「辞めたいと思った時期も…」引退を考えた麻生久美子(47)が『時効警察』で救われた“意外な理由”

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2025年09月10日 09:31  日刊SPA!

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麻生久美子さん
 1995年の映画デビューから30年になる麻生久美子(47歳)。彼女が出演する映画『海辺へ行く道』が現在公開中だ。この作品では、海辺の街を舞台に、思春期の子どもたちと、秘密を抱えたいびつな大人たちの姿を映し出している。
 主人公を取り巻く“大人”のひとりを演じた彼女に、子どものころに抱いていた大人のイメージを訊ねると、「大人って“なんでもできる人”だと」「そんなことないんだと気づいてがっかりしました」との答えが返ってきた。さらに俳優業に悩んだ時期のこと、盟友・オダギリジョーの印象についても、キュートに笑い飛ばしながら話してくれた。

◆映画になると“監督のマジック”が…

——アーティスト移住支援に力を入れる海辺の街を舞台に進む、ふわっとした優しい空気ながら、いびつさも魅力的な作品ですが、脚本の段階で雰囲気をつかむのは難しそうな感じがします。

麻生久美子(以下、麻生):そうなんですよ! 横浜(聡子)監督にも、失礼を承知で伝えてしまいましたが、脚本はあくまでもガイドのような感じなんですよね。もちろんストーリーもセリフもあるのですが、横浜さんの作品って、そのセリフをもとに、現場で撮られた映像で出来上がっていくので、脚本の段階ではどうなるかわからないんです。

——横浜監督と組むのは3作目(『ウルトラミラクルラブストーリー』『俳優 亀岡拓次』)ですが、これまでの作品を含めた印象ですか?

麻生:はい。今までの経験から、「この通りにはならない」と思って脚本を読んでいました(笑)。三好銀さんの原作漫画がありますけど、そちらも淡々としていて、とても横浜さんっぽいと思いました。私は原作の、登場人物の表情が乏しい感じがすごくいいなと。こちらの想像力をかき立ててくれるなと思っていましたね。そのことで不穏な感じもしましたが、そこが面白くて。横浜さんもそういうところに惹かれていらっしゃるだろうし、似た世界観があるのだろうと思いました。ただ映画になると横浜さんのマジックがかかるので、全然違うものになるんじゃないかと。実際そうなりました。

◆40歳を過ぎて「どう見ても大人だよな」

——本編にはさまざまな大人たちが登場しました。麻生さんが子どものころに抱いていた大人のイメージは、どんなものでしたか?

麻生:子どもの頃は、大人って「なんでもできる人」だと思っていました。大人にさえなればしっかりするし、何でもできると思っていたんですけど、実際に自分が大人だと言われる年齢になると、そんなことないんだと気づいてがっかりしましたね。

——がっかりですか(笑)。

麻生:しっかりした大人になるためには、それなりの勉強もしないといけないし、それなりのものを積んでこないといけない。ただ年齢を重ねるだけじゃダメなんだと。「あれ、ひょっとして自分、大人と言われる年齢になってる?」って、ふと振り返って(笑)。

——そうした年齢だと感じた瞬間とは、いつぐらいのときでしたか?

麻生:40歳くらいかな(笑)。30代くらいでも少し考えましたけど、「でもまだ子どもかな。まだ言い訳できるか」と思って自分を眺めてました。でも40歳を過ぎると「どう見ても大人だよな」と(笑)。そこからは言い訳せずに、ちゃんと大人らしい振る舞いをして、ちゃんとしないといけないと考えるようになりました。

——ちゃんとした大人、ですか。

麻生:子どもとどう向き合うかとか、幻滅されたくないというんですかね。“大人としてどうあるべきか”みたいなことを意識しだしたのは40代に入ってからかなと思います。

◆『カンゾー先生』で高い評価も「自信のないままだった」

——もともと子ども時代の夢はアイドルだったそうですね。

麻生:そうです。

——それが10代のときに映画デビューされて、1998年の『カンゾー先生』で一気に評価されました。その後、ずっと活躍されていますが、辞めたいと思う瞬間はありましたか?

麻生:よくお話していることになってしまいますが、25歳〜26歳の頃に、辞めたいと思った時期がありました。その頃、自分の芝居が好きだと思えなくて、そんな思いでしているお芝居を皆さんに見ていただくなんて失礼なんじゃないかなと……。もちろん一生懸命にはやっていましたが、どこかモヤモヤしていて、「このまま続けていても」と思っていました。そんなときに、『時効警察』(2006年・テレビ朝日系)という作品に出会って変わったんです。

——「自分の芝居が好きじゃなかった」というのは、『カンゾー先生』で急に大きな評価を得たことも、プレッシャーになったのでしょうか。

麻生:あの評価に関しては、すべて今村昌平監督のおかげです。作品への評価であって、自分への正当な評価だとはもともと思っていません。当時も「もっとちゃんとお芝居できたらよかった」と後悔のほうが大きくて、賞をいただけるような芝居なんてできていないと思っていました。

——しかし多くの賞にも輝きました。最優秀助演女優賞、新人俳優賞を受賞した、日本アカデミー賞受賞式のときのことなどは、覚えていますか?

麻生:舞い上がっちゃってますし、よくわかりませんでした。急にいろんな賞をいただいたり、取材してもらったり。でも自信はないままでした。「なんでもっとできなかったんだろう」という気持ちのまま、悶々としていましたね。

◆『時効警察』との出会いで心境が変化

——30代から下くらいの世代ですと、麻生さんに俳優を辞めたい時期があったことや、麻生さんが『時効警察』で初めてコメディ演技に挑戦したことを、想像できない人も多くなっている気がします。

麻生:そうなんですかね。確かに『時効警察』の印象が強いとは言われるので、そうなのかもしれません。私自身は、本当にあの作品に救ってもらいました。

——それまでは何にモヤモヤして、苦しんでいたのでしょうか。役柄の幅が狭いと感じていたとか?

麻生:簡単に言えばそういうことになりますかね。やっぱり幅があるほうが面白いじゃないですか。『時効警察』までは、幅がなかったんですよね。イメージが付いていたというか。でも今思えば、自分の捉え方もそうなっていたのかもしれません。表現の幅が狭すぎたというか、自分でも狭くしていたのかもしれない。「この役も、もっとこう表現してもいいんじゃないか」みたいなところを、自分で同じところに持っていっていたのかもしれません。それで「いつもこういう芝居をしていても……」とモヤモヤしていってしまった感じです。

——そんなときに全く違う作品、役どころをやって。

麻生:救われました。自分がやったことのないコメディというジャンルと、その難しさが面白くて、知らない世界がいっぱいありました。「こんなに難しいんだ。やりがいがあるな」と感じましたね。

◆プライベートなことは過剰に発信したくない

——現在、本当にいろんな役をされています。『海辺へ行く道』では、どことなく不思議な空気を醸す主人公の親戚の女性ですが、連続テレビ小説『おむすび』ではヒロインのお母さん、今年4月クールに放送された主演ドラマ『魔物』(テレビ朝日)は過激シーンも話題でした。

麻生:イメージとは違う役が来るのも嬉しいです。『魔物』のような、チャレンジングな役は、逃したくないと思いますね。

——お芝居はもちろん、舞台挨拶やこうした取材でいつも明るく笑っている麻生さんもステキですが、一方でつかみきれない感じがあるところも魅力なのかなと。

麻生:そうなら嬉しいですけど。うふふ。演技とは別のことですが、自分のプライベートなことは、隠すつもりもないですけど、過剰な発信はしたくないとは思ってます。

◆オダギリジョーはミステリアス?

——『魔物』にも少し顔を出されていた『時効警察』のお仲間で『THE オリバーな犬〜』の監督でもあるオダギリジョーさんも、ミステリアスな感じがします。

麻生:ええ! オダギリさんがミステリアス? ヤダ、全然ミステリアスじゃないですよ(笑)。ステキな方ですけどね。というか、面白いです。本当に面白い。

——ちなみに、『ウルトラミラクルラブストーリー』で共演された松山ケンイチさんが、『海辺へ行く道』では、ちょっとだけ声での出演をされていました。松山さんもつかみきれない魅力があります。

麻生:たしかに独特な魅力がありますね。

——今回も声だけですぐに分かりました。

麻生:え、私、全然わからなかったです。

——ええ?(笑)

麻生:マネージャーに聞いたら「カナリアの声ですよ」って言われて。「えー、すごいね」と言ってたんですけど、マネージャーも分かってなかったみたいで。全然違っていました。あはは!

<取材・文・撮影/望月ふみ>

【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi

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