き勝手にしていた。それだけが戦争の原因ではないが、秩序がなければ経済が混乱するだけでなく、政治的な結束も保てない。
―自由貿易体制は戦争の反省か。
保護主義と戦うために関税貿易一般協定(GATT)をつくり、自由貿易のルールを築いてきた。その方が皆が富める、経済成長のために良いと誰もが理解していた。
―世界貿易機関(WTO)の意義は。
最大の価値は紛争解決制度だ。GATT時代は貿易紛争を解決する強制力がなく、負けた国が「国際基準に照らして公平な判断だ」と国内を説得できるルールが不可欠だった。
―WTO紛争解決制度の中核「上級委員会」は、米国の委員選任拒否で機能不全に陥った。
1940年代から率先して自由貿易を拡大し、ルールを整備してきた米国自身がそれを壊している。トランプ米政権は、ルールに縛られては好きにできないと無視し始めた。今の関税措置を違反だと争えない状態は異常だ。戦後、貿易体制の秩序がここまで壊れたことはなく、戦前のような無秩序な世界になりつつある。
―近年の保護主義の強まりをどう見る。
トランプ政権の強権的な国内産業保護の思想は、WTOが築いてきた自由貿易体制の理念に逆行している。日本が果たすべき役割は、米国抜きの多国間の枠組みを広げていき、自由貿易の受け皿をつくっておくことだ。
赤尾 信敏氏(あかお・のぶとし)京大法卒。61年外務省入省、GATTウルグアイ・ラウンド首席交渉官、ジュネーブ国際機関代表部大使などを経て99〜01年タイ大使。